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〜エキスパートが語る演劇ワークショップの未来〜


インタビュー第8回
「子どもの魅力を引き出すエキスパート」
〜小学校でワークショップをする魅力〜

皆さんが子どもだった頃、小学校といえばどんなところでしたか?「勉強」、「友達」、「遊び」、「給食」、「ケンカ」、「初恋」、「休み時間」……。いろんなキーワードが、数々の思い出としてよみがえってきます。そして最近では、この中に、「表現」、「演劇」、「ワークショップ」というキーワードも加わりつつあります――――。

いまや全国的に普及している表現ワークショップ。その多くは、地域の公共施設などで行われています。これらのワークショップが、表現に興味を持つ一部の人だけのものではなく、未来を担う全ての子どもたちのものとなれば、こんなに素敵なことはありません。子どもたちに向けたワークショップ、それにぴったりの場所こそが、「小学校」なのです。

まだまだ一般的ではありませんが、最近では、さまざまな表現ワークショップを実践する小学校が少しずつ増えてきました。さらに、ワークショップによって、子どもたちに変化が起きているという話を、耳にすることが多くなってきています。これらのワークショップを支えているのは、プロのアーティストや教育者。ワークショップそのものが、まだ十分に認知されていない時代の中で、彼らはたくさんの学校関係者や子どもたちに働きかけながら、その効果や魅力を伝えようと奮闘しています。

そこで、小学校ワークショップを開拓する3人のリーダーを直撃して、次の4つの質問にお答えいただきました。

 1  小学校でのワークショップを始めたきっかけは?
 2  ワークショップをやって感じることは?
 3  小学校でワークショップをすることの大切さとは?
 4  子どもたちへ期待することは?

彼らの生の声を聞いてみると、そこから、ワークショップの可能性、理想の学校、未来の子供たちの姿が、徐々に映し出されてゆきます。そこで、今回の「キーパーソンに聞け!」では特別板として、3人のリーダーのインタビューを一挙にお届けします!


●「パントマイムで遊ぼう」
 〜勝沼紀義(かつぬま きよし)さん〜

俳優、声優、パフォーマー
日本大学芸術学部演劇学科卒業。
俳優として舞台や映像、声優として洋画吹き替えやボイスオーバーなどをこなす。
また、パントマイムを中心としたパフォーマーとしても活躍。
現在、モアナ・ファクトリー所属



小学校でのワークショップを始めたきっかけは?

はじめ、新聞で「腹話術をやっている校長先生(※1)がいるぞ!」という記事を読んだんです。で、「面白い先生がいるな」と興味を惹かれて、どんな活動をしていらっしゃるのか知りたくて電話をしたんです。

色々とお話を伺っているうちに、「日本子ども文化学会(※2)を立ち上げる準備をしているんだけど、ちょっと参加してみないか」というお話を頂いて…。
正直、おっかなびっくりでした(笑)!でも、僕の持っている技術が何かのお役に立てるのであれば、と思って参加することにしたんです。

(※1飯口進さん/※2日本子ども文化学会 ともに、「キーパーソンに聞け!第3回」をご参照ください)



やってみた感想は?

学校のワークショップは、とにかく刺激的です。子どもたちの無限の可能性に毎回びっくりします。彼らは、大人のような遠慮とか照れがないせいか、想像したものを直球で投げてくるんですよ。

パントマイムって、何にもないところから感じたり、想像したりして、それを表現するでしょ?彼らはそれがとても上手。彼らの表現は大人では絶対に出せないほど豊かで、直球で、ドキドキするんですよ。



学校でワークショップを行うことはどうして大切?

今の学校は、子どもたちが何かの行動を起こす前から「あれはやっちゃいけない。こういうことをしちゃいけない」って規制しちゃって、失敗することを知らない子が増えてると思うんですよ。

そして、そういう子って、どこか窮屈そうで、妙にお利口さんなんですよね。僕は、それを取り去ってあげたいんです。そして、自分がやっちゃったことに対して、「こうやったら傷つくんだ」「こうやったら恥ずかしいんだ」ということを、ちゃんと感じて成長して欲しいと思うんです。そして、その環境を大人が作ってあげるべきだと思うんです。

学校でこういった表現ワークショップを行うということは、この環境作りの第一歩として、とても大きな意義を持つものだと思いますね。



子どもたちに期待することは?

