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メソッドってどんなの?!
 
 
スタニスラフスキー・システム vol.5〜情緒の記憶〜

さて前回では、台本上には書かれてはいない、けれどもお芝居を作るうえで大切な“役の感情”などを「想像力」を使って作り上げてゆくことの大切さについて触れました。しかし、ただ想像するだけでは、限界があります。そこで必要になってくるものが、今回触れる「情緒の記憶」というものです。

●情緒の記憶

スタニスラフスキーが述べている「情緒の記憶」とは、それぞれの人生経験のなかで体験したことを、身体的にも心理的にも思い出す能力や技術のことを指します。台本に書かれているものを理論的に分析し、少ないヒントから状況や感情を想像し、具現化するだけでは、ただのマリオネットになってしまいます。舞台上で繰り広げられている世界の中の一人の人間として存在するためには、俳優自らの過去の経験も利用する必要があるのです。そうする事によって、より演技に真実味が増してくるからです。

しかし、人間の記憶というのは非常に曖昧で、うつろい易いものですよね。そんな不確かなものを確かなものにするために、スタニスラフスキーは日常での経験を大切にし、日々情緒の記憶を高める練習方法を示してくれました。情緒の記憶には、脳が記憶しているものと、身体が記憶しているものとがあります。これは、くっきりと線引きできるものではありませんが、これらを鍛えるために、五感をつかった練習をしてゆきます。

例えば、視覚であれば、以前に住んでいた家を思い出してみる、ネコや犬などの動物を思い出してみる。味覚なら、食べ物の味、嗅覚なら海や花の香り、焼肉やカレーのにおい、聴覚なら波の音、虫の飛ぶ音、触覚なら洋服の感触や、動物をなでた時の感覚、等々…。

日常にあるものを、全て思い出してみましょう。得意なものと不得意なものがあるでしょうが、不得意なものは後回しでもいいのです。得意なものから始めて、しばらくして不得意なものに戻ってきてみると、意外とすんなり出来るようになっていることでしょう。

こうして練習を進めたら、今度は過去の経験に基づいた情緒の記憶の練習に入ります。
楽しいパーティーの時のこと、何か不愉快な思いをした時のこと、恥ずかしかった時のこと、嬉しい知らせをもらった時のこと、悲しい知らせを聞いた時のこと。いろいろなことを思い出してみてください。たくさんの経験があることに気づくことでしょう。

これらの記憶は、全て舞台の登場人物の感情に反映され、お芝居の中に組み込まれてゆくものです。そういう引き出しが多ければ多いほど、まだ、引き出しからすぐに取り出す技術があればあるほど、稽古はスムーズに進み、登場人物に真実味のある感情を流してゆくことが出来るというわけです。

たくさんの引き出しがそろったら、登場人物が経験することとよく似た自分自身の情緒的経験(過去)と、それと同じ感情を引き出す環境(現在)を作り上げて練習してみます。こうすることで、過去と現在が融合し、架空の世界の出来事でありながらも、真実味のある、観客の心を揺さぶることのできる空間が出来上がってくるのです。

●こころとからだ

さて、今まで心と身体を別々にして扱ってきました。しかし、スタニスラフスキーが心と身体を別々に捕らえていた訳ではありません。あくまでも、学習する上での便宜上の区別でした。心と身体の使い方が分かってきたら、それがいかに連動しているかということを学びます。その為の練習課題として、以下のものをあげています。

1)心理的状態が行為や行動に与える影響
2)からだの状態が心理的行動に与える影響
3)個人の生活環境が行動に与える影響
4)外からの刺激が行動に与える影響

1)は、喜怒哀楽などの精神状態が、どのように行動に影響を与えるかを確かめるものです。例えば、嬉しいことを考えている人は、自然と口元が笑っていたりしますよね。笑顔で悲しいことを考えるなんてことは、難しいものです。

2)は、例えばへとへとに疲れている時、疲れた演技をするのではなくて、何故疲れているかを知ることで、おのずと感情も動いてくるというものです。恐怖におびえて逃げ回っている時に疲れているのと、いっぱい遊んだ後に疲れているのとでは、心理的行動は全然違ってくるものです。

3)は、例えば好きな人と話している時の表情と、嫌いな人と話している時の表情は違いますよね。勿論、行動にも違いが出てくることでしょう。休暇中の行動と、仕事中の行動でも違います。

4)は、明かりや音、景色、時間帯など、外的なものからの刺激によって違ってくる行動のことです。燦燦と輝く太陽の下、海の香りがしてきたらどんな気持ちになりますか?夜、静かな部屋で本を読んでいる時に、窓の外で急に大きな音がしたら、どんな行動をとりますか?外からの刺激によっても、身体や心の動きは大きく左右されるものですよね。

これらのことを日々記憶し心に留めておくことで、演技の引き出しが多くなり、よりリアリティーのあるお芝居が創れるというわけです。日常がすでに、俳優修行になっているわけなんですね。ちょっと試してみてください。意外と面白いですよ。


参考文献:演技ー創造の実際ー ジーン・ベネディー著 晩成書房出版
参考サイト:TRAINER LABO http://trainer-labo.com/index.html



(文・O)2006/6/12