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舞台をなめるな! 〜劇団ふぁんハウス〜

日本で活動している劇団は数限りなくあります。しかし、そのほとんどが一般に知られていないのが現状です。日本の演劇業界が、他のエンタテイメント業界、アート業界に比べ、マイナーであり続けているには、必ず、明確な問題があるはず―――。

このコラムでは、現在活躍している劇団に取材し、劇団の現状やそれぞれが抱えている問題点、演劇全体が広く社会に認識されるにはどうしたらいいのかなどのテーマを共に考え、演劇の魅力をより多くの方々へ知っていただくための方法を考察してゆきます。

第26回目の今回は、「劇団ふぁんハウス」です。

●劇団ふぁんハウス

視覚に障害のある仲間達と共に、「やる気さえあれば誰でもOK」という主旨の元、1998年12月、平野恒雄を中心に「劇団ふぁんハウス」を旗揚げ。

やるからには、視覚に障害があろうが、「熱意」と「やる気」を持って、真剣に芝居に打ち込めば「お客様に心から満足していただける本物の芝居を提供出来るはずだ!」というポリシーの元、年に1〜2本のペースで新作を発表し続けている。


●代表の平野恒雄さんにお伺いしました

身体に障害のある方たちで作られている文化サークルやスポーツサークルは、数多く見られます。でも、意外と抜け落ちているのが視覚障害のある方たちの演劇。しかも、サークルやボランティアグループとしてではなく、本格的にお金を頂くに値するエンターテイメントとしての演劇を提供し続けている団体は多くありません。

今回は、代表でもあり、作・演出も手がけられる平野恒雄(ひらの・つねお)さんに、劇団の活動と、そのご苦労についておうかがいしました。


Q・ 視覚障害のある方たちと劇団を立ち上げようと考えたきっかけは何ですか?


たまたま、俳優仲間の友人に目の見えない方がいらしたんです。で、その方たちが朗読サークルを作っていて、「実は初めて劇場を押さえたのでお芝居をしよう思ってるんだけど、稽古を見に来ないか?」と誘われたんです。

で、行ってみると、皆さん全くの素人さんたちなので、夕方5時に開演なのに、午後2時に劇場入りだとか、タイムスケジュールも無理ばかりだし、照明や音響の準備もままならない状態だったので、急遽僕が舞台監督としてお手伝いすることになったんです。

そうしたら、演技指導もして欲しい、なんて話になって、そうこうする内に、台本も演出もすることになってしまったんですよ。僕は、本なんか書いたこともなかったし、視覚障害の方と接するのも初めてだったので、全部が手探りでした。で、本当は、1回限りの公演のつもりで本番を迎えたんです。2人芝居でした。

その2人芝居が好評で、ならば正式に「劇団」を作ろうということになり、劇団ふぁんハウスは誕生いたしました。

その第1回公演後、NHKの取材が入ったり、新聞の取材が入ったり、観客の皆さんの反応が予想以上に大きかったりで、急遽追加公演をすることになったんですよ。そして、「私もやりたい!」「また、次も観たい!」という声が沢山送られてきて、どうも自分たちの都合ではやめられないくらいに反響が来てしまったんです。

初めは、「視覚に障害があっても芝居をやりたい」という人のためにやっていたことが、今では、メンバーも20数名に増え、応援してくださるお客様にむけて、「演劇」というエンターテイメントを提供しようという方向になってきました。

Q・ こういった活動を続けてゆく上でのご苦労はありますか?


正直言って、視覚に障害がある人への演技指導にはそれほどの苦労はないんですよ。

皆、目が見えなくても目が見えているという設定でお芝居は出来ていますので、舞台から袖に退場したり、舞台上を動き回るのに不自然があってはいけないですよね。そこで、さりげなく目の見える人がサポートするような動きをつけたり、床にパンチカーペットを張って、点字ブロックの代わりにしたりすることで、無理なく動くことが出来るんです。それ以外にも、ホント、ちょっとした工夫とやる気で、全て克服できるんですよ。

一番大変なのが、「舞台をなめるな」ということを理解してもらうことですね。

どうしても、「目が見えない」ということが、同情の対象になったり、彼ら自身の甘えにつながったりしがちなんですよね。「目が見えない人にそこまでやらせなくてもいいんじゃないか」とか、「自分は目が見えないから、ここまでしか出来ない」と、勝手に線を引いてしまう。それでは、ただのボランティアサークルや自己満足な劇団の域を脱しないんですよ。

見える、見えないに関わらず、人様からお金を頂いて、そして舞台に立つ。その責任感であったり、演劇をやる人間としての義務というものを伝え、人にエンターテイメントを提供する人間としての努力を怠らないように指導することが一番大変ですね。

Q・ それって、普通に俳優を目指してお芝居を始めた人たちに伝えるのも大変なことですよね。


ええ。でも、とても当然のことでしょ?
家では台本も読まない、役作りもしない、指示されるまで動かない。そんな状態では舞台に立てるわけがないですよね。

僕は、何も「出来ないことをしろ」とは言いませんよ。
ただ、舞台に立つからには、きちんと台本を読み込み、自分なりの解釈を持って稽古場に来て、作品のテーマを理解して創作に励む。はっきりと大きな声を出し、自分の身体の動きを理解し、台詞に本当に心を流し込んで演技をする。俳優ならば、誰もが努力し続けることを、「目が見えないからやらないでいい」「見えないから出来ない」と勝手に決めて欲しくないんです。

