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タイの伝統仮面劇「コーン」

中世ヨーロッパ、演劇は、キリスト教からの弾圧を受けながらも発展してゆきました。この先、ヨーロッパではそれぞれの国で、演劇が発展してゆくことになります。

しかし、もちろんヨーロッパだけで演劇がおこなわれていたわけではありません。同じ中世でも、ヨーロッパからははるか遠く、東南アジアのタイにはこんな演劇がありました。

●タイの仮面劇、「コーン」

仮面劇「コーン」は、15世紀のタイ族の国家アユタヤー朝において生まれたとされています。そのころ、インドシナ半島は戦争が相次ぎ、侵略・統治・併合を繰り返していました。そのため、各国の僧侶、舞踊家、音楽家などの文化人が、捕虜として連れて行かれることが多かったのです。その結果、様々な国の文化が流動的に混在していったのでした。

仮面劇「コーン」のはじまりも同様で、アユタヤー朝が隣国クメールを侵略した時に連れて来た捕虜たちにより伝わり、それが洗練されたものと考えられています。

さて、この「コーン」とは、一体どのような仮面劇でしょうか。
この劇は、伝統的な音楽と物語を語る吟唱者のもと、仮面をつけた演者の独特な体の動きによって演じらます。演者には台詞が無く、仮面は日本の能のような顔の前面につけるものではなく、頭の上からすっぽりとかぶる、覆面レスラーのようなものを用います。

演じられる物語は、「ラーマキェン」と呼ばれるもので、古代インドの大叙事詩「ラーマーヤナ」がモチーフになっています。内容は、ラーム王子の妃、シーダーがトサカン魔王にさらわれたのをきっかけに、シーダーを救うために善悪2つの軍勢の戦争が始まる、とういものです。「コーン」はもともと宮廷芸能だったため、歴代の王により幾度となく改訂、戯曲化されました。

また、「コーン」の特徴として、登場人物の多さも挙げられます。一般的に、仮面劇というと、日本の能、狂言や、イタリアのコメディアデラルテのように、登場人物が少ない印象がありますが、「コーン」では、ラーム王子、シーダー妃、トサカン魔王をはじめ、シヴァやヴィシュヌなどの神様、王子と魔王のそれぞれの家族など、実に多くのキャラクターが登場します。

しかも、魔王は大家族らしく、妻、息子、弟、孫、祖母までが登場。その上、ラーム軍には猿の軍が、魔王軍には別の国の魔王たちが加勢していて、戦争のシーンなどには総勢100人以上の演者たちが舞台を埋め尽くすこともあるのです。

使用される仮面の種類も実に様々です。王子や妃は仮面をつけずに演じられますが、魔神の仮面などは、100種類以上あるとされています。また、仮面の頭頂部には独特の「とんがり」があるものがあります。

これは、寺院や宮殿の尖塔を理想化したもので、ガラスや貝がら、鏡などで美しく装飾されています。この「とんがり」の高さにより、その人物の身分の高低がわかるようになっています。色彩は金色を多く用いられ、衣装とともに舞台を華やかに彩ります。

400年以上の時を越え、現在もなお行われる「コーン」は、タイ演劇の最高峰とされています。20世紀に入ってからは、国立の演劇学校が作られ、政府の管轄のもと、新しい古典芸能の担い手の育成もされています。

余談ですが、「コーン」に登場する、猿の将軍「ハヌマーン」は、実は日本を代表するヒーローと共演しているのです。昭和54年、円谷プロとタイのチャイヨーフィルムにより合同制作された「ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団」で、ハヌマーンはウルトラマンたちとともに怪獣を退治しているのです!それだけタイの国民に根付いているんでしょうね。

昨年末、未曾有の災害を受けたタイですが、ながきに渡って人々の心を震わせてきた伝統芸能が、被災者の方々の救いとなってくれることでしょう。

参考文献 「東南アジア演劇史の研究」 宮尾慈良著 


(文・E)2005/1/24