試行錯誤の中から生まれるもの〜ポツドール〜
日本で活動している劇団は数限りなくあります。しかし、そのほとんどが一般には知られていないのが現状です。日本の演劇業界が、他のエンタテイメント業界、アート業界に比べ、マイナーであり続けているには、必ず、明確な問題があるはず―――。
このコラムでは、現在活躍している劇団に取材をし、劇団の現状やそれぞれが抱えている問題点、演劇が広く社会に認識されるにはどうしたらいいのかなどのテーマを共に考え、演劇の魅力をより多くの方々へ知っていただくための方法を考察してゆきます。
第19回目の今回は、「ポツドール」です。
●ポツドール
1996年12月、早稲田大学演劇倶楽部10期生の三浦大輔を中心に結成された演劇ユニット。
第1回公演から第4回公演まではいわゆる演劇的な過剰なドラマを得意とし、多くの観客から支持を得るが、2000年7月、第5回公演「騎士クラブ」で、それまでの作風を一変させ、演劇的なものを最大限に排除したドキュメンタリータッチの作品に挑む。
「リアル」を徹底的に追求したこの作品は「セミドキュメント」と称され、これを機会にメディアに大きく取り上げられるようになる。
そして、第6回公演「身体検査」では舞台上の完全ドキュメントを実行。役者が一切、演技をせず、プライベートを背負ったまま舞台に上がるという表現手段は、多くの賞賛と批判を同時に受け、小劇場界に衝撃を与えることになる。
●ポツドールの稽古場へお邪魔しました
ゆったりとリラックスして話している役者さん2人。すぐそばに演出の三浦さん。そして、少し離れたところに他の出演者の皆さんが座り、打ち合わせかな?と思うような空気でしたが、実はお芝居の一場面の稽古中。
「ここの言葉、ちょっと嘘っぽいね。もっと崩していいよ」と、穏やかな口ぶりでディレクションがなされていました。
舞台上で完全なドキュメントを行うなど、小劇場界に常にセンセーショナルな話題を振りまくポツドール。1年7ヶ月振りの新作を前に、どのような思いがあるのでしょう。
主宰の三浦さん、メインキャストの安藤さん、米村さんの3人にお集まりいただきました。
| Q・ |
ポツドールというと「ドキュメント」というイメージが非常に強いのですが、はじめたきっかけというのはどういうものだったんですか? |
|
僕達は、もともとは普通のお芝居をやっていたんですが、照明が当たって、音楽が盛り上がって、台詞を正面向いて言って、っていう演劇的なものに飽きちゃったんですよ。もちろん、良さもあるんですけど、何だか嘘臭くって。
で、そういうものを全部やめよう、演技も「いわゆる演技」というものをやめよう、と。そして、どんどんとリアルなものにこだわっていったら、「ドキュメント」に辿り着いたわけです。
|
|
セミドキュメント第一弾の「騎士(ナイト)クラブ」はありました。でも、リアルさを追求してゆくと、台本も演技もいらないんじゃないか、生身の人間が感情を露にしていること、それ自体が見世物になるんじゃないかという結論に達して、次の回からは「テーマ」だけを決めてやってゆきました。
だから、演劇的な稽古はいっさいしなくて、舞台上で感情を露にできるような訓練をひたすらしましたね。人前で泣いたり、恥をさらしたりって、普通できないでしょ。しかも、ただ恥を掻けばいいということではなくて、それが面白くなければいけないわけですからね。
で、こういう訓練をして、身体が温まった人を舞台に上げるわけです。人によっては、無理な人もいて、直前で降板したこともありました。
|
| Q・ |
1年半前の「男の夢」から、ドキュメントをやめて、再度ドラマ作りの方向へ向かっているようですが、三浦さんの中にどのような変化があったんですか? |
|
ドキュメントは、僕らみたいな特別な才能もない、お金もない、技術もない若造が、どうやったら面白いものを作れるだろうか、っていうところからも出てきてるんですよ。でも、行き着くところまで行っちゃったと言うか、限界を知ったんですよね。 |
|
ん〜、普通の道徳心のある人間の限界までやっちゃったと言うか。
先ほども少しお話しましたが、ドキュメントでは「テーマ」だけを決めるんです。で、役者はそのテーマの中で、とことんまで人間の本当の感情を見せるんですね。例えば、「道徳の時間」というテーマがあって、人前で不道徳なことをして、それが見てる人にとってどんな感情を沸き起こすか、とか。「恥」、「コンプレックス」なんていうテーマもありました。
