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スタニスラフスキー・システム vol.6 〜コミュニケーション
身振り手振りが大きな欧米人に比べ、日本人は自分の意見を言うのが下手だ、コミュニケーション下手だ、とは昔からよく言われています。しかし、コミュニケーションは大きく派手なアクションや言葉だけで成立しているものではありません。目線、声色、表情、感情から発せられる空気等々、コミュニケーションにはさまざまな手段が存在しています。 また、もし一人でいたとしても、あれこれと浮かんでくる自分の思いや、想像、感情といったものと密接に関わって生きています。スタニスラフスキーは、これを「相互作用」と呼んでいました。 悲しいかな、実生活では普通に出来ているこの相互作用も、舞台に上がるととたんに出来なくなってしまう俳優さんはたくさんいます。例えば、自分の台詞ではないところでは感情を動かすことなく、次に自分の台詞がくるまでただ待っていて、自分の番になった瞬間に生き返る俳優さんがそれです。 これでは、一緒に舞台に立っている俳優さんは壁に向かって話しかけているようなもの。生きた会話なんてできっこないですよね。もちろん、そうやって順番を待っているだけの俳優さんも、自分が演じている役に対して何のエネルギーも受け取ることが出来ませんから、本来動くはずの感情を動かすことが出来ずに、勝手に自滅してゆく羽目になります。 こんな舞台は、共演者はもとより、観ているお客さんにとっても大迷惑。時間を割いて観るだけの価値のある舞台には程遠いものになってしまいます。すくなくとも、17世紀頃から、こういう俳優さんにはたくさんの苦情が出ていたのだとか。スタニスラフスキーもずいぶんと泣かされたようですね。 そこで彼は、コミュニケーションの基本要素、コミュニケーション行為の構造、形態を分析し、これらをさまざまな場面に適応させる訓練を試みていました。 まず、コミュニケーションの基本要素として、次の4つを挙げています。 ・伝達しようとしている内容がある。 ・伝達したい人(対象)がいる(存在する)。 ・コミュニケーション手段がある。(おしゃべり・仕草・視線 等々) ・対象から受け取った反応によって必要な手段を選択する。 これらの要素を持って、コミュニケーションをするわけですが、実生活では5段階に分けてコミュニケーションがとられてゆきます。 1、コミュニケーションをとろうとする相手(注意の対象)を選択する。 2、相手に注意を集中し、それからこちらに相手の注意をひく。 3、相手がどういう精神状態にあり、どういう気分なのかを察する。 4、出来る限りの最良の方法で、伝えたいことを伝える。 そうすることで、相手も上っ面ではない深い部分を共有するようになる。 5、コミュニケーションが終了する。(目的が達成される) まず、コミュニケーションをする人が“目的”を持つことから始まります。そして“目的”を達成するために相手を選択し、注意を引き、相手が自分の要求を聞いてくれるかどうかを観察します。これで、コミュニケーションの3段階まで達成したことになります。 そして、4の段階で大切になってくるのが、どんな方法を選択するのかという部分です。言葉だけ、身振りだけ、目線だけ、などと線引きすることは実際には不可能ですが、いろいろなシーンを使って、言葉だけでコミュニケーションをする、身振りだけでコミュニケーションをする、という風に分けて訓練をしました。 例えば、おしゃべりに夢中になっている2人。突然停電してしまって、そこは真っ暗闇。その中でおしゃべりを続けてみよう。 例えば、静かな図書館の中。離れた場所に座っている友人に、そろそろ約束の場所に向かう時間だということを伝えよう。等々です。 また、スタニスラフスキーは「放射」という言葉も使っていました。これは、心から心へ、ほとんどまっすぐに伝わっている精神性のことを言います。これは、言葉や身振りではなく、目と目を見詰め合ったときに起こります。その時、無理に表情を作るのではなく、顔が内面の感情に自然に反応しています。 好きな人を見る、嫌いな人見る、深刻な話を持ちかける、笑い話を話そうとしている等、その時のその感情によって、表情や目はまったく違いますよね。本当に大切なのは、「相手と交流しようとする意思」なのです。 そして、最適な方法を選んで5の段階にゆく時、つまり “目的”達成しようとする時、必ずしもスムーズに運ぶとは限りませんよね。お芝居の訓練としてであれば、注意の対象者は要求を絶対に断らない、という約束事を持つことが出来ますが、物語としては簡単に“目的”が達成されたのでは面白くありません。 ハムレットは、「復讐する」という目的を持って物語の世界と関わっていますが、この目的を達成するために、あーでもない、こーでもないと悩みに悩んで、すったもんだするから面白いわけです。 この、目的を達成するための作戦を適応と呼びます。自分が望む目的に到達するために、さまざまな作戦をたてて、成功するまで根気よくがんばることが必要になってきます。この作戦が駄目なら、あの作戦、といった具合です。 そしてスタニスラフスキーは、これらの一連の訓練として、面白い課題を生徒に与えていました。例えば、真剣に話し合いをしているグループがいます。そこに行って、誰か一人に「今すぐお金を貸してほしい」と頼みます。この時、他のメンバーには気づかれないように、そして会議の進行を妨げないように、そっと目的を達成させなければいけません。 さて、あなたならどうしますか――――? ちょっと想像してみるだけでも、結構面白いですよ。 参考文献:演技ー創造の実際ー ジーン・ベネディー著 晩成書房出版 参考サイト:TRAINER LABO http://trainer-labo.com/index.html |
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(文・O)2006/7/10
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