自分の意見や気持ちを押し殺さずに、素直に表現できる人になって欲しいです。

学校って、特別な場所ではなくて「当たり前」に通っている場所でしょ?周りにいる友達だって、「当たり前」にいる。でも、表現ワークショップを体験すると、その友達の意外な側面が見えて、仲間同士で相手を改めて見直すことができるんですよ。

今までおとなしかった子が、マイムがとても上手で、「お前スゴイな!」なんて言われて、いきなりクラスのヒーローになったり、新しい友達ができたり。そうやって、互いに認めあえる環境ができれば、もっともっとのびのびと自分の意見が言えて、素直に表現できるようになると思うんですよね。そして、パントマイムがそのきっかけになれば、これほど嬉しいことはありませんね。


●「手話で遊ぼう」〜中川富美(なかがわ ふみ)さん〜

手話に興味を持ち、20年近く勤めた区立の小学校から都立のろう学校へ。
現在は都立大塚ろう学校で小学部1年の担任を務めながら、積極的なワークショップ活動を行っている。


小学校でのワークショップを始めたきっかけは?

区立小学校の児童文化部の先生が中心になってこの「日本子ども文化学会」を立ち上げたんです。私は、以前は区立の普通の小学校で勤めていたのですが、手話に興味を持って、8年前からろう学校に勤務するようになったんです。そうしたら、以前に勤務していた学校の先生が声を掛けてくださって、「これは面白い!」と思って参加することになりました。



やってみた感想は?

子どもたちは手話ゲームを覚えるのが本当に早くて、「先生、もっと知りたい、もっと教えて!」と、本当に積極的です。そして、実際に覚え始めると、素晴らしい身体表現を発揮するんです。教えている私が、いつも驚かされてるんですよ。

手話って「言葉を使わない表現方法」ですから、心や身体、表情を本当にたくさん使うんです。勿論、国によって表現方法が違ったりもするんですが、たいてい、どこに行っても理解し会える世界共通語みたいなものなんです。

この表現方法を通じて、「言葉がなくても理解しあえるんだ!分かり合えるんだ!」ということに気付いてくれる。これが本当に嬉しいですね。



学校でワークショップを行うことはどうして大切?

普通の区立の小学校へ通っていると、ハンディキャップを持っている友達との接点が本当に少ないので、その分、ハンディキャップへの知識も、理解も薄らいでしまいがちです。

でも、このワークショップを通じて手話に興味を持ってもらえるというのは、本当に素晴らしいことです。そして、ろう話者を含め、ハンディキャップを持っている人への知識や理解を深めるきっかけとして、こういう表現ワークショップはとても大切なものだと思いますね。



子どもたちに期待することは?

ゲームを通して「手話」を知り、さらに勉強したい、という探究心が芽生えてくれればいいな、と思います。
   
世の中には、たくさんのハンディキャップを持った人がいます。その事を知り、いろいろな人とコミュニケーションを取れるようになってくれれば、誰にでも生きやすい世の中になるんじゃないかな。


●「演劇表現で遊ぼう」〜増野亜土(ましの あど)さん〜

俳優、パフォーマー。ほっとけないコミュニケーションズ代表。
1990年より、俳優として全国の公共ホール、学校などを回り、そのステージ数は1000を超える。
1999年より、演劇ワークショップ講師として小学校や学童保育などに精力的に活動を広め、総合的な学習の時間の中で「演劇を通じて自己表現をする授業」を行ったり、新しい演劇のカタチ、コミュニケーションのツールとしての舞台表現に挑戦し続けている。



小学校でのワークショップを始めたきっかけは?

僕は、俳優として学校の演劇鑑賞会などでいろんなところに行ってたんです。そうすると、いろいろなところで、多くの先生から「自己表現の苦手な子どもがいるから、なにか指導してもらえないか」という相談を受けることが時々あって、それで、ワークショップを開いたりしてたんですよ。

ゲストティーチャーとして、中学校に招かれたこともありましたね。学童保育でワークショップを開いたり、学芸会の指導もしたりしてました。そうすると、子どもの反応がすごくよかったんです。すごく生き生きしてて。僕も、同じ目の高さで一緒にクリエイトしてゆくことができて、すごく楽しかったんです。

今、こういう活動をしているのも、これまでの活動の中で繋がった先生方からのお誘いを受けたからです。



やってみた感想は?

