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実践・3〜アカウンティング 後編

継続的な芸術活動を行うためには欠かせないアートマネジメントの3つのテーマ。

1) ヒューマン・リソース・マネジメント(人材管理・人材活用)
2) アカウンティング(会計)
3) マーケティング

今回は、「アカウンティング 後編」と題して、「決算報告書」と「予算計画書」に ついてお話してゆきましょう。

劇団が公演するとき、あらかじめ予算を立て、公演を計画し、実行していくことは、 劇団の継続的な運営のためにとても重要なことです。しかし、公演が終わって、かかった費用に対して、どれくらい収益があったかを分析する「決算報告書」の役割は、予算を立てる以上に必要であり、重要です。

「予算計画書」は、現場での経験を活かした「感覚」で書くことができます。「決算 報告書」はその経験を、「感覚」ではなく、「事実」として一枚の紙の上に残す作業 です。

最近ではさまざまな公的組織や民間企業からの助成金(あるいは協賛金)を得て、公 演の資金に当てる場合があります。この「決算報告書」は、内部スタッフへの説得だけでなく、そのような資金を得るために、行政や企業に積極的にアプローチするのにも必要な資料となります。


■何よりも「決算報告書」が大事!

「決算報告書」と言うと、なんだか難しく聞こえますが、家計簿をつける感覚で、実 際にどんなものにいくら使ったのかを計算すればよいのです。

例えば、大道具を作るときに材料を買ったレシートは「大道具費」、小道具は「小道 具費」といった具合に、いくつかの項目にわけてレシートを保管しておきます。印刷 費などでも、印刷所に必ず領収書を発行してもらいます。このようなひとつひとつの 管理が重要になります。

公演が終了したら、収入と支出に書き分けていきます。

チケットは何枚売れてどれだけの収入があったのか。合計収入はいくらだったのか。反対に、この公演にかかった費用(支出)は、それぞれどのくらいだったのか。結果的に、収入から支出を差し引いた金額(収益)はいくらだったのか。

レシート1枚をもう一度見直すだけで、「もっと安い店があったのに」と気づくかもしれません。公演終了後、何百枚とチラシが残ってしまっていたり、印刷した割には観客動員数が少なかったということもあるかもしれません。印刷枚数を見直して、次の公演では印刷費用をぐっと少なくすることもできます。

また、決算をすることで、「コスト・パフォーマンス」を分析することができます。コスト・パフォーマンスとは、コスト(費用)に対して、「どのくらい収益があったか」を表します。安くていいものを作り、高い利益を得ることができたら「コスト・パフォーマンスが良い」といいます。

一方、いくらお金をかけても、あまりいいものができあがらず、収益のマイナス分も大きいという場合もあります。演劇の場合、こうした「コストパフォーマンスが悪い」公演がほとんどです。

1回の事業(公演)の能率性を求める式として、次のようなものがあります。

      「事業利益÷事業原価×100%」

事業利益とは、チケット収入やスポンサー収入などの総収入から総支出を引いたもの。事業原価とは、劇場費や人件費など、公演に関する全ての費用です。

これは企業で言う、「売上総利益÷売上原価×100%」に値し、ここからはじきだされた数字は「利益率」と呼ばれます。数字はパーセンテージで表示されますので、その他の会社や事業と比べることができます。この数値が高ければ高いほど、ビジネスとしての公演に成功したと言えます。

例えば、4日間の公演で、印刷費や美術費、郵送費、劇場費、人件費などで、80万円の支出があったとします。

一方、収入面では1枚2,000円のチケットが450枚売れたとしましょう。2000円×450人で90万円です。そこに、スポンサー収入などで10万円が加わり、収入の合計は100万円。総収入から支出を引いた額(100万円−80万円)が利益(20万円)となります。

これで、先ほどの式にあてはめると、【200,000÷800,000×100%】となります。こうしてはじき出された「25%」という数字が利益率となります。

もちろん、芸術創造というのは、そのようなお金の利益だけの問題で片付けられるわけではありません。コスト・パフォーマンスがいくら良くても、制作者(アーティストなど)の目的意図が評価されず、また、観客からの評価を獲得しなければ意味がないのです。

アートマネージャーは、この「ビジネスとしての芸術」と「文化価値としての芸術」とのバランスを取るためにも、しっかりと「決算報告書」を作成してゆかなければいけないのです。


■予算を立てたら、とにかく「管理」!

「決算報告書」を書くことに比べたら、「予算書」を作ることはもっと簡単なことに思えますね。ここでは先に「決算報告書」を書くことをお勧めしました。なぜなら、過去の実績を見て予算を立てるほうが、より進んだアートマネジメントの導入に結びつくからです。

しかし、予算を立てたからといって安心してはいけません。

「プロデューサー氏、金策に走る。制作過程で、企画に変更が生じ、資金が必要となる。プロデューサー氏、銀行やサラ金に走る。無理な企画をしたことが祟り、予算オーバーとなる。プロデューサー氏、経費削減のため、企画変更を提案。現場スタッフに見事に拒否される。プロデューサー氏、また、金策に走る…」

これはある国のプロデューサーの実態だそうです。つまり、プロデューサーとしての金銭感覚は大事ですが、もっと必要な能力としては、「予算管理能力」であるといえます。

実績から具体的な予算を立てたら、それを実行段階で注意深く管理し、予算書と常に照らし合わせてチェックを繰り返すことが重要な仕事となります。

また、この「予算を立てる」という仕事は、実際に事業が実施・運営された後で、ひとつの評価基準となります。各担当者がその予算内で実施できたか否かで、業績評価をすることができます。

そして今回の「決算報告書」を作成して、次回へ改善していく。この地味な繰り返しが、より継続的な活動へと結びついていくのです。


参考文献・資料等
「アートマネジメントの会計−理論と実務」 佐々木晃彦 中央経済社 平成12年
「現代簿記テキスト」 坂本眞一郎、守矢芳幸、岩田智 編 同文館 1996年



(文・磯崎 美奈)2003/7/21