全部マイナスの感情なんですね。そういう感情って嘘がないし、誰しもが感じやすい。で、それを僕らのようなどこにでもいる普通の人がやるんです。ごくごく普通の人が、悪戦苦闘しているのって、ドラマティックだし共感も呼べるんですよね。
ただ、こういうマイナスの感情を吐露してゆくには、役者は相当追い詰められます。感情の沸き立つできる限りの、本当に限界の状況に追い込んで行きますからね。でも、例えば「この状況で俺がここで死んだら面白いから殺せ!」って言われても、殺せないじゃないですか。
アンケートにも、誰かが死なないと終わらないんじゃないか、なんて書かれたこともありました。でも、僕らはそういう悪趣味なことをしたいんじゃなくて、あくまでもリアルな、「人間の本当の感情」を見せてゆきたいんですよ。なので、ドキュメントという手法には限界がきたし、僕らの中でも決着がついた感じなんですよね。
|
| Q・ |
前回の公演から1年7ヶ月も時間があきましたが、これはどうしてですか? |
|
特別な理由があるわけじゃないんですよ。
小屋の状況もあったし、組織の足固めの時間も必要でしたし。それに、この時期にワークショップをやったり、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)で、僕らの製作した『はつこい』が入選したりと、色々とありました。で、気づいたらこれだけも時間が空いちゃったんですよね。
でもね、正直、こんなに空けちゃ駄目だな、とも思います。
僕達は、第5回公演の「騎士クラブ」で一躍世間に取り上げられるようになったんですね。特別営業をしたわけじゃないんだけど、テレビでもドキュメンタリーが流行ったりして、作り物のドラマに皆が飽きていた頃だったんで、そういう時代の流れと、僕達のやりたいことが巧くリンクして、一気にポツドールの状況が変わって行ったんですよ。
でも、これだけ空くと、繋がりの続くところと、途切れるところが出てきちゃいましたね。
|
|
ドキュメンタリーの経験を踏まえて、ドラマを作ってゆきたいです。
前回作品の「男の夢」でも、虚構の世界を作ってゆきましたけど、今回はよりドラマ性の強いものにチャレンジしてゆこうと思ってます。役者的にはドラマ性が強いシチュエーションだと、恥ずかしくなってしまうこともあるんですが、そこから逃げずに、あくまでも「リアルな人間の感情」という枠組みからは外れないようにして、ポツドール的ドラマを作ってゆきたいです。
それと、毎回新しいことにチャレンジしてゆくつもりです。ドキュメンタリーっていうジャンルを好きになってくれて、リピーターになってくれた人たちもいるとは思うんですけど、それだけじゃなくて、次は何をやるんだ?っていう期待を持ってみていて欲しいんですよ。そういう期待やドキドキワクワクが、わざわざ劇場へ足を運ぶモチベーションになる筈ですから。
|
「舞台上でのドキュメント」で、演劇界に衝撃を与えたポツドール。舞台上で嘘のない本当の感情を表現し続けようとする彼らは、新しい一歩を、地道に真面目に踏み出そうとしています。
「僕達は、やっていることは特殊なものだけど、特別なメソッドがあるわけじゃないんですよ。やりたいことを明確にして、それをするにはどうすればいいのかを常に試行錯誤しながらやってるんです。
ワークショップも何度かやりましたけど、何かを教えるのではなくて、出会いを求めてやっていて、一緒に何かを作ってゆきたい、一緒に何をしているのかを確認して、一緒に実験してゆきたいと思ってるんです。
その為には、演劇だけじゃなくて、色んなジャンルとのパイプを作って、演劇以外の世界に目を向けてゆかないといけないと思ってるんです」
演劇的なドラマ作りから出発し、ドキュメントという新しいジャンルを開拓し、再度ドラマ作りにチャレンジしてゆく彼らの道のりは、決して容易なものではありません。
険しい道を乗り越えて、自分達の理念を崩さずに歩み続けること。一番難しく、多くの劇団がぶつかるこの壁を乗り越えようと、ポツドールは試行錯誤を続けています。
まだまだ若い彼らのバイタリティーと、舞台完全ドキュメントを生んだ彼らのセンスから、次は何が生まれてくるのでしょうか。期待を持って観てゆきたいと思います。
|