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「ビジネス化」という考え方の転換
〜アートマネジメントの実践に向けて〜


前回、秋田県田沢湖町を拠点に活動をしている劇団「わらび座」の例を挙げながら、「組織アイデンティティ」を活かしたアートマネジメントについてお話ししました。

わらび座は設立して53年になろうとしている劇団です。これほどの長い間にわたって演劇活動を続けられるのは、劇団の特色を理解し、自分たちが何をするために存在しているのかを明確に把握しているからです。いわば、「組織アイデンティティ」(≒企業理念)を確立した成果であるといえるでしょう。

しかし、1つの劇団が演劇活動だけで組織を継続・発展させるだけの利益を得ることは、非常に困難なことです。資金がなければ、活動自体の存在も危ぶまれてしまいます。

わらび座は幸運にも“温泉”という地域資源にめぐり合うことが出来ました。これによって、劇場を訪れるお客さんに演劇を楽しんでもらうだけでなく、温泉を活かしてさらに充実した娯楽環境を提供することができるようになりました。と同時に、活動資金を得るための重要な経営資源を獲得したのです。

これは、「演劇活動を継続するための経営資源」を活用したアートマネジメントです。もっとも、温泉と出会ったわらび座は稀なケースです。一般の劇団は、どのように経営資源を獲得するかが、アートマネジメントの実践に向けた最大のテーマとなります。


■ビジネス化=大衆化?

演劇はとてもお金のかかる芸術です。劇場費や宣伝・広告費、美術、衣装、音響、照 明、そして膨大な人件費…。これらをチケット収入だけでまかなうのはとても難しい問題です。

そのため、演劇を大衆化し、ビジネスとして成り立たせるために、様々な形態や方法が採られてきました。日本古来の伝統芸能や歌舞伎などの制度、劇団四季のやり方、商業演劇のやり方…。

わらび座のように地域に密着し、演劇以外の他の経営資源を活用しながら長期にわたって活動してきた劇団もあります。

しかし、演劇が大衆化し“ビジネス”として成功した場合、「芸術の自律性が失われる」という指摘もされています。つまり、「大衆に迎合した芸術は、その価値が下がる」というのです。

確かに、大衆に広く受け入れてもらうために、核心を突かない、浅い作品作りに陥ってしまったり、逆に観客を無視したサービスを行ってしまったりと、悲しい結果を生み出してしまった創造団体も少なくないでしょう。

けれども、劇団が「演劇活動を続ける」ためには、「演劇をビジネス化」する必要があります。「そのためには、様々な方法があるのではないか?」と考えることがアートマネジメントの第一歩なのです。

わらび座にしても、劇団四季にしても、もっと小さな団体であっても、かならず「組織アイデンティティ」を持っています。それを上手にマネジメントすることで、「ビジネスとしての成立=大衆化=芸術の自律性を喪失」という方程式を打ち崩すことができるはずです。


■異業種に学べ!

演劇活動に携わっている人々の中には、「ビジネス」という考え方に抵抗を持つ人が多いようです。

では、「ビジネス」とはどういうものなのでしょうか。 それは、「生業として成り立たせる」ことであると言えます。生きてゆくために、活動を続けてゆくために、“プロフェッショナル”となること。それがビジネスなのです。もちろん、芸術でお金持ちになろうという考え方とは、ちょっと違う考え方でしょう。

アートマネジメントには、芸術全てにあてはまる黄金比のようなマネジメント方法が あるというものではありません。いえ、もしかしたらあるのかもしれませんが、少なくとも日本ではまだ発見されていません。

特に劇団の場合は、ジャンルによって、集まった人々によって、目指すものによって、持っている理念によって、アートマネジメントの方法はそれぞれ違うのは当然です。例えば、自動車業界を見ても、ホンダの自動車生産方法があり、トヨタの販売戦略があり、日産の組織管理があり・・・といったように、マネジメントのテーマはそれぞれなのです。

大切なのは、今の演劇業界のように、低迷し続けている業界に定着してしまった“昔 ながらのやり方”にこだわるのではなく、「他業界や他分野で常識であるが、芸術分野では常識ではない」ようなマネジメント方法を積極的に取り入れて、新しい経営システムを考えてゆくことです。明るい兆しの見えない社会状況の中で生き抜き、勝ち残ってゆく企業には、必ず理由があるのです。

一般的に、「演劇」は商売ではなく芸術表現活動です。しかし、それを継続できる仕組みを作ることをしなくてはなりません。仮に、他業界から新たなマネジメント方法を導入しても、そのままの真似っこではなく、芸術分野でどのように実践すべきかを考えることが重要です。合理的・効果的なマネジメントを、自らの活動に合わせてアレンジすること。それは、演劇のビジネス化にとってのポイントとなるはずです。


■ アートマネジメントの実践に向けて

アートマネジメントを実践しようとした場合、最も注意すべきは、マネジメントを戦略的に考えることで、いつの間にか「目標(目的)」がすり替わってしまうことがあるということです。

例えば劇団の場合、当初は「芸術活動をすること」を目的としていたはずが、団体を取り囲む様々な利害関係者や資金の獲得のために行う活動によって、そもそもの目的から脱線し、「芸術活動をすること」へのモチベーションが急激に低下してしまうことが多々あります。

それは、成功していると思われた劇団やカンパニーが突然、活動を停止してしまったり、迷走しだしたりする原因のひとつだと考えられています。そして、それを防ぐには、構成するメンバー全員が「組織アイデンティティ」を共有させることしかありません。

なぜ、この活動をビジネスとするのか?
それによって、何を獲得するのか?
自分たちの使命とは何なのか?

「組織アイデンティティ」を固め、数々の失敗や他業界のやり方から学びながら、戦略的なマネジメントを実践すること。それが、アートマネジメントの第一歩なのです。

次回は、様々な問題を例にしながら「組織マネジメント」に視点を絞って、より詳しく、アートマネジメントの実践のポイントを考えてゆきます。


参考文献・資料等
「fringe」 http://fringe.jp/index.html プロデューサー:荻野達也
「アーツ・マネジメント」 出版・財団法人放送大学教育振興会
                  著者・川崎賢一、佐々木雅幸、河島伸子
「芸術立国論」(集英社新書0112) 2001年 著者:平田オリザ 出版:集英社


(文・磯崎 美奈)2003/3/17