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マス・マーケティングから「one to oneマーケティング」へvol.2
   〜マーケティングは関係作り〜


現代演劇の劇団の「経営」を考えたとき、不安定な公演の事業収入だけでは、活動を継続してゆくことは非常に困難です。そのため、公演の事業収益以外の収入を安定的に確保することで、活動存続のリスクを軽減するしかありません。もちろん、行政や民間からの経済的支援を受けることも経営リスクの軽減になりますが、そのような助成金は今後数十年という単位で見たときには、継続性がないといえます。

今回も引き続き、経営のリスクをできるだけ軽減するための「one to oneマーケティング」という芸術文化に必要なマーケティングについて、お話していきたいと思います。


■「one to one マーケティング」の第一歩

前回(2月16日号)でお話したように、今までのマス・マーケティングという考え方は、アートマネジメントでは限界があります。なぜなら、ほとんどの芸術活動の現場において、<芸術的評価>と<市場評価>だけをよりどころに運営を行ってきたため、観客を裏切れない、あるいは評価を気にするあまり芸術家が実験的な試みができない体制を作ってしまうからです。

本来、アーツマネジメントというのは、芸術家がより良い創造活動をするための環境や仕組みを整えることも含まれます。しかし、演劇において、観客を大衆として捉えるようなマス・マーケティングでは、先に述べたような現状を引き起こし、逆に芸術創造においてマイナスの事象を起こす危険性を持っています。

そこで、今求められているものが、劇団と観客との信頼関係「リレーションシップ」なのです。

ほんの少し前まで、街中の商店街に軒を連ねる魚屋さんや八百屋さんでは、いつも来るなじみのお客さんの生活習慣をちゃんと覚えていて、その季節にあった品を仕入れしてくれたり、料理の仕方などを教えてくれたりすることで、商品だけでなく心のサービスで付加価値を提供していました。そして、売る店とお客との信頼関係が生まれ、お互いにメリットを与える関係でした。

しかし、今では、どのスーパーにいっても同じような商品が並び、誰でも何でも買える仕組みになってしまったことで、商品を売る店の人間性がまったく見えない状態になってしまいました。

演劇も、本来は観客とが強い信頼関係で結ばれることがもっとも素晴らしいことです。しかし、そのためにはまだ長い時間と努力が必要でしょう。ですが、劇団と観客の信頼関係を作ってゆくことは、ほんの少しの手間で可能になるといえます。


■「ファン」より「支援者」という捉え方

ファンクラブを作って会費を徴収し、「支援者」としなくとも、チケットを買って何度も公演へ足を運んでくれるお客様は、十分「支援者」であるといえるでしょう。その支援者は、一人の役者を見るために来場するのではなく、作品に共感して来てくれる人であるはずです。

このような「支援者」を増やす努力には、いろいろ方法がありますが、まず、劇団運営という立場から顧客を捉える考え方を変える必要があります。

多くの劇団では、公演案内(DM)を送るための顧客リストを持っています。継続した活動をしている劇団であれば、特にこのリストを大切にするべきですし、このリスト作りは一つのマーケティング作業でもあります。

しかし、公演を行うたびに増えていく顧客リストを、DM発送のための「あて先リスト」としているのでは、マス・マーケティングです。そのリストの多くがいわゆる一見さんなのか、それとも何度も見に来てくれている固定客なのか、ちゃんと判断する必要があります。

公演のたびに何度も来てくれる固定客を、一見のお客様と同じ扱いにするのではなく、特別な存在として区別する考え方が、「one to one マーケティング」といえます。

まず、DMのための住所リストから、本当の顧客リストを作りましょう。顧客一人ひとりの生年月日を入れる欄を作り、誕生日にカードを贈ることも良い試みといえます。公演の案内だけでなく、年賀状や暑中見舞いを送ることも有効でしょう。最近ではEメールを利用して、劇団の情報(メルマガ)などを送ったりすることも容易ではないでしょうか。

「あなたは私たちにとって特別な存在です。ありがとう」という気持ちを持ち、お客様一人ひとりに心からのサービスを提供すること。これが、劇団と観客との信頼関係を作っていく最も大切なマーケティングなのです。そうしてできた関係は、もし一度作品が失敗したとしても、引き続き支援してくれるような関係となるでしょう。

大量な資料を用意し、四苦八苦して獲得した助成金は、お客様を連れて来てはくれません。しかし、ちょっとした手間と、ちょっとした心遣いでできた顧客との関係は、10年20年と活動を続けていく限り、客席に見て欲しいお客様が座りつづけてくれることになるのです。

やみくもに公演を打ち、やみくもにチラシを撒くのではなく、劇団と観客の関係を見直してみることが、これからのマーケティングにつながってゆくのです。


参考文献:衛 紀生「21世紀のアートマネジメント/「Make a Change」への提案」


(文・磯崎 美奈)2003/3/15