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“新”劇のフロンティア・文学座

日本で活動している劇団は数限りなくあります。しかし、そのほとんどが一般には知られていないのが現状です。日本の演劇業界が、他のエンタテイメント業界、アート業界に比べ、マイナーであり続けているには、必ず、明確な問題があるはず―――。

このコラムでは、現在活躍している劇団にアンケート取材をし、劇団の現状やそれぞれが抱えている問題点、演劇が広く社会に認識されるにはどうしたらいいのかなどのテーマを共に考え、演劇の魅力をより多くの方々へ知っていただくための方法を考察してゆきます。

第5回目の今回は、日本の演劇界を引っ張る「文学座」です。


●文学座

1937年、岸田國士、久保田万太郎、岩田豊雄らを中心に創立。第二次世界大戦を生き抜き、戦後半世紀をすぎた今日まで、様々な危機に直面しながらも持続的な演劇創造活動を展開してきた。今年、創立66周年。

戦後に「アトリエ」を創立。本公演と小空間での公演を活動の二本の柱に“現代演劇の前衛”として経済的負担に臆することなく、実験的、冒険的な試みに挑戦してきた。

「……真に魅力ある現代人の演劇をつくりたい。現代人の生活感情にもっとも密接な演劇の魅力を創造しよう」という劇団の創造理念は、今もなお引き継がれている。


●企画事業部の蔭山さんに直撃インタビュー!

日本の老舗劇団「文学座」が、近頃大きく動き出しています。初のファミリー向けの演目を発表したり、演劇ワークショップを精力的に始めたり。今年には、「演劇を支えることが、社会のステータスに!」と、新しい「文学座パートナーズ倶楽部」を発足したり…。

これらの活動の裏には、どんな思いが込められているのでしょうか?

文学座の裏の立役者、企画事業部部長の蔭山陽太(かげやま ようた)さんに、直撃インタビューをしてきました。

蔭山さんは、イギリスでアートマネージメントを学び、他業種のマネジメントにも注目。それらを「演劇という“アート”にどう活かしてゆけるか」を、文学座で次々と実践している、まさにフロンティアです。


Q・ 年間十数本の演目を上演していらっしゃいますが、新作はいつお考えになるのですか?


構想期間で言えば、劇場を押さえる関係もあるので、1年から2年くらい先のことを考えて決めていく形になってますね。

うちは、本公演もアトリエ公演も、誰が企画を出してもいいんですよ。まずは、決まった書式に企画を書いて提出して、それを最終的には幹事会が決定します。

幹事会は現在10人で構成されていて、内5人は、座員による選挙で選ばれた演出家や俳優など。他に創立メンバーでもある劇団代表、株式会社文学座の社長、座暦の最も古い俳優の北村和夫、あと2名は幹事会推薦です。

文学座は、座員になるまでは大変ですが、なってしまえばとても窓口が広いです。特にアトリエ公演は、若いアーティスト達のチャンスをつかむ機会として、とても有効ですね。


Q・アトリエ憲章(※1)にもありましたが、ここは実験的な場所なんですね。


7年前に亡くなった杉村春子をはじめ多くの先輩たちが、自分の稼ぎを注いで、次の世代へ向けて投資してきた場所ですしね。アトリエでの公演は、キャパシティーも少ないので常に赤字なんですが、劇団が活性化するための大切な投資でもあるんですよ。

つかこうへいさんの「熱海殺人事件」も、ここが初演の場所だったんです。

現在第一線でご活躍されている新しい作家さんからベテランの作家さんまで、「アトリエ公演なら!」と、とても快く作品を書いて下さいます。

文学座にとって、とても大きな財産ですね。


Q・ 戦前に創立し、戦中、戦後を生き抜いてきた文学座ですが、今に至るまでに大変なご苦労があったと思います。戦後はなどは、やはり、政治的・社会的な弾圧が厳しかったんですか?


