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こだまし合う、劇団えるむの心

日本で活動している劇団は数限りなくあります。しかし、そのほとんどが一般には知られていないのが現状です。日本の演劇業界が、他のエンタテイメント業界、アート 業界に比べ、マイナーであり続けているには、必ず、明確な問題があるはず―――。

このコラムでは、現在活躍している劇団にアンケート取材をし、劇団の現状やそれぞれが抱えている問題点、演劇が広く社会に認識されるにはどうしたらいいのかなどのテーマを共に考え、演劇の魅力をより多くの方々へ知っていただくための方法を考察してゆきます。

第4回目の今回は、国内外ともに活躍する児童演劇、「劇団えるむ」です。


●劇団えるむ

1975年、佐藤嘉一を代表とし、劇作・演出家のふじたあさやを創造責任者として 発足。代表作に、「ベッカンコおに」、「地べたっこさまやぁ〜い」、「みどりのゆび」など。

いわゆる「名作モノ」ではなく、地味ながらも人間の本質に迫った作品作りと、「子ども達に、心にズシッとくる作品を見てもらいたい」という思いが定評を呼び、幼児から大人まで、小・中・高校の学校公演やおやこ劇場こども劇場などの演劇鑑賞会を中心に、全国へ広がってゆく。

常にお客様に新しい発見をして頂けるよう、毎年4月に全ての作品のキャスティングの入れ替えをするなど、質の向上を目指して努力を続けている。

また、作品作りにもこだわりを持ち、構想から立ち上げまで最低1年間を費やしている。3月3日より上演される金子みすゞ生誕100年記念公演「みすゞ凛々」は、「みすゞの詩を舞台化する」ということを意識し、構想から初演までに10年以上の歳月を費やした。


●「劇団えるむ」の制作・石井久子さんに聞きました

「児童劇はお子様ランチではいけない。子どもにこそ最良の文化を!」

ホームページを開くと、この言葉がまっさきに目に入ってくる劇団えるむ。今月の「ドラマのある世界へ!」(演劇タイムズ 57号)でもお伝えしたように、児童劇というと、学校や一部の鑑賞団体での公演が多く、一般には目に付きにくいのが現状です。

しかし、そんな中、「劇団えるむ」は海外公演なども積極的に行っています。代表作でもある「ベッカンコおに」は、オーストラリアのフェスティバルで公演し、「東洋の美女と野獣」と絶賛されるなど、児童劇界の代表劇団の1つとなっています。

今回は、精力的な活動を続けている「劇団えるむ」の制作を担当されている石井久子さんに、「劇団えるむ」の活動や、日本の児童劇のこれからを聞いてみました。


Q・ 劇団の旗揚げから、全国展開、海外との合同制作をされてゆくまでには、多くのご苦労があったと思いますが、きっかけはどのようなものでしたか?


いわゆる「名作モノ」といわれる作品を公演していない地味な劇団ですから、見てくださったお客様の口コミで活動が拡がって今日まで来ました。

学校公演などでも「前任校で公演して良かったので」「観た先生から薦められて」「また観たい」といった感じで、そんな話を聞けると本当に嬉しくなります。

海外との交流は「自然に始まっていた」という感があります。アシテジの世界理事長が視察の際にご覧下さり、「どうしてもオーストラリアのフェスティバルで公演したい」と。行けば赤字ですからお断りしました。ところが毎日のようにFaxを送っていらして、ついに根負けしてフェスティバルに参加しました。

人との出会いの積み重ねが気づいたら今のような活動に発展してきたのだと思います。

海外公演にせよ、共同制作にせよ、人と人が文化(演劇)という共通言語でコミュニケーションしながら一つの作品を創り、観客席に届ける作業です。

衝突したり理解しあったりの繰り返しですが、言葉の違い、国の文化の違いこそあれ、日本人同士が一つの芝居を創り出すことと実際には大差が無いのかもしれないと、最近思うようになりました。


Q・どのようにして営業されているのですか?


制作部が担当しています。

確かに営業活動ではありますが、劇場(体育館も含めて)では観客席と劇団が共同して作品を創るわけですから、「一緒に創りましょう」という想いで一つ一つの出会いを大切に、と心がけています。

状況が厳しいですが、だからこそ「一緒に創りましょう」と言いたいですね。


Q・ 「児童劇はお子様ランチじゃいけない!子どもにこそ最良の文化を!」という言葉に共感しますが、今後の児童劇界はどうなっていくとお考えですか?


