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新しい「組織アイデンティティ」が劇団運営を強くする 〜マネジメント戦略を考える前に〜 前回、「組織アイデンティティ」の必要性について触れました。「組織アイデンティティ」とは、一般企業にとっての「企業理念」に近いものです。ところが、活動領域が曖昧な芸術関連団体の場合には、「自分たちの活動す る枠を、どこからどこまでに設定するか?」ということを重点的に考えることで もあります。 どんな団体であっても、表現活動をする限り、そこには必ず「考え」や「理念」が存在します。 しかし、アートマネジメントという考え方のもとに「組織(劇団)経営」をどうやってゆくべきかを考える場合、自分たちの組織の強みや弱み、特色などの要素をあらかじめ把握し、「組織アイデンティティ」として設定する必要があるのです。 今回は、「組織アイデンティティ」を明確に打ち出しながら、経営に活かしている劇団「わらび座」を例にとって、アートマネジメントを成功させる組織のあり方を探ってみましょう。 ●劇団「わらび座」の組織アイデンティティ わらび座は、1951年2月、原太郎氏を中心に東京で旗揚げし、2年後に拠点を“民謡民舞の宝庫”である秋田県田沢湖町に移しました。 現在は、株式会社わらび座が経営している複合的文化事業体「たざわこ芸術村」を活動拠点にしています。 彼らは、「新しい日本の歌と踊りを創造すること」を目指し、全国各地の民謡・民族芸能を取材調査しました。そして、それらを舞台化し、全国に向けて精力的に発信していったのです。 その活動の中で、「民族伝統をベースに人間の根源に迫り、さまざまな表現様式を通じて人々の心に感動を生み出すこと」を劇団の“使命”としてかかげ、わらび座の存在価値を明確にアピールしています。 たざわこ芸術村にある「わらび劇場」では、同一の作品を、年間220ステージ前後のロングランで上演し、この場所での公演を終えた演目を、国内6ヶ所に構えた事務所を中心に、それぞれの地域の文化活動やまちづくりに参加しながら上演しています。 ここに、活動理念だけではない、自分たちの特色を理解した組織アイデンティティを見ることができるのです。 ●劇団「わらび座」の経営システム わらび座は、わらび劇場を持つことで、演劇界で商業的に成功するために不可欠な要素だといわれている「ロングラン公演」と「レパートリー公演」の両方をあわせ持つことができました。 しかし、わらび劇場が常打ち小屋になったのは、実はつい最近のこと。施工から21年が経った1995年のことです。 それまでは、「実験劇場」として、近隣地域との交流や、お正月やお祭りの時に数ステージ行う程度だった劇場が、この変身により、わずか数年の間で、商業的な成功への道を切り開いていったことになります……! ここで、「劇場を持つことが、まず大変だ!」と思われるかもしれません。 わらび座の場合、わらび劇場の建設費用はどのように工面したのでしょうか? 約6億円の建設費は、全国のわらび座ファンからの善意のカンパの他、3年間据え置きの年利3%の「一口1万円貸付金」、劇場の座席を1席買うスタイルの「1万円椅子基金」などによってまかなわれたそうです。 このような資金繰りは、わらび座が自分たちの組織アイデンティティを明確にアピー ルしなければできなかったことでしょう。 わらび座は、芸術創造団体としての使命が重要とされました。また、その他の経営資源も乏しかったため、原氏の劇団経営における方向転換が、マネジメント面にまで及ぶまでに、かなりの時間がかかったのでしょう。 現在、わらび座が抱える人員数は約350名。所属する役者は100名を超えるものの、制作営業を専門に行うスタッフは、50名に満たないといいます。 組織構成としては、まだまだ理想からは離れているものの、芸術村のホテルやレストラン経営を含め、上層部は今後のヴィジョンを立て、それに向かってアートマネジメントを実践しようとしています。 その1つとして、2000年から本格的なリクルート活動を開始しました。 創設からの強い熱意と行動力でわらび座を支えてきた40〜50代と、新卒で採用された20代の若者たち。ここに、大きな世代ギャップを抱えた営業部が誕生したのです。 ●「組織アイデンティティ」の内部共有 組織アイデンティティを設定することがゴールではありません。また、それに沿った戦略的なマネジメント活動をただ行えば良い、というわけではありません。 アートに限らず、組織のマネジメントには、必ず「人」における問題があります。特に、表現活動を行う団体であればなおさらのことです。 例えば、新劇の舞台を目指す集団に、ミュージカルを目指す人が入って意見を戦わせても、団体は決してまとまりません。子どもに見せたいと思って作品を作っても、それを老人ホーム施設に売り込みに行ってしまう営業マンがいては、団体は大きな負担を抱えることになります。 つまり、自分たちの劇団、もしくは組織のアイデンティティを“枠組み”として見つ けることが出来たら、それを組織の全員がとことん納得して理解し、同じ価値観を共有することが大切なのです。 50代と20代という2極の世代で構成されているわらび座のマネジメント体制。この世代ギャップを埋めることは、並大抵のことではないでしょう。 しかし、実際に若手の営業担当者に話を聞いてみると、「わらび座らしさを大切にして、自分の手で、わらび座の良さを広めたい!」と、上層部の意識が、若い営業マンにまできちんと伝わっていることがうかがえます。これが、わらび座のもっとも強い力となっているのです――――。 芸術団体がビジネスの波に乗るには、戦略的マネジメントを考える前に、「組織アイデンティティ」を明確にすることがもっとも重要です。 この理念に対して、もし1人でも共有できない人がいれば、徹底的に話し合いをして、お互いに「何を1番大切と思っているのか?」を理解しあわなければなりません。 そうすることで、1つの作品を創ってゆく価値を数倍にも高めることが出来るのではないでしょうか。 「わらび座の概要」 わらび座 ホームページ http://www.warabi.jp/info/ 「たざわこ芸術村」 たざわこ芸術村 ホームページ http://www.warabi.or.jp/ 「地域に生きる劇場」 出版:2000年 芸団協出版部 編著者:衛紀生・本杉省三 「劇団四季と浅利慶太」 出版:2002年 文春新書 著者:松崎哲久 |
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(文・磯崎 美奈)2003/2/17
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