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ある展覧会でおきた悲しい出来事

近年、「アートマネジメント」は、地方自治体や公共ホール、さらには民間企業などからの注目がどんどんと高まっています。いくつかの大学では「アートマネジメント」を専門的に学ぶ学部・学科も設置され、”学問”として勉強している方も少なくありません。

しかし、アートマネジメントは、部屋にこもって勉強するのではなく、実際に現場に立ち、実践してゆかなければ意味がありません。現場で起こるできごとは、すべて予想のできない突発的なもので、その問題を解決してゆくことで、よりよいアートマネジメントが実践されるのです。

今回は、現場で起こった出来事から、芸術を鑑賞する環境についての問題点について考えてみたいと思います。


●ある展覧会での出来事

この出来事は、私の友人(以下、A子)が、とある新聞社主催の展覧会で、会場内のお客様や展示品を見守る監視の仕事をしている時に起こりました。

展覧会の内容はある有名画家の特別展だったこともあり、土日は小さな子どもを連れた親子の姿も多く見られました。小さい子を連れたお客さんの場合、監視員は少し緊張します。なぜなら、中には活発な子どももいますから、会場内の小さな柵をこえて絵画に近づいてしまうことがあるからです。

A子は、会場内のちょうど真ん中辺りの、ビデオ上映をしているフロアの監視担当でした。ビデオ上映が終わり、次の上映に向けてビデオの動作を確認していたところ、3人の親子連れに声をかけられました。母親と小学校低学年くらいの男の子とおばあちゃんです。

母親は、涙ぐみながら、「ここ、小学生も来ていいんですよね?」と聞くのです。話を聞くと、ビデオを3人で見ていたら、前に座っている人に、「子供はうるさい」「つれてくるな!」というようなことを言われたらしいのです。母親は「悔しい!」と興奮し、おばあちゃんと子どもはショックでうなだれ、「もう帰りたい」と言っていました。

A子は、その子どもが近くにいてもうるさいとはまったく感じなかったことを伝え、母親にひたすら謝りました。しかし、ハプニングが起きた後に「気にしないで下さい」と言っても、その思いはどれだけ伝わるでしょうか?残念ながら、その親子は悲しげな様子で早々に会場を後にしたのです。

「あの親子はどれだけ傷ついただろう」
「子どもにとって、トラウマになりはしないか。絵の嫌いな大人になりはしないか」

そんなことを考えていたら、A子は、謝るべきは母親ではなくて子どもの方だと気付き、親子を追いかけて会場の外まで出て行きました。

いじけて口を尖らせ、隠れるようにしている男の子に、A子は、「ごめんね、気付いてあげられなくて。絵を見て思ったことは、何でも話していいんだからね。絵をキライにならないでね。また、来てね」と、しゃがみこんで話しました。その会話のあと、母親も落ちついた様子でやっと笑ってくれたそうです。

こういう事件があったとき、私たちができることは一体何なのでしょう。

この出来事を通じて、私とA子は、こういった芸術企画展などにおいて、子どもにも「理解する」とまでいなかくとも、ただ単純に「楽しめる」ような企画を行なったり、誰にでも楽しめるような雰囲気作りをしてゆくことが大切だと話し合いました。そして、あまり考えずに発言をしてしまうと、芸術と子どもの出会いをダメにしてしまうということを、改めて実感しました。

アートマネジメントという学問をただ学んでいる、あるいは研究しているというだけでは、決してこのような問題に出会うこともなければ、考えることもないかもしれません。けれども、こういった不幸な出来事をひとつでも減らしてくことが、アートマネジメントの本質なのではないかと思います。だからこそ、現場が重要とされる学問であるといえます。

このような事件は、美術の展覧会だけでなく、もちろん演劇の公演最中でも起こりうることです。例えば、公演中のおしゃべり、飲食などで回りに不快な思いをさせてしまう観客。公演が始まっても遅れ客を平気で会場に入れて、案内もしない主催者スタッフ。そして、何よりも問題なのは、これらの出来事を主催者側が理解していない場合があることです。顧客満足どころか、自己満足に陥っている結果といえます。

もうひとまわり“外”を見てみませんか。もっと深く“中”を見てみませんか。改善できることはたくさんあります。次回からは、演劇公演でよく見られる問題をあげながら、その改善方法などを探ってゆきたいと思います。



(文・磯崎 美奈)2003/9/15