ん〜。逆に、演劇が、社会性がないという意味での「非政治的」な今の時代がおかしいのかもしれません。社会性というのは、右とか左とかと言うことではなくて、社会批評性ですよね。

ライブとは、今あることを演じることですから、時の権力者にしたら疎ましい存在のはずなんですよ。どれだけ事前に検閲をかけても、舞台で言われてしまえば、もう手遅れになってしまうわけですから。でも、それくらいのインパクト、今はないでしょ?

日本の場合は、かつて、とても政治的な時代があって、その反動で脱政治的な時代があった。そして、お金の為だけの時代もあった。そして今、それらの影響を受けた演劇は、社会性が希薄になってしまったんでしょうね。だから余計に社会に入り込めないんじゃないでしょうか。

日本の演劇が、社会に対してあまり力を持っていない理由でしょうね。


Q・では、そんな演劇界はこれからどうなっていくと思いますか?


知り合いのダンス関係の方から言われたんですけど、「演劇はあっという間に死に体になっちゃったね」と言われたんですよ。「確認のアートばかりになっちゃったね」と。

「確認のアート」とは、例えば、教科書に有名な人の絵が載ってますよね。で、展覧会なんかへ出かけていって、「あ、これが教科書に載ってた絵だ」と確認するわけですよ。演劇の場合は、テレビに出ている人気のあるタレントさんの実物を確認に来るんです。

本来のライブアートは、創造する側と観る側とが、お互いの人生に関わる何らかの交流を期待する。しかし、確認のアートは一方通行的なものです。

プロデューサーは、あらかじめ集客のために、人気のあるタレントに投資すればいいだけですから、たいして知恵を使わなくていいわけです。

そういうものばかりになってしまって、演劇はもう駄目だね、と。


Q・どうしてそうなっちゃったんでしょう。


とても個人的な見方なんですが、演劇って、とっても安上がりなメディアなんですよ。

昔は、ちょっとピークの過ぎたタレントが舞台に出てるイメージってあったでしょ?けど、今は“まさに旬”のタレントや歌手が舞台にあがっている。それは、安くて宣伝効果のあるメディアでもあるからですよ。

勿論、我々にとっては大きなお金ですよ。1本作るのに何百万、何千万円もかかって、その中から何千円、何万円節約しようか、なんてやってるわけですから。

でも、大手のタレント事務所が、都内の演劇専用劇場を数億円で買い取りましたよね。彼らにとっては、それはさほど大した額ではない。一人で何億も稼ぐ人がたくさん集まってるんですからね。

それで、劇場という常に発信できるメディアを確保し、なおかつ水準の高い演劇人を集められる。自分達のタレントの育成もできる。上手い下手に関わらず客は来る。お金は入る。メディアも必ず取材に来るから宣伝費もかからない。

だから、とっても費用対効果の高いメディアなんですよ。


Q・この流れを食い止める為にアートマネージメントはどう作用するのでしょうか?


アートマネージメントと言うと、「どうやったらお金が儲かるか?」という風に間違ってスタートしてしまいました。まずは、アーティストマネージメントなんですよ。

アーティストがアーティストとしての創造活動を継続し、それを発展させていく為にどうすればいいかということに、もっと力を注ぐことが必要です。そして、それを制作側がサポートする。

どれだけアーティスティックにこだわってゆけるか。これからもっと状況は厳しくなるだろうし、もう、駄目かも知れない。それでも演劇やるの?どうして演劇をやるの?ということを、始めに問いかけるべきでしょうね。

ここが鍵になるんじゃないでしょうか。


Q・では、文学座さんでは、具体的にどのような活動をされていますか?


