子どもたちに舞台鑑賞や文化、遊びの空間と時間を提供する “子ども劇場おやこ劇場”という団体が全国各地にあるのをご存知ですか?
子どもたちに、より心豊かに活動できる場所を提供しようと、地域の子どもたちやお母さん方を中心に構成されている会員制の非営利組織です。そこでは、演劇や音楽などの文化鑑賞会から、お祭りやキャンプや表現遊びなど、子どもたちのための幅広い企画が行なわれています。近年は、NPO法が制定されたことを契機に、“子ども劇場おやこ劇場”も、活動をより広く活発にしていくために、法人化した団体が数多くあります。「NPO法人横浜こどものひろば」もその中の一つです。
|
 |
NPO法人横浜こどものひろば事務局長
大原淳司さん
横浜こどものひろばでの活動のみならず、首都圏内8都県の子ども劇場をネットする、子ども劇場首都圏の代表もされており、子どものための文化体験と、そのための環境作りに、大きな力を注がれている方です。
事務局にお邪魔しまして、大原さんの活動を通しての考えや、今後の活動、また現代の子どもたちを取り巻く環境に関してお聞きしました。
|
|
「子どもたちにドキドキワクワクな空間と時間を提供したい」
〜横浜子どものひろばの活動〜
|
|
こちらの団体では、どのような活動をされているのですか? |
簡単に言いますと、「子どもたちがドキドキワクワクできることって何だろう?彼らにとって幸せに思えることって何だろう?」という視点に立って、子ども時代に出会ってほしいさまざまな楽しみを創り出していこうとしています。
なので、演劇や音楽のような鑑賞事業はもとより、「あそび」や「表現遊び」など、常に子どもにとって新しい出会いとなるような刺激的な空間と時間を、「こういうのって、どう?面白くない?」という感覚で、子どもたちと共に楽しんでいるのが「横浜こどものひろば」です。
|
私は子どものための舞台鑑賞の“環境整備”ですねー。
自分たちで「よし!やろう!」と、企画を立てようとしても、なかなか簡単にはできません。まずはお金の問題。資金繰りをどうするか考えなくてはなりません。行政の許可や協力が必要な場合には、交渉をしなくてはなりません。また演劇をはじめとしたソフトに関しては、どういう作品が面白いのかを把握する必要もあります。子どもたちが大勢いる「学校」との連携も必要です。
それらすべてを把握しながら、コーディネートして、舞台を観る環境を整備していくことが、今は大事だと思っています。
子どもたち以外に向けたものとしては、10年ほど前に始まった「横浜演劇センター構想」ですね。「横浜でもっと演劇の花が開くといいねー」って言う話から、横浜の演劇関係者が集まってイベントをやりました。どこか、自由にできる場所を探していて、横浜市とも相談したところ、みなとみらい地区(JR桜木町近辺)なら土地がたくさんあるから貸すよって言ってくれまして。そこでサーカステントを張ってやりました。それが発端となって、今では「横浜アートLIVE」と題して毎年開催するようになって、次で7回目になりますが、毎年2〜3万人の観客が集うフェスティバルになってきました。 |
「“子どもたちの時間”を子どもたちに返してあげたい。」
〜子どもたちの時間と空間〜
|
|
大原さんは子どもたちの感性を育てていくために、いろんな環境づくりをされていますが、彼らにとってどのような環境が理想だと思いますか? |
突然ですが、80年代になってから、5人以上で遊ぶ子どもたちが本当に少ないって、ご存知でした?