「お子様ランチ」のことは、よく尋ねられます。

「見せかけだけの芝居じゃなく、子ども達の心にしっかり届く見ごたえのある作品を、想いを込めて創っていこう。大人が持っている子ども観を押し付けちゃいけない。」というところでしょうか。

作品を創るときには、いつもこの「お子様ランチ」を肝に銘じています。

「子どもを取り巻く環境が厳しい時代になった」という言葉が古く感じるほど、状況は悪いと言われて久しいですよね。子どもも大人も「夢ものがたり」を持って生きる(持っている夢を表現する)のが、難しい時代なのでしょうか。

そんな現代社会で好きなことをしている私たちだからこそ「児童演劇は何が出来るのか、何をするのか」を追求して、輪を広げながら活動し続けたいです。

不景気・少子化・教育カリキュラム云々、具体的に様々な問題をクリアしていかなければ、子ども達に芝居を観てもらう道は閉塞の一途を辿ってしまう。

良質の作品を創ることを最大の課題に置きつつ、理解してくださる大人を一人でも多くしていくことを心がけています。


Q・日本の児童劇をよくするには、どうしたらいいと思いますか?


みんな「夢をもち逞しく生きること」。

暗く厳しい状況の中で「え〜っ、何考えてるの〜?!」っていうようなトンチンカンな発想でもいい、踏まれても蹴られても逞しく夢に向かって生きる(いい作品を創る)こと。何がいい作品か、何を伝えたいか、日常のなかで敏感に感じる感性を磨き、追求していくこと。

そして、大切なことの一つとして「若い人材」が育つこと。次の時代を創る人材に能力と元気が無くては。個人的に誤解を恐れず言えば、世知辛い世の中ですから、育ててもらおうなんて思わず「勝手に育ちます」なんて逞しい人、楽しいですよね。  

それから、いい作品を一緒に創ろう(=観よう)というお客さんをもっと増やすこと。観客席の声で作品は育てられますから。

いいことも悪いことも“こだまし合う”観客席と創り手の関係を、これからも大事につくっていきたいですね。それが最大の力かもしれません。


Q・現在の演劇やその他の文化芸術の振興に関して、どう思いますか?


文化芸術というととても高尚な気分になりますが、私は娯楽的なものを含めて文化だと思います。

舞台芸術も美術も、もっと身近に感じられるような土壌作りが必要な気がします。特定のお金持ちのための芸術ではなく、もっと親しまれるものとして。ちっちゃい子も若い人もおじいちゃんおばあちゃんも、みんなで笑ったり泣いたりしんみりしたりする時間・空間を味わって欲しい。

劇団えるむの民話作品は「年齢幅広く観られる」といわれますが、日常の公演で少しでも多くの「いろいろな年齢層の」お客さんと出会えるよう努力することが、そんな夢に少しはつながっていくかなぁ、と私は信じています。

創り手が媚びる必要は無いと思いますが、「劇場に行こう」と思わせるような名案が無いものかと、いつも考えていますね。最大の名案は「劇場に行こうと思わせるような作品を創る」ことなのでしょうけれど。

話の次元が変わりますが、「国の施策で」という考え方もありますね。

保護や育成への対処は確かに必要だと実感します。お金をかけたら発展するわけでもないですが、逆に「流れない河は澱む」ようなことになったら大変。方法は難しいですね。ただ、国立(もしくはそれに準じた)演劇人の育成機関が複数あったらいいなぁ、と思います。


派手な音楽にカラフルな舞台セットで、オーバーアクションで…。児童劇というと、そんな偏ったイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。確かに、日本の児童劇は、海外のものに比べて大人の“子ども感”を押し付けたものが多いのも現状です。

しかし、子どもの反応は大人以上にダイレクト。つまらなければ、ソワソワと歩き回ったり、嘘を鋭く見抜いては舞台に話し掛けてきたり…。彼らを惹きつけ、感動を与えるには、並大抵の努力では足りません。

「劇団えるむ」では、そんな子ども達と「こだまし合う」姿勢を大切にし、一緒に舞台を作り上げてゆこうと真摯に向き合ってきたからこそ、現在のような活躍があるのかもしれません。

今回のインタビューで、石井さんの、そして「劇団えるむ」のお客様に対する誠実な姿勢と、次の時代を担う子ども達への強い情熱を感じました。

演劇は、一方通行の芸術ではありません。生きた人間同士の、ダイレクトなコミュニケーションで成り立っている、生きた文化です。

ゲームやインターネットなどの普及や、求めなくても流れてくる情報の中で、人と真正面から向き合う機会を失いつつある子ども達。「劇団えるむ」は、彼らに「人の暖 かさ」や「呼応しあう楽しさ」を、これからも与えつづけてゆくことでしょう。


劇団えるむホームページ >>>http://www.iris.dti.ne.jp/~erumu/

  

(構成/文・O)2003/2/24