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新しい経営システムを考える
〜常識と環境の転換が必要とされる社会〜


アートマネジメントとは、音楽や美術、演劇などの芸術家達の活動と、社会をうまく結びつけていくための「手腕」です。

ちなみに、「アーツ・マネジメント」(※1)という本の中では、アートマネジメントについて、「アートマネジメントの概念や概要について説明しなくてはならないとき、アート(芸術)自身の概念が多様であるがために、アートマネジメントの中心はマネジメント(経営学、財政学など)でありながら、多元的で学際的なアプローチが必要である」と強調されています。

最近、アートマネジメントについての、公共ホールや企業、大学などからの注目が高まりつつあります。しかし、現状では、本格的に実践できるノウハウが確立されていないようです。今後現場で役立つアートマネジメントの方法を模索することが、急務と言えるでしょう。


■「演劇をビジネスに!」というけれど・・・

アートマネジメントの概念が日本に入ってきて、まだ10年余りしか経っていません。逆に言えば、もう10年も経っているのです。

しかし、いろいろな所で、「演劇をビジネスに!」と謳われるようになっても、未だ演劇界を含む芸術分野において、「マネジメント」という考え方を積極的に取り入れていこうという人々は少ないようです。それどころか、マネジメントに対して否定的な目を持つ人もいます。

舞台芸術環境フォーラム代表の衛紀生氏が、季刊誌「演劇人」の対談記事で次のよう語っています。

「神戸で経験したのですが、演劇で被災した子供たちをケアしたり、仮設住宅の高齢者のコミュニティづくりをするボランティア組織を作ろう、そして継続性を担保するために経営というものを考えようといったら相当の反発を食らいました。マネジメントはボランティアに関係ない。善意なんだと

そうではなくて、継続的に良いサービスを供給するためには、善意をマネジメントする、あるいはアートをマジメントするということがないと、単に同好の士や善意の士が集まって、資源のないところでやっていくだけです。それでは自己満足で終わってしまう。サービスをする相手を見据えて仕事をしていないことになってしまう。」(※2)

このように、日本が作ってきた社会システムの性質として、演劇界の中に、“常識のとらえ方”の違い、“慣習”の違いから、マネジメントに対する意識格差が存在しています。この現実を、「演劇界の遅れ」や「文化行政の曖昧さ」等という問題として捉えるだけでなく、もっと根本的な問題へと掘り下げて対処していく必要があるのではないでしょうか。


■新しい経営システムの模索

また、演劇のビジネス化を考えた時、マネジメントのノウハウだけを取り入れようとするのでは、限界があることを感じている現場の方々も少なくないでしょう。

衛氏の指摘から、経営する(マネジメントする)という視点が持てない理由のひとつに、継続性への責任不在からなるものがあると言えます。

演劇界だけでなく、「芸術活動をする人々に継続性を持て」と言うことは大変難しいことかもしれません。これまで、自由に演劇活動をしてきた演劇家らは、自らの活動に社会的な責任をもつ必要もなかったし、それを求められることもなかったのです。

この現状において、文化社会学の佐藤郁哉氏は著書(※3)の中で次のように言っています。

「日本の劇団の不幸の一つは、『そもそも、劇団とはこのようなものだ』という明確なイメージを構成員に対してもあるいは外部に対しても呈示できるような一つの制度/組織(institution)として社会の中に確固とした位置を占めることができなかった点にある。」として、各劇団の「組織アイデンティティ」の必要性を指摘しています。

この「組織アイデンティティ」の必要性とは、つまり、まず自らの活動枠もしくは理想像を定めることで、組織自体の行動の方向性を決め、またその行動の結果について自ら評価する必要があるということです。そうすることによって、劇団組織が外側だけでなく、内面の強さをも合わせ持つことができる、というのです。

今、演劇界において、新しい経営システムを考える上で重要なのは、「目先だけの手腕・手法としてのアートマネジメントがどうあるか」ということよりも、まず、自らの「顔」はどのようなものであるか、強みはどこか、向けるべき相手は誰か、またそれは何か、等々を、自らの中に定める必要があるのではないでしょうか。

次回は、そういった「組織アイデンティティ」を強く持った劇団をご紹介しながら、新しい経営システムについて、さらに深く探って行きます。どうぞお楽しみに!


※1:「アーツ・マネジメント」 出版・財団法人放送大学教育振興会
                著者・川崎賢一、佐々木雅幸、河島伸子
※2:季刊誌「演劇人」第三号 (発行:演劇人会議)の特集座談会
   「地域劇場の使命と新しい経営システム」
※3:「現代演劇のフィールドワーク-芸術生産の文化社会学-」
     出版・財団法人東京大学出版会  著者・佐藤郁哉

  

(文・磯崎 美奈)2003/1/20