もちろん、見えない人の身振り手振りまでを見えている人とまったく同じように行うというのは、ちょっとやそっとで出来るものではありません。でも、本当に心が動いて、気持ちのこもった演技であれば、身体の動きは「個性」という形で、不自然なく入ってくるんですよ。

それに、そういった努力を怠ることで、「目が見えないのによくやったわね」という程度にとどまってしまうでしょ。それが、結局は「障害があるとお芝居ができない」と言われて、彼らの門を狭めてしまったり、「気の毒な人たちが頑張ってるんだ」という偏見や、変な同情につながってしまう。また逆に、「舞台って簡単に立てるんだ」という、演劇への誤った見方を生んだりしてしまうと思うんですよ。

僕は、音楽であっても、ダンスであっても、演劇であっても、舞台に立ち、お客様からお金を頂くからには、当然の責任があると思ってます。その責任は、“見える”“見えない”、“障害がある”“障害がない”に関わらず、「やる気」と「熱意」さえあれば、誰にだって果たせるものだし、果たさなければいけないものだと思ってます。

Q・平野さんから見て、今の演劇業界をどう思いますか?


今、少しずつ「演劇のバリアフリー」を謳っているところが増えてきていますが、言葉だけのバリアフリーや押し付けのバリアフリーはやめて欲しいですね。

もちろん、本当に頑張って努力してくださっているところもありますし、劇団昴さんのように本格的に導入してくださっているところもありますから、全てではないんですけど、よくメンバーから聞くのは「行ってもどうせ分からないから行きたくない」という言葉なんです。

「視覚障害者のために」という宣伝文句を見て行ってみると、説明ばかりを長々聞かされたり、駅から劇場や、劇場に着いてから座席への誘導がなかったり、座席に座れても、その後トイレに行けなくて困ったり…。

色々と良かれと思ってやって下さっていることが、実は余計な事だったり、逆に手を貸して欲しい所が抜けていたり、っていうのがあるんですよね。原因としては、お互いの理解が浅い、というところだと思うんですが。

結局、これは社外全体の問題でもあるんですけど、もっと健常者は障害者のことを知らなきゃいけないし、障害者も、もっと知ってもらうために外に出て行かなきゃいけないと思います。

全部に手を出されると、障害のある方は「自分で出来るのに!」ってなってしまうし、手を貸した方は、「親切なのに!」ってなって、お互いに反発しあっちゃう。

そうじゃなくて、これは出来る、でもこれは出来ない。そういうことをちゃんとお互いに知って、コミュニケーションを持ってゆけると、もっと世界は広がると思うんです。

そのためにも、我々も、もっと沢山の人に知っていただいて、目が見えなくても出来るんだってことを、皆さんに知ってもらえるようにならないとな、って思いますね。


とってもスマートで、上品な顔つきの平野さん。取材中、終始にこやかにお話をして下さっていたのですが、どこまでも爽やかなその笑顔からは想像も出来ないくらいにストレートな言葉がポンポンと飛び出します。

「僕、テリー伊藤さんに、“あんた鬼軍曹だ”って言われちゃいました(笑)」

何でも、ラジオ番組に出演する関係で、テリー伊藤さんが稽古場を見学にいらしたそうなのですが、その時の様子を見て、テリーさんから「僕は目の見えない人にあそこまで駄目出しできない!」と言われたそうです。

しかし、その厳しさは「舞台をなめてはいけない」「熱意を持ってすれば、必ず出来る」という情熱から来るもの。だからこそ、平野さんの下に人が集まり、支持されているのでしょう。

最近では、各地から「公演をして欲しい」というオファーがかかっているそうです。しかし、それぞれが仕事を持ちながら活動しているので、なかなか実現できないのがもどかしいところだとか。

時間の制約があるのは悩みどころですが、それでもぜひ全国に飛び出して欲しい。そして、その情熱を、舞台にかける姿勢を、全国の方々に観て欲しい。ふぁんハウスは、心からそう思える劇団です。


☆★☆★ 劇団ふぁんハウス 公演案内 ★☆★☆

第10回公演  「新・カーテンコール」

売れないタレント有紀と、売れないピアニスト智子。
そして、すでに夢を諦め、別の生活を始めていた4人の元女優志望。
彼女たちの元に舞い込んできた、ラストチャンスとは―――。

忘れかけてた「夢」諦めていた「夢」が転がり込んできたら?
あなたはどうしますか?

作・演出  平野恒雄
日時 2005年5月27日(土)・・・18:00〜
          28日(日)・・・14:00〜
会場 赤坂区民ホール(地下鉄・赤坂見附駅徒歩10分)
入場料 前売り 1800円   (中学生以下)500円
     当日  2000円  (中学生以下)700円
     ※港区在住の方は港区特別割引がございます。
      料金  1000円 (中学生以下)500円

詳しくは劇団ホームページをご覧下さい。
  >>> http://www.h7.dion.ne.jp/~f.h/index.html

(構成/文・O)2004/12/27