街そのものが変化してきてしまって、子どもたちの場所が確実に減っているんです。ベットタウンと呼ばれる地域は、子どもにとってはつまんない街になってしまいましたよね。本当にきれいに整理整頓され過ぎてて。そういう街の構造形態は、もう、“遊ぶ空間”でなくなってきてしまっているんですね。
それでも、大人は「自分の捉える子ども像」しかイメージできないから、現実問題として子どもたちを取り巻く環境や心境の変化に気づけなくなっちゃったんですよ。その格差は広がるばかりです。一昔前、今の親が子どもだった時代の環境とは、明らかに違ってるんですけどね……。
子どもたちが安心できる場所、そして冒険できる場所、どちらも必要だと思います。子どもの頃は、“隠れ家”みたいな秘密の場所ってあるじゃないですか。
この野毛(横浜桜木町)のあたりにも不思議な路地裏のわくわくする風景が残っていますが、冒険できる空間が、彼らのごく身近にあるといいですよね。
僕なんかに言わせてみれば、乱暴な言い方ですけれど、子どもは街に“放し飼い”する方がいいんです(笑)。いや、笑ってますけどこれホントですよ。でも、街のほうが子どもたちの感性を受け入れられない状態になってしまったんです。
|
|
今じゃ、空間だけじゃなくて、時間までもなくなっていますよね。
|
そうなんですよね。学校が5日制になったけど、子どもたちはやっぱり疲れてる。
習い事、塾、学校のことに悩んでて、とにかく、「何かをしたい!」という気持ちの余裕が持てずに、「時間があればゆっくり寝たい」、「おふろのときが一番ホッとする」なんてことをストレートに言っちゃうんです。
でも本当にそうなんだろうなー、と思えてしまうような子どもがたくさんいるんですよね。逃れられない時間の流れは、私たちが理想とする時間や空間とは逆行しています。「学歴社会は終わった」みたいなことを耳にしますが、現実は全く変わっていません。どうやったらこの状況を変えられるのか?なんてことを考えたところで、悲しいことですが、「むずかしい」の言葉が先に立ってしまいます。
子どもたちが今暇だったら、何をしたいと思うんでしょうか?
僕はね、「もし暇だったら、お芝居を観たい」という心の余裕が、彼らの生活と心の中に生まれ、また親もそこに価値を持てるような、そんなきっかけを作りたいんです。僕ができることを、僕の得意な分野を活かして、子どもたちに子どもたちの時間を返してあげたい。いつもそんな気持ちで活動しています。
|
「漠然とした想いが、形になってきたんです。」
〜“はじめてのおしばい”〜
|
|
その1つが、「はじめてのおしばい」という活動ですね。ところで、この活動はどういうものなんですか? |
子ども劇場首都圏が、2000年からスタートさせた2〜3才児のための演劇鑑賞の企画です。2、3歳児というと、言葉を話しだし、世の中のことや人間関係をぼんやりと感じはじめる年齢です。感性の土台となる時期に、彼らの周りに何があったらいいのだろう?という発想から、子どもとお芝居や音楽の楽しい関係をつくりたいということで、本格的な取り組みを始めました。
|
|
お芝居を見るというと、小学生以上というイメージが強いのですが、どうしてこの企画を始めようと思ったのですか? |
話が少しそれちゃうんですが、実はね、ちょっとした事件がありまして……。
今でも憶えているんですが、10年位前、91年の暑い夏の日だったんです。僕、通勤電車に乗ってたんです。そこへハアハアと息を切らしたお母さんが、小さな赤ちゃんを抱えて、大きな荷物も持って、汗だくで飛び込んできたんです。
とても辛そうだったので、僕は「お持ちしましょうか?」って、彼女に言ったんです。そしたら彼女は、「大丈夫かしらー」って言って、荷物ではなくて、自分の赤ちゃんのほうを僕に手渡したんです。自分の赤ちゃんをですよ?
僕、呆然としましたよ。何もいえず、そのまま赤ちゃん抱いちゃましたよ、横浜駅まで15分間も。赤ちゃんを少し涼しいほうに向けて抱いてあげたら、すやすや気持ちよさそうに眠ってました。お母さんは、自分の汗をひたすらぬぐってましたけど。(苦笑)
|
|
それがあまりにもショックだった、というわけですね?
