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〜エキスパートが語る演劇ワークショップの未来〜


インタビュー第7回
「ドラマで心が癒される!」
<ドラマセラピー実践家・尾上 明代(おのえ・あけよ)>


「ドラマセラピー」という言葉をご存知ですか?
以前、メールマガジン「演劇タイムズ〜ニッポンの演劇はどう変わる?〜」でもご紹介したことがあるのですが、その時は「ドラマセラピー」のほんの一部分しかご紹介できませんでした。
今回は、日本で活躍するドラマセラピーの第一人者、尾上明代さんに、ドラマセラピーとはどういうものなのか、その効果や魅力、日本での現状についておききしました。



ドラマセラピー実践家
全米ドラマセラピー学会会員
尾上 明代さん



「ドラマで心が癒されるということ」
  〜ドラマセラピーって、何?〜




ドラマセラピーとはどういうものですか?

ドラマセラピーは音楽療法や絵画療法などと同じ芸術療法の一つで、私が属するアメリカのドラマセラピー学会では、「ドラマ・演劇のプロセスと結果を系統的、また意図的に用いて、症状を緩和する治療を行なったり、感情的・身体的な統合をすすめたり、また個人の成長を達成させようというもの」と定義しています。

簡単に言うと、ドラマという架空の設定の中で「別の人間」になって、自分の感情や言いたいことを吐き出す。

それを心身の癒しにつなげるというものです。 ドラマセラピーの先進国アメリカでは、病院の精神科での治療として、あるいはターミナルケアの一環として、また障害を持つ人のリハビリとして、家族などを亡くした人に悲しみを乗り越えてもらうため、さらに教育現場や老人ホームで、などなど様々な場所・目的で実践されています。

このように、一口に「ドラマセラピー」といっても、かなり多くのアプローチや方法があるんです。それだけ応用性の高いものだと言えますね。



サイコドラマとドラマセラピーの違いは何ですか?

例えば辛い場面を体験した人がいたとします。

ドラマセラピーでは、その人が抱えている怒りや悲しみを、実際にあったものとは違ったシチュエーションと人物設定で、吐き出してもらいます。そのようなストレスを、ドラマを通じて吐き出すことで、その人の心が楽になってゆきます。

またその時、自分自身を客観視することで、自分の中での有効な気づきが得られたり、問題解決の糸口が見つかることもあります。

この「役になる・違う場面を演じる」という部分がポイントで、現実から距離を取った場で、溜めていたものを吐き出すことによって、現実の自分も楽になる、というのがドラマセラピーの効果の一つなんですよ。

これがサイコドラマとなると、日本でも一部の精神科医や臨床心理士の方々が行なっていらっしゃいますが、現実の話をその人本人に演じてもらうわけです。

だから、現実との距離がないから、効く時には強力なんですが、そうでない場合には逆に辛くなったりすることもあり得ます。クライアントさんの状況やタイミングなどにより、私もセッションに取り入れることもありますが、きちんとした知識と経験等を持たずに行なうのは危険な場合もあります。

もちろん、もっと細かく言うと色々あるんですけど、簡単に分かりやすく言えば「別人の役を演じて」自分自身と距離を取って問題を解決してゆくものがドラマセラピーです。

またサイコドラマティストが、ディレクターとしてセッションを進行するのに対してドラマセラピストは、「演劇畑」出身の人が多いことから、自身がクライアントの相手役を演じながらセッションを進めて行ける人が多いですね。この辺も両者の違いの一つでしょう。



「ドラマの“副作物”の素晴らしさを、
誰にでも気軽に楽しんでもらいたいんです。」




尾上さんとドラマセラピーの出会いは?