とにかく、子どもたちの感性がすごくて、教えるよりも教えられることのほうが多いですね。刺激的で、自分の俳優としての考え方なんかにもすごく影響を及ぼされると言うか、いっぱい発見をさせてもらっています。



学校でワークショップを行うことはどうして大切?

自分が何をすればいいのか、ということを考えるきっかけになることでしょうか。

いろんなところでワークショップをやりましたが、よく先生から、「演劇なんて嫌いだ、といっていた子が学芸会で主役をかってでた」とか、「今まで手を上げて発言することのなかった子が、今では堂々と手を上げて発言してくれる」という嬉しい報告を頂きます。

これが、演劇の力なんだって、改めて思いますね。

何もないところからいろんな物を想像し、表現する。そうしてゆくうちに、自分の中にあるいろんな物を発見すると言うか、自分でも気付かなかった心の扉を開くきっかけになるんですよね。そして、それを人に見てもらって、認めてもらうことで、子どもたちにはすごく自信になると思うんです。

そういうことを、教えてあげられる機会をつくることは、すごく大切で、学校での表現ワークショップは絶好の機会なんだと思います。




子どもたちに期待することは?

新しいコミュニケーションを見つけて欲しいです。今までの日本人には持ち得なかった感覚というのかな。

自分の心の扉をたくさん見つけて、それをガチャリと開いて、そして、新しいものをどんどんと創造したり発見したりして、それを伝え合う…。子どもたちには、本当に無限の可能性を感じるんですよ。僕らでは思いも付かないようなことが、どんどんと溢れ出てくる。彼らが扉を開けるたびに、新しい世界がドンドンと広まって行く気がするんです。少しでも多くの子どもが、そんな体験をして、自分の世界だけでなく、人の世界も理解しあって、共有しあえれば、きっと世の中だって変わると思うんです。

そして、僕もその扉を一緒に開いてゆければ素晴らしいと思いますね。





インタビュー後記


リーダーたちが繰り広げる表現ワークショップに参加する子どもたちの顔は、初めての体験に興奮して、ほんのりと頬が染まっていました。そして、初めのうちは恥ずかしがってはにかんでいた顔も、ワークショップが進むにつれて徐々にほぐれ、終了の時間が近づく頃には、「もっと知りたい!もっと楽しみたい!」とキラキラした目を講師に向けているのです。

現場を知るリーダーたちは、「とにかく子どもの想像力はすごい!無限の可能性を秘めている!」と、誰もが口をそろえます。そして、「子どもたちの可能性を規制しない、自由な発想を引き出してあげられる“文化的な環境”を作ることが最も重要だ」とも言います。

いま、少なくなった授業日数の中で学力を低下させないために演劇鑑賞教室などを削って、その時間を授業に当てる学校も少なくはありません。このままでは、学校が子どもたちにとって「文化的な環境」ではなくなってしまいます。

授業スケジュールや学力の問題から考えると、「文化的な環境」というものを作り出すことは確かに難しいのかもしれません。でも、リーダーたちのお話を伺うにつれ、本当の意味での「ゆとりの時間」を与えてくれるのは、文化。「文化的な時間」こそが子どもたちに必要なんじゃないか、と感じました。それを引き戻してくれるのが、ワークショップというものなのかもしれません。

そして、実際にパントマイムや手話、演劇に触れている子どもたちの顔を見るにつけ、彼らが「文化」を心から欲していることを実感することができました。

こうしたワークショップを行っているプロのアーティストや講師は、全国に数多く存在します。今こそ、学校とアーティストがタッグを組んで、子どもたちの未来を考える時期なのではないでしょうか。


(取材・構成・文/O)




2004/1/21





「キーパーソンに聞け!」では、今後もさまざまな方へのインタビューを取り上げてゆきます。ご意見ご感想、または「こんな人を取り上げてほしい」などのご要望などがございましたら、こちらまで、どうぞお気軽にお寄せくださ い。