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演劇で伝える「生きる力」 〜小野川洲雄さん〜
この3月末で東京・文京区の中学校長を退職された小野川洲雄(おのがわ・くにお)さんは、今年も文京区内の中学生の演劇サークルで指導されています。これは、文京区が学校週5日制に伴って2002年度に始めた「ふれあい劇づくり土曜教室」と名付けた企画で、小野川さんは在職中から毎週土曜日の午前中、文京区教育センターで、仕事とは別に中学生の演劇活動を支援しているのです。 4月に区の広報で募集し、集まった区内の中学11校の1〜3年生、合わせて十数名です。遊びやらエクササイズやら体を動かして、みんなが仲良くなれるようなことから始め、来年1月末の上演をめざしています。劇づくりをとおして表現とコミュニケーションの感覚を身につけてほしいというわけです。 小野川さんは、技術家庭科を教えるかたわら、演劇部の顧問として長年務めてきました。校長に就いてからは東京都中学校演劇教育研究会や全国中学校文化連盟の会長として、広く目配りをする立場で活動してきました。 そもそも小野川さんの演劇活動は、東京学芸大学在学中に始まりますが、やがてその卒業生がつくっている「教師の劇団 創芸」に参加します。1939年に結成されて以来、代々の卒業生が参加して、現在も公演活動を続けている劇団です。小野川さんはその中心的な存在として、脚本を書いたり演出をしたりしてきています。『皇国の訓導たち』3部作(1973〜75年)は、「教え子を再び戦場に送るな」と決意した教師たちが、深い反省と自戒を胸に刻んで演じられた舞台でした。 劇団は今、『グッド・バイ・マイ…』という小野川さんの作品に取り組んでいます。もともとは中学生向きに書かれた脚本で、1980年に発表されるや大きな反響を呼び、四半世紀を経た今日に至るまで全国各地で多くの中学生や高校生らが上演しています。 この作品は、人がこの世に生を享ける前、つまり母親の胎内を舞台にしています。すべての子どもが、生まれ出る社会に限りない夢と希望をもって産声をあげる……はず。しかし、青太、黄郎、緑、桃子の4人は、自分の未来がやがて挫折に見舞われるということを、ふしぎな老人に告げられてしまう。黄郎は片腕をなくすという。それでも「誕生の門」をくぐって生まれ出ていくのだろうか?− さて、ある年、小野川さんに届いた1本の便りは、作者の思いを超える深い感動的なものでした。盲学校教員からの手紙です。 春の一日、「生命」がテーマの理科の授業。芝生に車座になった生徒たちにこの脚本を読んでやったところ、秋の文化祭でその目の見えない高校生たちが上演したというのです。しかも、その後、生きる意志をあらためて胸に刻んだという桃子役の女生徒から、便箋十数枚におよぶ手紙がきます。 緑を演じた友だちが病床にある苦しみや悩みを告げるものです。小野川さんは突き動かされるように新幹線で病院に向かったのでした。級友や先生、小野川さんの祈りも空しく、半年後に亡くなってしまうのですが……。 この脚本以外にも、友情と打算の間で揺れる心情を描いた『メロスは走らない!?』、みんなが嫌がる運動会の長距離走にだれが出るかで学級がもめる『棄権』、等々、中学生が日常のなかでぶつかるさまざまな悩み、リアルな問題を、詩情豊かな作風におさめて興趣を誘っています。 現代の中学生・高校生に、演劇によってしっかりと向きあう小野川さんの姿勢は、教育をめぐって右往左往している社会にキラリと光っているように見えます。 |
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(文・日本演劇教育連盟・市橋久生)2005/6/6
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