日本演劇教育連盟という団体機関があることをご存知ですか?
演劇教育を通じて、子どもたちの表現力の育成と演劇文化の発展を目指そうという主旨で、戦前の1937年から活動を続ける老舗団体。現在、全国に約800人いる会員さんは、小中高大の教育者はもちろん、プロの演劇人やボランティアスタッフまで幅広いジャンルの人々で構成され、ワークショップ活動や研究活動、教育現場での成果レポートなど、精力的な活動を行っています。
今回は、日本演劇教育連盟(以下、演教連)事務局長の市橋久生さんに、連盟の活動と今後の演劇教育がもたらすものについて、お話をうかがってきました。
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日本演劇教育連盟事務局長
市橋久生さん
学校に文化を――――――。
事務局長として連盟の運営にあたっている市橋さんは、もともと中学校の社会科の先生。実は、教師になるまでは、演劇にほとんど興味がなかったそうです。本格的に演劇と出会うきっかけになったのは、一冊の雑誌から……。
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私が教職についたのは、1971年のことなんですが、初めて赴任した学校というのが、およそ文化的な雰囲気の感じられないところだったんです。文化祭もありませんでしたし、教員側の文化活動に対する関心があまりにも低かった。
そんな状況にとても疑問を感じましてね。「自分が学校に文化革命を起こさなくては!」と、赴任1年目にしてそう思っちゃったんですよ(笑)。そうしたら知り合いから、「演劇はどうだ?」と勧められたんです。
でも、学生の頃から小説や映画には親しんでいたんですけど、演劇と言えば子どもの頃の学芸会ぐらいしか馴染みがなかった。
だから、いざ演劇をやるといっても何をしたらいいのやらで…。そこで何か指導するための手掛かりになるものはないかと探していて、演教連の機関誌でもある『演劇と教育』という雑誌があることを知りましてね。
それをお手本にして、見よう見まねで学校の中に演劇づくりを取り入れていったんです。連盟に参加するようになったのは、それがきっかけですね。
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「先生たちの遊び心を呼び覚ます」
全てが初体験であった演劇づくりには様々な試行錯誤があったようです。ただ、「そんなプロセスの中で、いろんな喜びや発見があった」と、楽しそうに振り返る市橋さん。今では、1人の教師としてではなく、多くの先生たちに演劇教育の魅力を伝えてゆく立場に。今、市橋さんは伝えることの喜びを実感しているそうです。
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―――ところで、演教連では主にどんな活動を行っているのでしょうか?
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大きく分けて2つあるんですが、ひとつは、実際の劇づくりを通して、演じることと表現することの楽しさを子どもたちに体験してもらうということ。もうひとつは、いわゆる鑑賞教育というもので、子どもたちに優れた舞台作品に触れる機会をつくるということです。
でもね、実はこの2つ以外に、もうひとつのポリシーがあるんですよ。それは、学校生活に演劇的な発想や、演劇的な遊び心を取り入れてゆこうということなんです。
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―――演劇的な発想や遊び心?
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まあ、わかりやすく言えば"演出"ということですね。例えば子どもたちを体育館などに集めたときに、名前のあいうえお順や背の高さ順に並んだりすることがありますよね。そういう時にちょっとした遊び心でもって、誕生日の順番など、いつもとは変わった順番で並んでみたりする。
また、学校行事なんかでも、太鼓や楽器を使ったり、演劇的な構成にしたりして、まるでひとつの舞台の幕が開くような演出をしてみるとか。そんな風にちょっとした遊び心をもって工夫するだけで、その場の空気が、がらりと変わることがあるじゃないですか。
そういう時は、もちろん子どもたちもとても楽しそうに行事に参加しますよ。でも、もっと大切なのは、教員たちの心に遊びの心を呼び覚ますことで、教育現場をもっと創造的で文化的な空間にしていこうよと、そういう活動です。
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―――では、具体的には?
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演教連では、毎年夏に全国演劇教育研究集会(全劇研)を行ない、そこでプロの劇作家、俳優、舞踏家などの方々をお招きして、様々なワークショップを行なっているんですけど、そうしたところに参加された教員の方から感想や反応を聞くと、皆さん口々に「自分がいかに創造的でないかに気づかされた」とおっしゃいますね。こうしたイベントの中で、子どもを見る目や演出的な発想の必要性を学んで、それぞれの学校現場に帰ってゆかれるようです。
正直言えば、それだけで何かが大きく変わるほど、現場も甘くないとは思います。でも、一度でも実際に体験してみることが何よりも大切なことであって、知識や理屈だけではどうしたってわからないことですからね。そういう意味では、実際に体験できる機会を提供することが私たちの重要な役割だと思っています。
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「演劇教育の可能性はさらに広がる」
ひとりでも多くの先生に演劇教育のよさを伝えたい。市橋さんはそんな想いから、毎年夏の大会の前になると、周りの先生たちひとりずつにご自分で声をかけているそうです。しかし、今年度から学習指導要領も変わり、教育現場も様変わりしようとしています。そんな中、演劇教育の今後は一体どのように変化してゆくのでしょうか?
