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舞台を気持ち良く観てもらうために vol.2 
  〜ホール内での飲食〜


アートマネジメントの仕事のひとつとして、誰もがアートを楽しめる環境を整えることがあります。もちろん、演劇現場においてもよりよい環境を作るための工夫・努力を続けてゆくことが、将来に実を結ばせるのです。

先月(10/20号)の当コラムでは、世界中で問題視されている公演中の携帯電話のマナーについてお話しました。「公演中は携帯電話の電源を切る」という行動を観客全員の方に意識的に協力していただくためには、毎公演ごとの地道な努力が必須であるといえます。

私は以前、ある劇団の公演の最中に、次のような場面に出会いました。公演が始まり、30分経つか経たないかの頃、つまり重要な導入部分の最中だったように覚えています。私の後ろでお客さんが飴のようなものの袋を開けようとごそごそと格闘している音が続きました。(開きにくい飴の袋ってありますよね…)

本当にうるさくて、あんまりにもひどいので、気になって後ろを振り返ったりしているうちに音はやみました。しかし、大切な導入部分で気が散ってしまった私は、そのお芝居にのめりこんで楽しむことができませんでした。

私だけでなく、その座席の近くにいた人たちは皆同じ気持ちだったのでしょう。1時間半程で公演が終了した後、席を立つ際に近くの年配の男性がそのお客さんに注意しているではありませんか!

注意された方はびっくりしたと思います。もちろん、注意する男性もいい気分であったとは思えません。わざわざチケットを買って公演を見に来てくれた方に、このような思いをさせ、「注意する」という行動までさせてしまうのは、本来許されることではありません。

その男性は耐えかねて注意したわけですから、このような体験をした後にもう一度同じ劇団のチケットを買うでしょうか。また劇場に来ようとしてくれるでしょうか。

お客さんに公演を気持ちよく見て頂くために、劇場での飲食のマナーについて主催者側ができることはないのでしょうか。


■実は携帯電話よりやっかいな問題!?

この問題は、一見、携帯電話のマナーより単純そうですが、実はもっと難しい側面があり、こうすればよい、という対策が提案しにくいものです。なぜならば、2つの主な理由があります。

1つは、飲食と一言でいってもさまざまな度合いがあるということです。

おにぎり、スナック菓子はダメでも飴やガムくらいならいいんじゃない?という点。どうしても咳が出るから、のど飴やトローチなどを必要としている人もいる場合も考えられますね。

ハンバーガーの持込みはとめることができても、飴やガムの持込みは注意しきれませんし、公演中に気づかれないように食べる人がほとんどかと思われます。まわりに迷惑のかからない範ちゅうであれば大丈夫という、「暗黙の抜け穴」が存在しているため、本人の節度に任せるほか方法がありません。

もう1つは、劇場(ホール)によって、方針が違うという点です。

ほとんどの公立の文化施設では、劇場(ホール)内での飲食について、使用規則の中で「禁止」と定められています。そのため、劇場の管理という側面から劇場側が積極的に「掲示物」などで注意を呼びかけています。これは、あくまでも「マナー」である携帯電話と違って、公式な「ルール」で禁止されているのです。

しかし、公立文化施設の中でも秋田県にある日本最古の劇場として有名な「康楽館」は、昔ながらの芝居鑑賞文化を大事にしていて、芝居前に会館職員が黒子の格好をして、桝席の間の板を歩いてそばやうどんを売っています。もちろん劇中にズルズルッと食べても構わないのです。

また、東京都内などに多くある私立施設では許可しているところがあります。例えば比較的年配者の観客が多い新宿コマ劇場、そしてコマ劇場に併設されているシアターアプルは客席への持込みが可能です。

公演する側の意向によってダメだということもあるかもしれませんが、歌舞伎や落語などの大衆芸能の観劇スタイルという、日本独特の文化の側面が見られる現象として、とても興味深いものです。

このような例があることから、首都圏と地方や、年代によって、「観劇中の飲食はダメ」であるという観客意識に差があることも事実です。実際に、宮城県の地方ホールにおいて「和と洋のコラボレーション」とサブタイトルの付いたバレエと日本舞踊の公演の際に、隣のおばあちゃんから飴とミカンが回ってきたことがあります。

昔からの大衆芸能の文化や、現代の映画館での飲食の文化が混在している中、「劇場の客席では飲食禁止!」というマナーを常識化していくために、演劇界全体で取り組んでいく必要があるように思われます。


■最初の一歩は現場を把握すること

冒頭でご紹介した劇場内でのエピソードは、実際に座席に座っていないと体験できないものです。また、飲食の場合は、携帯電話と違って劇場内に鳴り響くことがない反面、注意深く客席を観察しなければわからないことでもあります。

また、飲食OKという方針を打ち出している劇場で、特定公演のみ「飲食禁止」としたとき、「この劇場は食べても大丈夫」だと知って客席に座っているお客さんに対し、「やめてください」とは言えないので、劇場選びの際にも注意が必要となります。

上演中の客席の問題については、ことが起きてからすぐ対応するのが難しいものです。そのため、公演当日の会場ロビーなどに掲示する、あるいは当日の配布物にわかりやすく記載するといった準備をした上で、当日のロビースタッフは、起こりうるリスクとして全体で認識し、一貫した対応を行うように体制を整えることが大切です。

飲食のマナーは、携帯電話のマナーと違い、「ついうっかり」というものではありませんので、主催者側としてできることは、「良い観客を育てる」という意識を持って呼びかけを行う必要があります。そうすることで、例にあった「注意した男性」も「主催側も対処しているのだな」と思ってくださるでしょうし、公演中の雰囲気も変わり、マナーの改善に繋がるはずです。



(文・磯崎 美奈)2003/11/17