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鳥獣戯画が愛される理由

今、日本で活動している劇団は数限りなくあります。しかし、演劇を観たことがないという人はもちろん、演劇を観たことのある人でも、「難しそう」とか「マイナーっぽい」などという印象から、ついつい敬遠してしまう人の方が多いようです。

日本の演劇業界が、他のエンタテイメント業界、アート業界に比べ、マイナーであり続けているには、必ず、明確な問題があるはず―――。

このコラムでは、現在活躍している劇団にアンケート取材をし、劇団の現状やそれぞれが抱えている問題点、演劇が広く社会に認識されるにはどうしたらいいのかなどのテーマを共に考え、演劇の魅力をより多くの方々へ知っていただくための方法を考察してゆきます。

第3回目の今回は、日本全国をまたにかけて活躍するオリジナルミュージカル劇団「鳥獣戯画」です。


●鳥獣戯画

1975年、作・演出・振り付けを手がける知念正文を中心に創立されたミュージカル劇団。創立当初から全国展開する劇団を目指し、精力的に作品作りを続ける。

その他、知念は、外部舞台、TV、ラジオ、イベント等の創作・演出、振付、出演をしている。劇団飛行船での「孫悟空」は‘98東京都優秀児童演劇賞などを受賞。 振付では「ひらけ!ポンキッキ」やCF、作詞は「こんこんこんのこぎつねさん」「トンガリ体操No.5」他。

歌舞伎とミュージカルをミックスした「歌舞伎ミュージカル」と呼ばれる作品群が特徴。代表作に「白浪五人男」、「桜姫東文章」、「東海道四谷怪談」、など歌舞伎の演目にあるものから、「好色五人女」、「好色一代男」、さらには「真夏の夜の夢」、「ベニスの商人」といった井原西鶴、シェイクスピアをモチーフにしたものまでさまざま。

1992年から、高校演劇鑑賞会などでの招聘公演を開始し、現在は、年間10数本のレパートリー作品によって、全国を巡回している。


●「鳥獣戯画」 主宰・知念正文さんに聞きました。

大人から子どもまで、全国的に支持を受ける「鳥獣戯画」。「歌舞伎ミュージカル」という独特の作風を活かし、今年で創立28年目を迎えます。

「俳優は毎日レッスンすべきだ」という考えから、創立と同時に稽古場をかまえ、常に向上心を持って活動していらっしゃった知念さん。全国展開してゆけるようになるまでには、どのような経緯と苦労があったのでしょうか。演劇タイムズでは、 主宰・知念正文さんに直撃しました。


Q・ 「俳優は毎日レッスンすべき」と常々お話されていますが、稽古期間はどれくらいですか?


基本的なダンスや唄などのレッスンは、学校のカリキュラムのように、午前中にすることにしています。

午後には、定期公演のための稽古、レパートリー公演のための稽古、外からの依頼のイベント等の稽古をしています。

時間は作品の内容によってまるで違います。基本的には、夕方までの4時間くらいですが、いろいろ重なることが多いので、夜までになることも多々あります。


Q・ 全国公演などでお忙しい中、いつ新作を作るのですか?


のべつまくなしに作っています。構想期間は、作品によって随分違います。10年近くもあたためているのもあれば、1ヶ月くらいのものもあり、それを常時10本近く抱えて卵が割れるのを待っているのです。


Q・ 新作を作るとき、どういうところからアイディアを得ますか?


旅の中の風景から、人との会話から、自分の悩みから、そして、音楽から。


Q・ 演劇活動だけで生活できますか?


はい。大学時代から芝居を始めていましたが、あまりアルバイトをした記憶はないんです。

ただ、しっかり、お金が入って来たな、と感じたのは、クリスタル・ルームというショーレストランの演出の手伝いを始めた頃ですかね。
重なって、「ひらけ!ポンキッキ」というTV番組の踊りの振付けをやるようになってからです。


Q・ 劇団の旗揚げから全国展開されてゆくまでには、多くのご苦労があったと思いますが、きっかけはどのようなものでしたか?