|
いや、それがビビビッ!としたきっかけという訳ではないんですが、漠然と心に引っ掛かっていたんですよ。
それ以前からも、子育ての問題には関心がありました。ご飯を作っている間、とりあえずビデオを見せておけばいいや、みたいなお母さんが増えてきて、子どもたちは一方向のコミュニケーションの中で育っているんです。ただただ刺激だけを求めたり、気に入らなければ、すぐ遮断すればいい、というような、相互コミュニケーションが取れないような環境にいるわけですよ。
人間形成においても大切な時期の子どもに対して、そのような育児の有様を目の当たりにして、子どもだけでなく、子どもと母親の関係を良くするためには何ができるだろうと、漠然と考えていたんです。
それから、子ども劇場で活動しているお母さんたちと小さな子育てサークルを作るようになって、それが徐々に大きく地域に広がり、もっと0〜1〜2〜3歳児の子どものために!という要望から、乳幼児のためのお祭りも開かれました。会場には、ものすごい数のベビーカーが並びましたよ。ズラーッと!あんな光景はなかなか見られないですね。
現在は、その年令の子どものための作品数はまだまだ少ないのですが、今後もう少し増やして、乳幼児のためのお芝居のフェスティバルを予定しています。まだ先の話になってしまいますが、いずれそこで、子ども文化芸術の先進国でもあるデンマークやスウェーデンの児童演劇を招聘できればとも考えています。
|
「幸せの価値観を選択する時代なんです。」
〜今の大人がするべきことは?〜
|
|
最近、子ども劇場の皆さんに限らず、「子どもたちに“幸せな時間”を提供したい」という声を頻繁に耳にするようになったんですけど、子どもたちにとっての「幸せ」って、どんなものだと思います? |
んー、そうですねー。まずは今と昔の「幸せ」の価値観の変化を認識する必要がありますね。
以前は何かを「獲得する」ことに幸せを感じていました。モノでも何でもそうですが、欠乏感が下敷きとなって人間は、いろんなことに頑張れたのだと思います。でも、今の子どもたちに同じことがいえるでしょうか?
お小遣いやおもちゃなど、大人としたら、「うらやましいねー」というような状況も、子どもにとっては当たり前になってきていて、決して幸せとは感じられなくなっています。逆に今の子ども達は、「何も獲得したくない」「ほしくない」という傾向さえある。大人は「贅沢だ!」というけれど、子どもからすれば、そんなもの欲しくない、と。
ですから大人は、子どもたちの「いい部分」「恵まれている部分」を活かそうとするのではなくて、もっと「負の部分」を見つめていかねばなりません。彼らに無いものとは何か?何を求めているのか?って。
「子どもの感覚でいう“幸せ”とは何か」をもっと突き詰めて、それを実現するために動かねばならないということだと思うんです。
そうして、これからは、彼ら自身が、どうしたら楽しいのか?幸せになるのか?それを選択する力を磨けるようにサポートすることが大切です。できるだけ子どもの視点で彼らのことを考えてあげたいなって思いますね。それが、今の活動の根本的な部分かな、って。
|
インタビュー後記
「実は僕、路地裏の子ども穴場スポットを横浜で捜して、子どもたちに『いい場所見つけました』って情報を流そうかなって思ってるんです」と、イタズラ小僧のように目をきらきらさせてお話されていた大原さん。
凝り固まった大人側の理屈ではなく、常に子どもたちの目線でモノを見て、それを踏まえた上で、「大人ができることとは?」「大人がしなくてはいけないこととは?」を考えながら実行している姿勢に、取材をしている私たちも熱い気持ちが込み上げてきました。
社会問題にまで発展しつつある学校教育や家庭の問題をはじめ、子どもたちを取り巻く環境の悪化を、実は、大人たちはあまり気づいていないようです。でも、大原さんのように、『子ども達の気持ち』を真剣に受け止めようとする大人がもっともっと増えると、この日本の子どもたちの雰囲気や環境も、おのずから変わってくるはずだと思います。
大原さんのお話にうなずきながら、「子どもよりも先に、まずは、大人から変わらないと!」と真剣に思ってしまいました。
さて今夏、「子どもと舞台芸術出会いのフォーラム2002」が、7月26日〜31日まで、国立オリンピック記念青少年総合センターにて開催されます。このイベントでは、子どもと舞台芸術に関するシンポジウムやワークショップ、ショウケース公演など幅広く行われ、演劇&教育関係者や、子どもと芸術文化に関して興味のある方にはピッタリ。大原さんも、企画や事務局として大活躍されています。
詳しくは、芸団協のホームページをご覧下さい。ちなみに、インタビュー中にあった『2〜3歳児のためのはじめてのおしばい』も上演されるとのこと。お楽しみに!
|