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演劇のあり方を伝える 〜劇団山の手事情社〜

日本で活動している劇団は数限りなくあります。しかし、そのほとんどが一般には知られていないのが現状です。日本の演劇業界が、他のエンタテイメント業界、アート業界に比べ、マイナーであり続けているには、必ず、明確な問題があるはず―――。

このコラムでは、現在活躍している劇団に取材をし、劇団の現状やそれぞれが抱えている問題点、演劇が広く社会に認識されるにはどうしたらいいのかなどのテーマを共に考え、演劇の魅力をより多くの方々へ知っていただくための方法を考察してゆきます。

第17回目の今回は、「劇団山の手事情社」です。


●劇団山の手事情社(やまのてじじょうしゃ)

1984年4月、安田雅弘・池田成志・柳岡香里らのメンバーにより早稲田大学演劇研究会を母体に結成。都会的なセンスとスピーディなギャグとが評価され、'80年代のいわゆる「小劇場ブーム」にも乗って人気劇団となる。

1989年より、参加メンバーの提案と討議を最大限に重視する「集団創作」を開始。先鋭的な表現手法の実験をさまざまに重ね、1997年からは、現代日本人の精神性を、矛盾をかかえた身体・制限された動きによって表現することを試みている。

また、山の手事情社が独自に開発、アレンジした俳優のトレーニング方法である「山の手メソッド」によるワークショップは、この数年で600コマを超えるなど、演劇振興に力を入れている。


●安田雅弘さんに直撃インタビュー

今年で結成20周年を迎える「劇団山の手事情社」。
オリジナルの台本から作品を作っていた「草創期」から、台本を使わない「集団創作期」、「ハイパーコラージュ期」を経て、現在は「四畳半」という演技スタイルをつくり、近松門左衛門やシェークスピアなどの古典作品をテキストに、よりハイレベルな演劇を目指して実験を続けています。

また、年間の3分の1はワークショップに費やすなど、地域への演劇振興にも、並々ならぬエネルギーを注いでいます。

今回は、主宰であり演出家でもある安田雅弘さんに、山の手事情社の演劇やワークショップに対する理念をお伺いしました。


Q・ 山の手事情社と言えば、独自の俳優トレーニングである「山の手メソッド」を思い浮かべるのですが、ここ数年は「四畳半」という演技スタイルに取り組んでいらっしゃいます。この「四畳半」とは、どういうものなのですか?


「重心を傾けて立つ」「狭い通路を動くように歩く」「台詞を語るときには止まる」という簡単なルールを設けたものです。なぜルールを作ったかと言うと、1つには、演技トーンに対して疑いを持つためです。

例えば、「僕はあなたが好きです」という時に、どんな声の出し方をして、どんな風にして動くべきかというルールはないでしょ。でも、ルールがないと批判が出来ないし、その演技の良し悪しは、全て演出家の主観に委ねられてしまう。演技に関する客観的な基準がないと言うのはまずいんじゃないかな、と思ったんです。

もう1つは、海外の演劇を観るようになって、世界に通用する演劇を作るにはどうすればいいんだ、と思ったときに、改めて日本の演劇というものを考え始めたんですよ。

日本の演劇って言うと、能・狂言、歌舞伎、文楽があるけれども、どれもすごく不自然なんですよね。能なんて、おじさんが自分の顔よりも小さなお面を付けて、見た目は全くのおじさんのまま女を演じるでしょ。文楽なんて、人形の後ろに操っている人が3人もいて、全部姿を見せてる。動きにしても、直線的だったり、妙にゆっくりだったりして、リアリズムの観点からすれば明らかに不自然なんですよ。

日本人っていうのは、この不自然なものの中に「何か」を見出してきた民族なんですよ。じゃあ、現代の僕らを、昔の伝統的な舞台感でみたらどういう風に観えるんだろう。現代でそういうスタイルを作ることは出来ないかな、と言うことで始めたんです。


Q・ 演劇のクオリティーやレベルアップへの尽力もさることながら、演劇ワークショップへも力をいれていらっしゃいますが、きっかけはどういうものだったのですか?


演劇をやり続けてゆく中で、自分たちの作っているものとお客さんとの間に距離を感じたんです。これを解消するためには、僕らがお客さんに近づくことも出来るんだろうけど、それも違う気がしてね。すごく迷いました。でも、毎年のように海外でお芝居を観るようになって、問題は僕らではなくて、日本の演劇環境にあるんじゃないかってことに気付いたんです。

僕らの世代の演劇を観る人は、ほとんどが若い人でしょ。歌舞伎とかの古典作品は中高年の女性層。会社に行っているサラリーマン層はほとんど演劇なんて観ない。でも、ヨーロッパではいい大人が図書館に行く感覚でお芝居を観て、帰りにカフェでお酒を飲みながら演劇について語ってるわけですよ。日本の新橋あたりで、焼き鳥片手にサラリーマンが能や芝居に関して話すなんてことは、まずありえないでしょ。これって、芝居をしている人間にとっては、危機的状況だと思うんですよね。

