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スタニスラフスキー・システム vol.3〜焦点と集中力〜
さて、前回までは身体的行動からの演技術を見てきました。しかし、身体的行動だけでは演技は成立しません。そこで、次のステップとして取り上げているのが「精神行動」です。彼は、この精神行動を訓練するための課題として、以下の4つをあげています。 1、焦点と集中力 2、想像力 3、サブテキスト 4、情緒の記憶 まず、焦点と集中力についてみてみましょう。 俳優の生きている世界は、台本上に描かれている虚構の世界です。ですから、俳優の意識は常に舞台上の出来事や人物に焦点を絞って集中されていなければいけません。そして、俳優が焦点を当てたものに対して観客も焦点を当てているのだということを理解しなくてはいけません。 例えて言うと、スポーツ選手がどれだけ観客の声が大きかろうと、自分のボールがどこに飛んで行ったかのみに集中しているのと同じです。自分自身や観客にしか焦点があたっていない演技がどれほど低レベルなものか、この例えからも想像がつくことと思います。 ●焦点と集中力 焦点と集中力をたかめる訓練として、まずは、視覚・聴覚・臭覚・味覚・触覚の五感を鍛えてゆきます。 たとえば視覚であれば、1枚の写真をしっかりと見て記憶します。そして、その写真を隠した状態でどれだけ正確に人に伝えられるか訓練します。聴覚の場合は、部屋の中の音に集中したり、部屋の外の音に集中したり、それぞれの音に焦点を切り替えたりすることで、耳の集中力を高めてゆきます。五感に対する意識を高めることで、演技をリアルにしてゆくことが出来るのです。 つまり、タバコ臭い部屋に入ったときにどう感じるか、どう表現するかなど、うわべだけではないリアルな行動が取れるようになるのと同時に、感情もリアルに動き出すというわけです。 こうして、個人の五感を鍛えると同時に、複数での訓練も必要です。舞台上にはたくさんの人が登場し、同時にいろいろなことを進めてゆくわけですから、1つのものに集中しているだけではいけません。日常生活でも、アイロンをかけながら人と会話するというような場面があるかと思います。しかし、簡単な動きであれば混乱することなく進めることが出来るのですが、コミカルなイラストを描きながら最近の失恋の話を語る、なんてことは非常に難しいものです。 このように、集中の焦点が離れていればいるほど、同時にこなすことは難しくなってきます。心と身体、感情と行動は常に表裏一体ですから、とにかく動いていればいい、とにかく感情を爆発させていればいいというような、どちらか一方だけの演技というのは本来ありえないわけです。ですから、複数の人とものに対して、正当な理由をもって焦点を当ててゆく訓練が必要になってくるのです。 このためのステップとして、「注意の環」をコントロールする技術を磨いてゆく訓練に入ります。「注意の環」とは、俳優が演技をする時に集中力を働かせる空間のことを言います。これは、自分自身や目の前の小道具などの狭い空間のときもあれば、会話をしているシーンや舞台上の比較的広い空間のこともあり、舞台よりも遠くの周囲の景色や観客席など、遠くてはっきりと把握できないくらいに広い場合もあります。 この「注意の環」の中でもっとも焦点を当てているものを「注意の対象」と呼び、それがどれくらいの大きさの環の中にいるのか、または自分自身がその環の中に入っているのか外にいるのかも把握してゆく必要があります。なぜなら、俳優が小さな注意の環の中で演技をしている時には、観客もその1点に集中しているし、大きな注意の環の中で演技をしている時には、観客もまた舞台全体を広くイメージして観ているからです。 俳優の注意が散漫になると、とたんに観客席の空気がだれてしまったり、観客が物語の軸をつかめずに混乱してしまったりするということは、俳優であれば誰しもが経験したことがあるでしょう。そういう事態になると、一番不幸なのはお金を払って観に来ているお客様です。そんな不幸を招かないためにも、俳優は注意の環をコントロールする技術を磨く必要があるのです。 そうは言っても、「注意しよう」「集中しよう」と念じるだけではいけません。身体的な行動にも裏づけがあったように、精神的な集中にも裏づけがあります。それは、役や物語の「目的」を持つということです。目的がないと、集中なんてできませんものね。ただ「スカーフを巻く」ということだけでも、そこには理由があり、目的があります。もし注意が散漫になり、集中力がなくなってきたら、注意の環を最小限に小さくして、そこからもう一度環を拡げてゆくことで、集中力も戻ってくるというものです。 そして、この集中力を鍛えるのに一番身近な訓練としては、日ごろの生活をよくよく観察することです。たとえば、友達が昨日はどんな服装をしていたかを思い出してみたり、昔によく知っていた町を訪れて、何か変わったことがないかを観察したり、道端や電車の中でみた面白い人を思い出してみたり。そういう些細な事柄でも、どこかにメモしておけば、きっと舞台上でのお芝居にも役立ってゆくことでしょう。 あなたは、どれだけの集中力がありますか? ためしに、昨日の晩御飯を思い出してみるのも、実はいい訓練になるものなのですね。 参考文献:演技ー創造の実際ー ジーン・ベネディー著 晩成書房出版 参考サイト:TRAINER LABO http://trainer-labo.com/index.html |
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(文・O)2006/4/10
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