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マス・マーケティングから「one to oneマーケティング」へvol.1
   〜マス・マーケティングの限界〜


現代演劇の劇団の「経営」を考えたとき、不安定な公演の事業収入だけでは、活動を継続してゆくことは非常に困難です。演劇活動を行うためには、様々なことにお金がかかります。その資金を集めるために、大抵の劇団では、劇団員の持ち出し、あるいは公演のチケットノルマ等でまかなっているのが現実です。

不安定な劇団の経営を支えるためには、公演収益以外の収入を安定的に確保することで、活動存続のリスクを軽減するしかありません。その収入のひとつが、前回(1月15日号)でもお話した、民間や行政による補助金・助成金制度です。また、施設利用料などの減免やボランティアも経営リスクの軽減になるでしょう。

しかし、これらの制度の恩恵を、全ての劇団が受けられるわけではありません。そこで、経営のリスクをできるだけ軽減するために、「関係作りのマーケティング」という新しいマーケティングの考え方があります。今回から2回にわけて、この「関係作りのマーケティング」についてご紹介したいと思います。


■マス・マーケティングの限界

劇団が公演を行うとき、その宣伝方法といえば、大量なチラシの印刷・配布、雑誌、ラジオ、テレビ、新聞等のマス・メディアを主な媒体とした、いわゆる「マス・マーケティング」が中心です。けれどもその実態は、活動経験が長い、短いにかかわらず、大抵は実証的なデータが整っていないため、手当たり次第のコスト浪費プロモーション活動となっているのではないでしょうか。

テレビやラジオで何度も流れるようなメーカーCMは、広告代理店による膨大なデータ分析によるマーケティング調査があり、緻密な計算をした上で作られているものなのです。大量生産・大量消費の社会にどっぷり浸ってしまっている私たちは、知らず知らずにコントロールされ、いま目に見えるマス・メディアによる宣伝広報を非常に重要と思ってしまう傾向にあります。

劇団が集客のための手段として行う「マス・マーケティング」は、ひとりでも多くの人に見てもらい、そして収益の最大化をはかるためには有効な手段ですが、大きな圏域人口があり、情報を流せるマス・メディアがあることが要件です。また、この宣伝活動に費やされる金銭・労力・時間などのコストはかなりの大きさになります。

しかし、この方法による効果は非常に計りにくいものです。事実、この方法で果たして本当に観客を新たに「創客」できていると言えるのでしょうか。仮に、公演が非常に魅力的に思える宣伝広報が行われて、新しい観客が集まったとしても、実際に舞台をみて失望するようなものであったら、次の公演に来てくれるでしょうか。

市場での評価というのは、芸術的にすぐれていれば維持できるというものではありません。舞台の良し悪しを判断する観客それぞれの価値観は極めて多様なもので、様々な不確実要因によって左右されます。芸術活動の現場は、このような<芸術的評価>と<市場的評価>だけをよりどころとして運営を行ってきました。

これらのふたつの評価システムは、作品上演の結果がすべてであり、演劇人にとって不要なプレッシャーにさらされるという不利益を生みます。また、実験的な試みに対して臆病になってしまうということも考えられます。自分の表現を一度壊して、次へのステップにしたいという、芸術家としての当然の欲求に従うことは、それまでの観客を失うこととなりかねないからです。

このような、うつろいやすいファンを抱え込むことによる不安定な事業収入から経営リスクを回避するためには、万が一失敗作を上演してしまったとしても、変わることのない信頼が継続されるような観客との関係、つまり「リレーションシップ」を作ることが必要となります。そして、この「リレーションシップ」は<社会的評価>の上に成り立ってゆくものなのです。

劇団などの舞台芸術創造の現場では、作品上演だけではない、観客との「リレーションシップ」に重点を置いたマーケティングが、今後のマネジメントの有効な方法となると考えられるのです。次回では、その関係作りによる「one to oneマーケティング」の例を見ていきます。


参考文献:衛 紀生「21世紀のアートマネジメント/「Make a Change」への提案」


(文・磯崎 美奈)2003/2/16