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まず、演劇教育だけでなく学校教育全体の状況として、教科の授業時間が減らされたことで、文化祭や学芸会といった学校行事がどんどん削られて行くという流れができてしまいましたよね。
よく、学芸会がなくなると、演劇の要素も学校から消えてしまうようなことが言われますが、今はむしろ、表現やコミュニケーション、人との関係つくりという問題をきちんと意識して子どもと向き合わないと、教育そのものが成り立たない時代です。
ですから、演劇という表現方法が、人と人との関係をつくり、コミュニケーションを生み出すのに非常に有効であると、多くの教育者に知られてきたことで、演劇教育そのものの可能性は逆に広がってきていると思います。
その点で、演劇教育は、発表会に向けて皆でひとつの劇を作り上げていくという、いわゆる「劇づくりの活動」から、もっと広い意味での「表現の活動」に焦点が移ってきたかなという印象。
はあります
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―――そんな変化に合わせて、演教連の活動も変わってきますか?
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劇的に方向転換することはないと思いますが、時代の流れに合わせて、そういう方向性を強めてゆくことは充分にあると思いますね。
演教連ではここ数年、「すべての子どもにドラマの教育を!」というスローガンを掲げているんですが、これからは演劇というものは、クラブや有志などの特定の子どもたちだけのものだけではなくなると思うんです。
ご存知のようにバーチャルなものが氾濫している今の社会ですから、こうやって生身の顔や呼吸を突き合わせて人間関係を体験できるドラマ教育というのは、今後ますます必要になってくるはずですから。
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―――問題は演劇による表現教育を、誰が子どもたちに教えてゆくかということですね。
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やっぱり一番は教員だと思います。そのためにも、「教員向けの演劇教育」が、これからはもっと必要ですよね。教員になるための教職課程では、子どもたちにいかに効率的に教科を理解させるかという勉強はしても、単純に人の言葉を聞くとか、相手に自分の言葉をしっかりと伝えるといったコミュニケーションの勉強は全くやられていないんですよ。だから演劇科を出ている人が教員になればとても面白いだろうなと個人的には思っているくらいなんです。
常に学校現場にいて子どもたちに接している教員なのですから、子どもに向けたものも勿論ですが、教員自身の表現・演劇ワークショップというのもこれからはもっともっと広がっていかないとって思っているんですよ。
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「演劇が社会に"祭り"を生み出す・・・」
コミュニケーションは、今や現代社会を語る上での最重要なキーワード。
そして、子どもたちのコミュニケーション力を育成する教育として、演劇教育の必要性は、確実に認識され始めているようです。
ところが、テレビやインターネットの発達により、劇場に行って生の「演劇」を楽しむ機会は、どんどんと減ってゆくばかり。そんな中、演劇教育はどんな形で広がりを見せてゆくのでしょうか。
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んー。そうですねー。正直言えば、それはいまだに見えてきてないですよねー。ただ言えることとしては、今は演劇そのものへの興味・関心を増やしてゆかないといけない時代に来ているんだと思うんです。かつての私と同じように、演劇なんて見たことないし、特に関心もないなんて人は、それこそ日本中にまだいっぱいいますし、そういう人が大多数ですからね。
だからそういう人たちを1人でも多く演劇に出会わせて、演劇の魅力を伝えてゆく。そんな地道な作業を続けていかないことには、演劇教育の裾野も広がってゆかないんだと思うんです。
でもね、私はすごく可能性はあると思ってるんですよ。例えばDENのホームページを見てみると、もうあっちこっちでワークショップをやっているでしょ。それにこの15年の間で市民演劇祭の盛んなことと言ったらないじゃないですか。もうもの凄い数ですよね。
そもそも演劇にはお祭りとしての要素が強くあるわけですよ。
昔は生産活動、つまり農業という集団作業と結びついて行なわれてきた祭りが、今では演劇という作物を生まない集団作業によって行なわれようとしている。演劇は生産共同体が崩れてしまった高度な消費社会の中で、地域共同体を作り上げる有効な手段として、次第に認知されはじめているところがあるわけです。
そういう意味では、演劇がそう遠くはない社会になってきているわけですし、裾野が広がってゆく可能性は充分にあると、私はそう考えているんです。
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かつては演劇に興味がなかった市橋さんも、最近は、事務局長としての忙しい毎日を送りながら、その合間をぬって、年間40本以上の舞台を観るほど、演劇が好きになったそうです。
新指導要領や週5日制に伴う学芸会の削減や、学校への補助金の減額による、鑑賞会の削減等々、暗い話題の多い演劇教育界の中、常に明るい希望を持って活動を進めていらっしゃる姿が、とても印象的でした。
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そんな演教連では、今年も様々なワークショップを体験できる研究集会、「全劇研」が開催されます。
51回目を迎える今年は、「しっかり演技を学ぼう、演出を体験しよう」をテーマに、演出家の平田オリザさん、高瀬久男さん、俳優の柏木陽さんなど、各方面からたくさんの専門家をお招きして行なわれます。
また、定期発行されている雑誌「演劇と教育」には、全国に散らばる演劇教育の様々な情報とともに、これからの演劇教育を考えるとても貴重な研究レポートが満載です。
ご興味のある方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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お問い合わせ:日本演劇教育連盟
〒170-0005 東京都豊島区南大塚3-54-5第一田村ビル3F
電話・ファックス 03−3983−6780
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| 市橋さんどうもありがとうございました。 |
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