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内面に向き合うことから演技は始まる 〜Studio Life〜

日本で活動している劇団は数限りなくあります。しかし、そのほとんどが一般に知られていないのが現状です。日本の演劇業界が、他のエンタテイメント業界、アート業界に比べ、マイナーであり続けているのには、必ず、明確な問題があるはず―――。

このコラムでは、現在活躍している劇団に取材し、劇団の現状やそれぞれが抱えている問題点、演劇全体が広く社会に認識されるにはどうしたらいいのかなどのテーマを共に考え、演劇の魅力をより多くの方々へ知っていただくための方法を考察してゆきます。

第28回目の今回は、「Studio Life」です。

●Studio Life (スタジオライフ)

1985年結成。女性メンバーは、脚本・演出を担当する倉田淳(くらた・じゅん)のみで、俳優は全て男性で構成されている異色の劇団。

1996年の「トーマの心臓」(原作:萩尾望都)の初舞台化の成功をきっかけに、「ヴェニスに死す」(原作:トーマス・マン)、「死の泉」(原作:皆川博子)などの文芸耽美作品を次々と舞台化する。

●主宰の河内さんにインタビュー

ストレートな芝居で、俳優が全て男性と言うのは、他に類を見ないのではないでしょうか。女性役も男性が演じ、しかも美男ぞろいとなると、観客の99パーセントが女性というのもうなずけますが、どうやらその人気の秘密は、それだけではないようです。

男性俳優だけで演じることのこだわりや、そこから見えてくるStudio Lifeの演技へのこだわりについて、主宰の河内喜一朗(かわうち・きいちろう)さんに伺いました。

Q・男性だけの劇団を始めたきっかけは何ですか?


Studio Lifeは、元々は小学校回りの劇団としてスタートして、女性の役者もいたんですよ。ただ、小学校回りのお仕事って、仕事の時期が6月、10月、11月に集中して、劇団員の定着が難しいんです。そこで、この空いている時期を使って、小劇場での芝居を始めたんです。

でも、そうすると女性にとっては苛酷でね。朝、6時に集合して体育館でステージを組んで、9時から2ステージやって、3時頃にバラシが終わってすぐに車で地方へ何時間もかけて行って、着く頃には次の日になってるから、またそこでステージ組んで…。そこに、稽古も入ってくるわけですからね。

で、最終的に2人になっちゃった。それでも、小劇場での公演をしようと頑張ったんですが、1人が本番2週間前にパニックを起こして、芝居をやめちゃって、もう1人は1週間前に失踪しちゃってね(笑)。参りましたよ。

でも、芝居はやりたいし、小屋も取ってるし。で、その頃入ったばかりの19歳の青年がいて、「お前が女やれ」ってことになったんです。そしたら、それがはまっちゃって(笑)。すっごく綺麗になって、すごく評判になったんですよ。それまでは450人位しか動員がなかったんだけど、次から800人位になって。それからこのスタイルが定着したんですよ。

Q・男性だけで演じる苦労っていうのはありますか?


男性だけの苦労っていうのは、特にないですね。僕らはあくまでも“俳優”で、懸命に役に飛び込むだけですから。でもね、男性だけで演じることで見えてきたものというか、こだわりっていうのは生まれてきました。

とにかくリアリティーを求めて、声も地声でやるんですね。そうして、男性や女性ということではなくて、ドラマの中の関係性をとにかく忠実に追い求めて、リアルに演じてゆくことで、より浮き彫りになってくる面っていうものがあるんですよ。

お芝居って、元々が虚構の世界でしょ。それをいかにリアルにするかってなると、女性が登場した方がいいんだろうけど、男性がやることによって演劇の虚構性が際立って、その虚構の中にある人間の真の心理とか、リアルな感情っていうのが、より浮き彫りになってきたんですね。

お客さんも、虚構性が強い分、安心して世界に入り込んで、その中から真理を見つけてゆくっていうかね。

Q・すると、女性が偶然いなくなったことが、大きな転機になったんでしょうか?