私、本当は役者になりたくて訓練を受けていたんですが、あるオーディションがきっかけでアナウンサーになってしまいました。でもその後、英語の番組に出たり、結局俳優としてアメリカでのロケを体験したりと、いろんな活動をしていました。

市民劇団や、新人タレントの養成所で演技を教えていたときのこと、そこで、お芝居をやっているうちに、例えば拒食症が治ったとか、家族との関係が良くなったとか、うれしい“副産物”が現れた人たちが出てきて、演劇の「癒しの力」はすごいなぁと実感するようになったんです。

ちょうどそんな時、「一般市民に演劇を普及するための研究」という目的で、文化庁の芸術家在外派遣研修員に選ばれ、アメリカ・イリノイ大学の演劇学部が客員講師として迎えてくれたんです。

私は、例えば日本の子どもたちに、別にピアニストになるつもりがなくてもピアノを習うように、劇を習ってほしい!もっと日本の一般の人が、役者になるつもりはなくても、演劇を実践してほしい!とずっと思ってきました。でも日本の市民劇団は、欧米のそれに比べると意識や活動のレベルが遅れていて、多くの人が気軽に楽しめる環境がない、と。アメリカでそんなことに気付いたんです。


そして偶然、いえ必然でしょうね。シカゴでドラマセラピーと出会ったんです!! 最初に助手として入ったセッションのクライアントさんは凶悪なレイプ事件の被害者でした。

私が挨拶しても彼女は無表情のまま私を無視して、感情のないロボットのようでした。ところが、ドラマを演じる瞬間になったら表情豊かに、ものすごくイキイキと動き出して、怒りや悲しみを表現しているんです。その姿を見て涙が出てきてしまって……。とにかく、身震いするような感動を味わって、「これを日本に帰ってみんなに広めよう」と。そして、今まで突っ走って来たわけなんですよ。



今、尾上さんは具体的にはどういう活動をなさっているんですか?

今お話したように、とにかく一般の方々にもっと「演劇」を普及したい。「ドラマ」することの楽しさやその効用を体験してもらいたいんですが、「演劇」なんていうと、「自分には関係ない世界だ」とか「やってみたい気もするが、恥ずかしくて…」という人たちがいそうですよね。

ドラマセラピーは、楽しいゲームや即興劇などを中心に、経験の有無や上手下手など関係なくできるものなので、入口が広くて入りやすいと思っています。

私は今、カルチャーセンターや小学校などで、また一般の人向けのセミナーや企業研修というかたちでも行なっています。日本では「セラピー」という言葉がつくと、「病気の方だけのための治療」と思われがちですが、そうではなくて、例えば「アロマセラピー」「アニマルセラピー」などのように、普通の人が気楽に利用できるものとして提供したいと思っているんです。


その際「心の癒し」を目指して少しでも心が軽く楽になるように、「悩みの解決の糸口」になるようにという意図を持って行なっています。



尾上さんが、今1番力を入れている活動は何ですか?

今私が最も力を入れているのが、子どもたち向けのドラマセラピーです。

子どもたちは「ドラマの中で」私を相手に精一杯反抗してみたり、甘えたり…とにかく心底楽しんでくれる。私は子どもの心を読んで、その心が「行きたい方へ一緒に行く」という目的だけを自分の心の底にインプットしておき、その場ではほとんど直感的に対応していくんです。

終わったあと「友達と仲良くなれた」「その後の授業で堂々と発言できるようになった」「悩みが気にならなくなった」「家でのストレスを解消できた」「楽しくて足の痛みを忘れていた(持病を持っている子ども)」等などの手紙をくれるんです。

精神的なある病気ということで強い薬を飲んでいるK君は、私が母親の役になると甘えてきます。私が全身全霊で受け止めてドラマの中でマザリングするととても落ち着いた様子で可愛い笑顔を見せて、「とってもうれしかった。心から感謝してます。」ときちんとしたことばでお礼を言ってくれたんです。

ドラマをすると、彼の家での様子や実のお母さんの様子まで「見えて」きます。「彼のお母さんが彼を抱きしめてあげさえすれば薬は不要なのでは?」と感じました。私は医者ではないので、勿論これは単なる私の印象ですよ。念のため。でも、こういう風に感じることがよくあるんです。


一緒に「ドラマ」を演じることで、感情を吐き出させるだけじゃなくて、悩みも一緒に共有することが出来るんですね。

ええ。「ドラマ」というモードを使うと普段の生活の中で親や先生も気づかないことが、すぐに見えてくる。これが「ドラマ」の力なんです。

そして、もっとすごいのは、子どもたちがあまりに喜んでくれるので、私自身の心も癒されるということ!