プロデュース形式のものと違って、劇団には継続性がある。常にアーティストを抱えて存在しますから。ここに劇団の優位性を見たんです。で、そのことをもう一度とらえなおそうと、2年前から企画事業部を立ち上げたんですよ。

で、その中で色々なパイロットケースを作って、演劇的なるものに社会的なニーズがあるのかどうかを探ってきました。

近年、ワークショップが取りざたされていますよね。けれども、本当にそのニーズがあるのかどうか。我々がそれに対応できるのかどうかを、実験的にやってみたんです。で、やはりある、と。

ワークショップでアーティストに触れた市民が、実際に演劇を観に行っているんですよね。だから、「確認のアート」じゃないところに、我々が積極的にきっかけを作ってゆけば、まだ可能性はあるんではないかと考えています。

そこで、本格的にワークショップに力を入れてゆこうと、劇団内での技術交流を増やしてクオリティーの維持、向上にも力を入れています。「文学座ブランド」を出してゆく上で、おのずと質が問われますからね。

また、そういったアーティストの活動を支える制作者側も、大きく変化しています。

実は、先月の総会で演劇制作部と企画事業部を一本化し、「企画事業部」にしたんです。どんな劇団でも制作部はありますよね。けれども、1本ごとの公演制作進行をすることがアートマネージメントの全てではないですから、もう一度我々の活動の意味を捉えなおす意味でも、敢えて制作部をなくしたんです。

もう一つは、ファミリー向けの芝居ですね。文学座60年以上の歴史の中で、昨年初めてやったんです。初めてですよ!

海外じゃ、大人の芝居を創る劇団が、次の世代に向けてファミリー向けの芝居を創るのは、よくあるのですが…。

日本でこうした分野を手がける劇団が少ないのは、リスクが大きいからなんですよ。ただでさえ採算性がないのに、半分は子ども料金ですからね。まず、赤字です。

でも、これを続けてゆくことで、10年後、20年後、初めて観た演劇が文学座で、また演劇を観るようになれば、それはとても価値のあることですからね。公演ごとの経済性だけを見ていては、大きな可能性を失うことになるかも知れません。

それを今までしてこなかったという自己責任も感じていますから、敢えて踏み切ったんです。


Q・ 文学座さんのように、次の世代に伝えて行こうという団体やアーティストって意外と少ないと思うんですが、この状況を変えてゆくにはどうしたらいいと思いますか?


「みんなで一斉に!」、なんて無理ですよ。みんなの意気が上がるのを待ってたら、いつまで経っても始まりません。気付いたところから始めればいいのではないでしょうか。

最終的には、アーティストの自覚と、制作者の意識の問題だと思いますよ。


今回の取材で、「文学座」という日本の新劇の老舗劇団のイメージが、ガラリと変わりました。こんなにも熱く、こんなにも新しいとは!

「僕ね、文化芸術振興基本法って、あれ嫌いなんですよ。だって曖昧でしょ?文化と芸術は違うんですよ。文化はもともとそこにあるもので、下手でも文化なんですよ。でも、アートは、優れたアートが残らなくちゃいけない。時代時代に、価値を判断する“人”がいて、選ばれたものが残ってゆくんですよ。何でもいいや!ってなると、絶対にアートは生き残れないですよ」

と、アートにこだわり、

「文学座だって、来年まであるかどうかなんて分かりませんよ。手を抜いてしまえばお客さんが離れる。アートじゃなくなれば、劇団の存在意義はなくなる。そうなったら、とっととやめるべきです。組織を維持する為に劇団があるのではなく、芝居をするために組織を維持しているんですからね」

と、常に厳しい姿勢で、自分たちのアートを追及している。蔭山さんのアートへのこだわりが、文学座のアートを支える大きな「屋台骨」となっているのです。

「アーティストとしての社会的な責任を持って、自分の仕事を全うする」

企業で働く社会人にとって常識的なこの姿勢が、演劇業界ではないがしろにされている。その事が、今の演劇界の低迷を産んでいるのではないでしょうか。とても、襟を正される思いがしました。

文学座は、これからもどんどんと進化し、社会への扉を開いてゆくことでしょう。


※1:アトリエ憲章
   文学座アトリエを創設するにあたり、その存在意義を記したもの。
   (http://www.bungakuza.com/b/atr-kensyou.htm)

文学座ホームページ >>>> http://www.bungakuza.com/ 

(構成/文・O)2003/3/24