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「世界」と子どもたちを演劇で結ぶ〜倉原房子さん〜

英語の通訳や翻訳をしている倉原房子(くらはら・ふさこ)さんが、オーストラリアの劇作家、デビッド・ホールマンさんに出会ったのは、1987年にオーストラリアのアデレードで開かれた国際児童・青少年演劇協会(ASSITEJ=アシテジ)の世界大会で初めて見た舞台がきっかけでした。

おとなの俳優が、いかにも子どもらしい格好をしたり口振りをしたりするのではなく、シンプルな舞台美術と子どもの心理や表情を表す自然な演技に感じ入り、腑に落ちたのです。

同行した俳優の伊藤巴子さん(前、日本児童・青少年演劇劇団協議会代表)と思わず顔を見合わせうなずきあうほどの、一種のカルチャー・ショックでした。『ちいさなけしの花』『だいじょうぶ』などたてつづけに見たどれもが、日本で見慣れた子ども向けの演劇とは別のものだったと言います。

この2作品は、すぐに翻訳の許可を得て、その後、伊藤さんが所属していた「劇団仲間」で上演されています。ヒロシマを題材にした『すすむの話』も、翻訳されて日本の劇団で上演されています。

倉原さんは、イギリスだけでなく世界各地の舞台を見て歩き、これは!と思うものを日本に紹介しています。スウェーデン、フィンランド、デンマークなどの北欧やオーストラリアなどの児童・青少年演劇です。

その活動のユニークで貴重なことは、単に劇団や作品を紹介しているというだけでなく、それらの国の青少年と日本の青少年を出会わせ、結ぶという役割も果たしていることです。

たとえば、宮崎県木城町・えほんの郷にイギリスから招いたクルーシブル劇団の「ユースシアター」は、10代から20代初めの青少年のグループですが、2000〜01年には日本の青少年と一緒にワークショップを行いました。

また、『はだしのゲン』(中沢啓治原作、鈴木龍男脚本)を英語版にし、クルーシブル・ユースシアターに提供してイギリスで上演されたのは1996年のことです。さらに、スリランカの青年たちの『はだしのゲン』上演にも積極的に協力・応援しています。昨年は、フィンランドの劇団と青少年オーケストラが『セロ弾きのゴーシュ』を上演するのに協力しました。

倉原さんが自分の目で見て、日本に紹介したいという舞台の基準ははっきりしています。俳優と演出家が対等な関係のなかで一緒に話し合いながら進める舞台づくり、一人がいくつもの役をつとめる劇づくりは、俳優の演技の勉強にもなるという考え方をもっています。

また、舞台と客席の一体感を醸し出す要因として観客数が 100人を超えないこと。スウェーデンから来日した劇団ウンガリクスの『小さな紳士の話』なども、三方から見る舞台と客席にほどよい緊張感の漂う空間のなかで、楽しめるものでした。

倉原さんの審美眼は、日本の児童・青少年演劇に対する厳しさにも表れますが、とりわけ強調するのは「想像力」です。想像力は観客への、子どもへの信頼です。ついつい説明過剰になりがちな、あるいはテーマをもって説得やお説教をしようとしがちな作品が気になる、日本の児童・青少年演劇ですから。

デビッド・ホールマンさんが『ブレーメンの音楽隊』を翻案した日本未公開の脚本は、『いっしょにいこうよ』と訳され、近々見られるかもしれません。楽しみに待ちたいと思います。


※脚本『すすむの話』;『演劇と教育』2004年10月号掲載


(文・日本演劇教育連盟・市橋久生)2005/4/4