本来、“癒し”というのは癒す側と癒される側に分けられるものではない、と私は考えています。癒される側に癒しが起きる時、同時に癒す側もその行為の中で自らも癒される、というような相互補足的なものではないかと。

また、100人、200人という大人数を対象に講演をして、そこで、聴衆の方々に実際に体験してもらったりもしますよ。以前、とある大会社の社長さんたちを集めた講演会の時には、皆さん「久々に感情を表に出せた」と口を揃えて、とても喜んで下さいました。

日本人(特に男性)はもともと表現が苦手だったり、感情を表すことは良くないと考えがちですよね。ましてやお仕事で高いポジションにいる方は、その「立場・役職」上、普段は自分の本当の感情を抑えていることが多いはず。そういうのは、心にはもちろん、身体にもよくありません。

「ドラマ」の中で怒りや悲しみを吐き出したり、また思いっきり笑ったりすることを通して、実生活でももっとラクになって頂きたいですね。


ドラマセラピーの必要性を、
  社会に
伝えてゆきたい」




日本にはドラマセラピストの受け皿はあるのでしょうか?

アメリカの場合は、日本と違って病院や福祉施設などでフルタイムや、パートタイムでドラマセラピストを募集するところもあります。

日本では、「少ない」というより「ゼロ」に等しいですね。そもそもドラマセラピストがいない。養成する機関もありませんから、資格というものがないと受け入れられにくい日本では、とても厳しい状況です。

理想としては、将来私が日本で(大学などの教育現場で)ドラマセラピストを養成できるようになりたいと思っています。今私は、ある大学でドラマセラピーを教える機会を得ていますが、もちろん、まだまだ「養成する」体制にも時期にもなっていないわけです。

ドラマセラピーを習得したいと思ったら、アメリカ、あるいはイギリスの大学院に行くしかない今、英語ができない人はドラマセラピーを勉強できない、ということになってしまうので、その点でも「道」が狭くなっていると思います。

何と言っても、現代は心の癒しを求めている人は本当にたくさんいて、ドラマの存在がそういう人たちに有効なんですからね。まずは、そんな事実を伝えたいという思いもあります。



そのためには、ドラマセラピーの理解者や、実績やノウハウを持つ人材がもっと増えて、社会からの声が大きくなる必要がありますね。

ええ。だから本当に大変ですよ。今、初めの第1歩を、いえ、一歩にも行っているかどうかわからないような状態なんです。でも、淡々と気負わずに、出来るところまでやりたいと思っています。 だって出来るところまでしか、出来ないですもの。(笑)



今後、ドラマセラピストとして伝えてゆきたいことはありますか?

現代という時代は、マイナスの方向に向けられた怒りや我慢をためている人が多い世の中なので、そういう良くない感情は早めに吐き出しましょう、ということを伝えたい。

ストレス解消の方法は人それぞれで良いんですが、感情を吐き出したりするのに最も良い活動の1つがドラマセラピーだと思います。 日本人は溜め込みやすいんですよね。顔で笑って心で泣いて(笑)。それが良いこととされている文化ですからね。たとえ10回に1回でも、いろんな感情は外へ出した方がいい。

「え?何であの人が?」という人がうつ病になったりするような世の中。自殺や突然死などが増える現代のようなストレス社会において、バーチャルリアリティーの中で、そう、ドラマという“安全な枠組み”の中で気持ちを吐き出したり、癒されることのできるドラマセラピーをもっと多くの人に知って欲しいと思いますね。





インタビュー後記


紙面の都合上、全ては紹介し切れませんでしたが、ドラマセラピーの実証例には本当に様々なケースがあって、取材を通じて「ドラマ」がもつ癒しの力に改めて驚かされました。

演劇をやっていると、どうしても自分の楽しみに走りがちになりますが、ドラマセラピストの一番の特長は「相手を癒す」ということ。共にドラマを演じる中で、相手の心に気づき、相手がもっとも望む方向へと導き、そして癒してゆく……。

ドラマや演劇のもつこんな力を、一般の方々はもちろん、多くの演劇人の皆さんにも、ぜひ知っていただきたいと思いました。そうすることで、演劇そのものの素晴らしさを実感し、より素晴らしい舞台を作り上げてゆけるでしょう。

演劇の未来。その新たな形の1つが、ドラマセラピーの中に見えてきたような気がします。


(取材・構成・文/O)
2003/8/1


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