で、こういう状況を生み出す原因について考えたとき、演劇を体験したことのある人が非常に少ないからじゃないかと思ったんです。スポーツでも音楽でもそうですけど、やったことのある人は、そのジャンルの深さや難しさ、楽しさを理解できるんですよね。僕らは、子どもの頃に野球を経験したから、松坂の150キロの球がどれだけすごいかが分かる。サッカーだってそうでしょ。それぞれのジャンルを支えている人は、やったことのある人だと思うんです。

だから、僕が接している人たちに、うちの芝居が分かる以前に、演劇の面白さとか教養を伝えてゆく作業をしていかないと、理解者が集まらないだろうと。それでワークショップに力を入れるようになったんです。


Q・ 演劇がより社会に認められるようになるためにはどうすればいいと思いますか?


先ほどもお話しましたが、ワークショップで理解者を増やしてゆくことは大切ですよ。ただ、とても有効である反面、無力感も感じるんです。全国には3000もの公共ホールがあるけど、自主事業としてワークショップを扱っているところは数少ない。また、行政の都合で、予算が削られたからとか、5年やったからとかっていう理由で、いきなり打ち切られることも多いんですよね。

参加者からのブーイングがあって打ち切られるならまだしも、市民はやりたがっているのに、行政の都合で終わってしまう。それがいかにマイナスであるかを伝えたところで、正直伝わりきれていないんですよ。

だからといって愚痴っていても仕方がないわけで、僕らがガツガツやっていかないと。分かる人は必ずいるんだから。そして、分からない人たちにきちんと説明できるようにならないと。どうして演劇が必要なの?どうして演劇やりたいの?っていうのを、どれだけ語れるか。これって大切ですよ。

プロって言葉があるでしょ。「プロフェッション=自分の信仰を告白する」というところから出た言葉が、ブロフェッショナル、プロフェッサーなんだけど、経済学のプロが経済について語れないとまずいわけですよ。同じように、演劇のプロであるならば、演劇についてきちんと理屈で、言葉で説明できないと。今は、ほとんどの人が説明できていないと思うよ。そういう説明が出来る人が増えれば、絶対に変わると思うんですよね。


インタビューの途中で、安田さんにちょっぴり意地悪な質問をされました。「演劇が明日なくなっても、社会に何の支障もないでしょ。でも何でやってるの?」と。

突然の質問に、思わずしどろもどろになってしまったのですが、この質問に理路整然と答えられる人が、どれだけいるでしょうか。

   「社会が演劇をやばいものだと思っていると言うのは、とても健康的な当然の感覚だと思うよ。それを説明できないで突っ走っているだけの演劇人があまりにも多いからね。それに、演劇だけじゃ食えなくて、テレビにこびてる演劇人も多い。結局、演劇やってる人間がだらしなさ過ぎるんだよ」

にっこりと微笑む安田さんの目の奥に、地道にコツコツと演劇への理解者を増やしてゆこうとする強い責任感を感じました。

ただ漠然と演劇があるのではなく、そこには必ず存在する理由があります。演劇の魅力を伝えてゆくことは、とても大切な仕事です。自分が面白いと思うものを、他の人にちゃんと伝えてゆけるよう、意志を持って仕事に取り組むことが、演劇の未来を左右するのでしょう。

「演劇とは何か」皆さんも、もっともっと真剣に考えてみませんか?


★☆★☆ 劇団山の手事情社 公演案内 ☆★☆★
劇団山の手事情社結成20周年公演 第一段
「道成寺」 ー満開の桜のもとで「再生」を祈るー

演出・構成=安田雅弘
製作=(有)アップダウンプロダクション

●利賀公演:利賀フェスティバル2004参加
  チケット取扱/問合せ
   >>舞台芸術財団演劇人会議 東京事務所03(3951)4843
                 利賀事務所0763(68)2356

●東京公演:5/26〜5/30
 会場: AsahiスクエアA
 チケット:4/5(月)より発売。
      全席指定 前売 4,000円 ・当日 4,500円
      学割 2,500円(前売、劇団予約のみ、受付にて学生証提示)
 お問い合わせ:03-5760-7044(山の手事情社/UPTOWN Production Ltd.)

 詳細はホームページをご覧下さい。
    >>http://www.yamanote-j.org/

▼安田氏が立ち上げから携わった市民劇団HP
 さぬきシェイクスピア
http://sanuki-s.vis.ne.jp/index.htm

▼安田氏 インタビュー記事
 KEY COFFEE 「大人のいい時間」
http://www.keycoffee.co.jp/coffee_break/otona/1-2_403/1-2_1.html

▼安田氏 連載雑誌 カルチャーポケット
http://www.city.osaka.jp/yutoritomidori/culture/pocket/backnumber/index.html

(構成/文・O)2004/3/22