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アートマネジメントの実践における三つのポイント

前回までは、アートマネジメントを実践する前段階に大切な、「組織アイデンティティの確立」という点についてお伝えしてきました。

今回からは、演劇を社会の中の“ビジネス”として確立させるために必要な要素について解説します。

NPO法人舞台芸術環境フォーラム地域演劇マネジメントセンター代表の衛紀生氏によると(※1)、アートマネジメントを実践する人材に必要な能力として、次の3つをあげています。

1)ヒューマン・リソース・マネジメント(人材管理・人材活用)
2)アカウンティング(会計能力)
3)マーケティング

一見、難しそうな言葉が並びますが、これらは一体どんな能力なのでしょうか?


●ヒューマン・リソース・マネージメント(人材管理・人材活用)

この言葉は、演劇分野ではあまり耳慣れない言葉ですが、一般企業ではたびたび耳にします。“人材”を会社でもっとも重要な“資源”としてとらえて、彼らの能力をきちんととらえて、その可能性を最大限に引き出すことを目的とする、人材管理の考え方です。

企画を立案する力、迅速に行動する力、商品に対する知識、その分野の専門的な力、その他、自己管理能力、人間関係を構築する力など、その企業に必要ないくつかの項目で個人を評価し、それぞれの社員の”強み”や”弱み”を把握して、戦略を立てたり、社員の能力を高めながら会社を発展させてゆくための施策を準備するのです。

演劇で言えば、「ひとつの公演に関わる人々のマネジメント能力が、その公演の成功を左右するポイントとなる」ということです。この「人」というのは、スタッフに関わらず、役者や演出家などのアーティストも含まれます。

誰の脚本で、誰が演出をし、誰に出演を依頼するのか?舞台美術や衣装のデザイン、音響・照明などのスタッフワークを仕切る舞台監督は誰か?制作を担当するのは誰で、どういうふうに仕事を分担するか?

ひとつの演劇公演には、想像以上に多くの人が携わっています。この「誰が何をするのか」を明確にして、“人材”を上手に動かすことのが、演劇界の「ヒューマン・リソース・マネジメント」であると言えるでしょう。


●アカウンティング(会計学)

どんなに小さな会社にも「経理」が存在するように、お金の管理能力は、集団を維持する上で最も欠かせない能力です。

演劇公演を行うには、役者やスタッフの人件費の他に、劇場費、チラシやダイレクトメールなどの宣伝広告費、音響や照明などの機材費、舞台美術の製作費などなど、想像以上に多額のお金が動きます。自分たちの稽古場を持っていない団体であれば、稽古場を借りるお金も相当なものです。

さらに、人を雇えば税金の処理が必要になってきますし、脚本や音楽の選出によっては、著作権使用料なども必要になってきます。

これらのお金の処理がキチンと出来ていなくては、幕を下ろしたときには大赤字で、次の活動が出来なくなってしまったり、社会的な信用を失ってしまうことにもなりかねません。

「何にいくら使ったか」、「どのくらい収入があったか」という、収支に対するお金の管理をしっかり行なうことは、団体を維持してゆく上で必要不可欠な要素であり、社会的な責任を果たす第一歩になります。

また、アートマネジメントとは継続可能な芸術活動を行なうための考え方ですから、長期的な視野を持つ上でも、資金についての収支観念は重要であるといえます。


●マーケティング

マーケティングに関する多くの書籍を執筆しているフィリップ・コトラー氏によると、マーケット(市場)とは、「製品やサービスを購買している、あるいは購買する見込みのあるすべての個人及び組織団体の集合である」と定義されています。

「誰が」「何を」「いつ」「どのように」「なぜ」買うのか、というマーケットの状態を把握して、どんな消費者にどんな商品を提供するのか調査分析することを、マーケティング・リサーチ(市場調査)と呼びます。

その他にも、「マーケティング」という言葉には、一言ではあらわせないくらいに、多くの意味があります。また、それを構成する要素も、ジャンルによって様々です。

演劇分野の場合は、主に、チケッティング、宣伝公告、集客など、観客に訴えるもの全てに対して、しっかりと把握する事ができる能力です。
(その他、演劇業界における「マーケティング」については後日、当コラムで詳しく解説してゆく予定です)

さらに、衛氏はもうひとつ付け加えるのであれば……と、「アドミニストレイティヴ・アビリティ(管理能力)」を挙げています。

アートマネジメントの実践には、様々な作業において戦略的に実行していくことが重要です。「アドミニストレイティブ・アビリティ」とは、先の3つの事柄に対して、または事業の進行に対して、全てを管理し、遂行する能力が必要だということです。つまり、人、お金、市場に関わる作業を組み合わせて計画的に実行できなければ、“話にならない”ということなのです。

次回から3つの能力について1つずつ取り上げながら、その実践ポイントについてお話していきたいと思います。

また、この3つの能力以外にも、演劇の制作の仕事については、小劇場演劇の制作者を支援するウェブサイト「fringe」の“ナレッジ”で「制作者の役割」(※2)について詳細に書かれています。是非、参考にしてみて下さい。


※1 UK-Japan Symposium「市民社会とアートの共生」
(共催:ブリティッシュ・カウンシル/国際交流基金 2003年1月31日)での発言より
※2 http://fringe.jp/index.html 「ナレッジ」より「制作者の役割」

参考文献・資料
「fringe」 http://fringe.jp/index.html プロデューサー:荻野達也
「アーツ・マネジメント」 出版・財団法人放送大学教育振興会 著者・川崎賢一、 佐々木雅幸、河島伸子



(文・磯崎 美奈)2003/4/21