男性だけになったことよりも、もっと別の面での変化が大きな転機になりましたね。僕らがこの劇団を始めたのが、ちょうど20年前。小劇場ブームの始まりの頃だったんですよ。で、テンションで持ってゆくような演技をしていたんですね。

そんな中で、1996年に、唯一の女性であり、脚本・演出を手掛ける倉田淳が、萩尾望都先生の「トーマの心臓」っていう少女漫画を持って来て、「これをやる」って言い出したんです。

でもね、僕たち男性って、少女漫画をなかなか読めないんですよ。1冊読むのに2〜3週間かかっちゃったりして。参ったな〜なんて思ってたんです。

でも、本格的に作品にすることが決まると、今度は台本の読み方になってきたんですよ。人物の感情を追ったり、心理を読み取るようになってきて、そうすると面白くて!「なるほど!女性はこうやって物語りに入り込んでゆくのか!」って、ハッと気付いたんですよね。

ただ、僕が心配したのが、「今の演技では、これは出来ない」ってことだったんです。今までのテンション芝居、形だけの演技ではとても演じられるものではないな、と。

そこで、倉田の知り合いで、リー・ストラスバーグの直弟子のデビット・ベネットという人に、メソッドのワークショップをやってもらうために、劇団員皆でロンドンに行ったんです。そこで、心と身体をリラックスさせて、内的テンションを上げて、内面のリアルな感情に向き合い、それを表現してゆく演技の手法に出会ったんです。

リアルな演技への目覚めっていうか、本当に衝撃的でした。それまでとは、全く正反対の世界でしたからね。これがあったから、今の僕たちがあるし、今でも毎年ワークショップをしてるんですよ。

Q・ とても大きな方向転換ですね。そういう教育機関として、新国立劇場での俳優養成所が期待を集めていますよね。


僕はね、役者は労働者であり、技術者であり、熟練工のようなものだと思うんですよ。自分の身体と心をフルに稼動させて、物語や人物の心情を描き出す熟練工。

そうなるためには、身も心もきちんとコントロールして、喜怒哀楽のスイッチをきちんと知っておかなければいけない。勿論、それだけで芝居は出来ないけど、音楽にもダンスにも基礎があって、それを習得して初めて自由な表現ができるでしょ。演技だって同じなんだよね。

でも、今の日本のワークショップって、そういう基礎をすっ飛ばした、講師個人の経験主義に頼っちゃってるでしょ。これって危険だよね。新国立劇場での俳優養成には、すごく期待する分、どう教えてゆくのかってことをしっかりと考えてやって欲しい。海外のようにシステマティックに確立されていて、しかも、日本人にあうようなものであって欲しいね。

Q・日本人にあったものというと、どういうものですか?


大きく分けて、お客さんありきの見せ方中心の方法と、自分の内面と向き合う“心”中心の方法とあるんだよね。

海外の人って、個人主義で、自分ってものを強く持ってる傾向にあるけど、日本人って自分を押さえ付ける傾向にあるでしょ。そういう人が、初めから見せ方中心にやっちゃうと、結局形だけの、空っぽの演技になりがちなんだよね。

だから、まず心と向き合って、自分の内面を表現することを学んで、見せる方向へとステップアップしてゆくのが一番いいと思うんだよ。自分の喜怒哀楽、色んな感情を知らずに、人の感情なんて分かりっこないし、人の感情が分からない人は、物語を表現することなんて出来ないと思うからね。

1996年の大きな転機を経験して以来、たくさんのワークショップに参加してきたという河内さん。

「シャイな人の方が、内包するエネルギーが強いし、そういう人たちの内面をちゃんと出してあげることが出来れば、すごい才能にめぐり合えると思うんだよね。日本人は基本的にシャイだから、きちんとした教育制度が成り立てば、日本は才能の宝庫になる筈だよ」

と、力強く語ってくださいました。Studio Life自体も、実はシャイな役者さんが多いのだそうです。そんな彼らが、自分たちの内面としっかりと向き合い、心をコントロールする技術を磨き、物語に真っ直ぐに向き合えたことが、今の爆発的な人気へと繋がったのでしょう。

改めて、基礎の大切さを実感すると共に、日本の俳優教育制度の構築への思いが高まるインタビューでした。来年度からスタートする新国立劇場での俳優養成の行方を、しっかりと見てゆきたいですね。

Studio Lifeホームページ
 >> http://www.studio-life.com/index.html

(構成/文・O)2005/2/28