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たんぼと梨畑と人形劇と〜黒田一夫さん〜

四国・徳島平野は藍住町の専業農家、黒田一夫(くろだ・かずお)さんは今、稲の刈りとりと梨の収穫を終え、ほっとする間も惜しんで、こんどは「人形劇団ごんべ」の主宰者に変身、徳島県下の子どもたちのために飛び回っています。

今からもう35年余りも前のこと。5代・6代と続く専業農家に、大学で農学部に籍を置きながら児童文化活動をしていた黒田さんが帰ってきました。町の喫茶店に集まった若者たちの間で、ある日、「子どもたちのために、誰かが何かをしなければならないのなら、私たちは人形劇をしよう」と意気投合。「人形劇をいつでもどこでもだれにでも」をモットーに、黒田さんたちは劇団をつくり、公演活動を始めました。1969年11月のことです。その後、当時保育士をしていた智美さんと結婚。ともに、「農を生かし農で遊び楽しむ」という生き方を選んだのです。

こうして始めた人形劇。しかし当時は、遊びはイコール怠け、人形劇など仕事の妨げになると、周囲の理解を得るのは困難なことでした。それでも若者たちの志は高く、次第に認められ信頼されるようになってきました。

なかでも二人の信念と絆は強く、ほかのメンバーが結婚やら仕事やらで止むなく抜けていくなか、米づくりと梨の世話の合間の活動は、しっかりと根づいてきました。

今では、県内はもちろん四国各県のほか、遠く本州や九州にまで出かけるほどです。レパートリーは50を超えるまでになりました。上演時間わずか5分の指づかい音楽ボードビル『はらぺこあおむし』から、智美さんと二人で演じる90分の大作『泣いた赤おに』まで。そして、客席には幼児から老人まで迎えて、幅広い演目で楽しんでもらっています。

また、公演だけではありません。人形劇の裾野を広げたいと願い、舞台の製作や貸し出しなども惜しみません。木製の「ごんべ型折たたみ差し込み式人形劇舞台」は運びやすく扱いやすいと好評で、県内の人形劇グループにも活用されています。

小学校の「総合学習」の時間にゲスト・ティーチャーとして招かれたこともあります。子どもたちが町のお年寄から聞いた民話をもとにした脚本づくりに始まり、人形作りから校内の発表会、そして地域の保育所・幼稚園や老人ホームでの上演まで、ほぼ1年を通して協力、指導に通いました。子どもや教師からの感謝の言葉に感激したこともありました。

さらに、藍住町の子どものための活動に広く関わっています。「藍住子育て環境づくり『あいっこ』」を町内3グループでつくり、この秋にも、町に「どんぐりの森」をつくろうという「どんぐりまつり」を開いたり、メルヘンとファンタジーを届けようという企画グループ「子どもに夢を『メルファンの会』」の中心として「藍住子ども劇場」と一緒に「劇団風の子九州」の公演に取り組むなど、精力的な毎日を送っています。

今、黒田さんの行動半径は大きく広がっています。鳴門教育大学の人形劇団や徳島大学人形劇部など、学生たちとの交流を行い、応援しています。また、再来年(2007年)徳島県で開かれる第22回国民文化祭の人形劇部門の企画委員を務めています。

「子どもに夢を」と思って始めた人形劇、文化活動。黒田さん自身がまだまだ夢を広げているようです。


(文・日本演劇教育連盟・市橋久生)2005/11/7