(鳥獣戯画は)夏にファミリー向けのミュージカルで、全国を回っていた時、その中のメンバーたちが意気投合して出来ました。

初めから、全国展開の芝居をと考えていたのですが、方法も何も分からず、ただただ演劇をしていました。作るのに懸命で忙しくて、営業のことは、いつしか忘れていました。

それが、12年前ですかね、劇団の作品を観て下さった神奈川県の高校の先生が、生徒たちに見せたいと言って下さいまして、10校に見せました。ああ、こういった公演のやり方もあるんだと、それから、高校や鑑賞団体の方に作品を提出するようになりました。

劇団を始めてから16年後です。のんきな話です。



Q・「鳥獣戯画」の営業体制はどのようなものですか?


メンバー全員で手分けをしてやっています。専属の営業する人間はいないので、営業力はほとんどないと思っています。

主には、声をかけて下さるものを粗相なくやって行くという形ですかね。


Q・劇団の主な収入源を教えて下さい。


レパートリー公演、イベントの請負、知念の外部活動が主です。


全国を飛び回っている「鳥獣戯画」。知念さんを筆頭に、精力的に営業をして現在の地位を築かれたのかと思いきや、とても穏やかで、心温まる雰囲気の答えが返ってきました。

しかし、その穏やかさの中にも、「芝居を創りたい!そして、多くの人たちに観て欲しい!」という強い情熱を感じました。

ただやみくもに営業を重ねるのではなく、「面白いものを創りたい」という情熱と、「声をかけて下さる方々に、是非満足してもらいたい」という誠実な姿勢が、現在の「鳥獣戯画」を作り、支えているのかもしれません。

ところで、知念さんの目には、現在の日本の演劇界はどのように映っているのでしょうか。


Q・ 今後の演劇界は、どうなってゆくと思いますか?


まったく分かりません。ただ、ボクが好まない方向に向かっていることは確かです。


Q・ 演劇やその他の文化芸術の振興に関して、どのようなお考えをお持ちですか?


数多くない海外での体験では、チェコやフランスやカナダやニューヨークでは、音楽や演劇や絵画などを大切にして、とても楽しんでいるのが、とても快かったのです。

また、建物を注意深く扱っているのが印象的でした。「新しけりゃいい」という日本とでは、大きな隔たりがあります。


Q・ 文化振興に関して活動されていることはありますか?


文化の振興に当たるかどうか分かりませんが、子どもたちのミュージカル劇団で作品を作っていること、障害者と一緒にお芝居を作っていること、ぐらいですかね、振興してるのは。


Q・日本の演劇をもっと良くするにはどうしたらいいと思いますか?


ボクはそういった全体の流れからは、外れているようなんです。ですから、ボクが言うことは、まず当たらないと思います。


今、日本の演劇界は、行き詰まりつつあるように見えます。日本独自の文化には目を向けず、「新しい、斬新なものは何か?」ばかりを追求するような若い劇団も少なくありません。また、演劇に関わらず、社会全体が文化や歴史的な価値よりも、効率的で経済的な目先だけの価値にとらわれ過ぎているのかもしれません。

しかし、長い年月を経てもまだ語り継がれるものには、必ず理由があります。それは、時代を超えても変わることのない「人間の心」です。童話も、戯曲も、絵画も、その中に息づく人の心や匂い、悩み、機微を描き、語り継いでいます。

知念さんは、「鳥獣戯画」のホームページの「ちねんの部屋」という日記の中で、次のように語っています。


「芝居をやってるボクらにとって、世の中はなかなか思うに任せないところがありま す。いつも、きゅうきゅうに縛られているような気がします。被害妄想かな。ですか ら、そんな自分達、自分達と同じような思いをしている人たちと、一緒に考え、勇気 や元気を振り絞って、明日に向かえるような作品を書くことが多くなっています。」 (2002.10.11)


人との会話や自分の悩みから作品の題材を拾う知念さん。時代や社会の流れに翻 弄されることなく、「人間の心」に目を向けて、観客の皆さんと共に生きようとい う、劇団としての確固とした「テーマ」を持ち、信念を貫く姿勢が、多くの人々から 愛される理由なのではないでしょうか。


鳥獣戯画ホームページ   >>>  http://www.linkclub.or.jp/~giga/   

(構成/文・O)2003/1/26