under


 
舞台という「仕事」への責任感 〜劇団ふるさときゃらばん〜

日本で活動している劇団は数限りなくあります。しかし、そのほとんどが一般に知られていないのが現状です。日本の演劇業界が、他のエンタテイメント業界、アート業界に比べ、マイナーであり続けているのには、必ず、明確な問題があるはず―――。

このコラムでは、現在活躍している劇団に取材し、劇団の現状やそれぞれが抱えている問題点、演劇全体が広く社会に認識されるにはどうしたらいいのかなどのテーマを共に考え、演劇の魅力をより多くの方々へ知っていただくための方法を考察してゆきます。

第29回目の今回は、「劇団ふるさときゃらばん」です。

●劇団ふるさときゃらばん

1983年東京都小金井市を本拠地に創立。
「人が住み、暮らしているところなら、どこにでも人々の集いができ、公演活動ができる」をコンセプトに、日本人のためのミュージカルの創作と全国各地での上演活動を行うミュージカルカンパニー。

代表される作品としては、カントリーミュージカルとサラリーマンミュージカルといわれる2つの作品群がある。農村や漁村の地域住民や、大都市に暮らすサラリーマンとその家族たちの「いま」を表現するため、徹底した取材を行い、時代性をとらえた内容が観客の共感を呼んでいる。

●創立メンバー・天城美枝さんにお話を伺いました

ふるさときゃらばんの公演制作は、まず、公演をする地域への徹底した取材の中から生まれています。ミュージカル劇団は数あれど、ここまで地域と人々の心に根ざした劇団はないのではないでしょうか。

今回は、劇団創立メンバーであり、女優であり、ふるさときゃらばんのミュージカル体験塾の塾長でもある天城美枝(あまぎ・みえ)さんに、地域密着型の純日本的なミュージカルへのこだわりと、その活動の裏側をおうかがいしました。

Q・日本人のための日本的なミュージカルを始めたきっかけは何ですか?


日本の暮らしの中から創るミュージカルをやりたいと、代表・大内義信(おおうち・よしのぶ)が中心になって結成されたのが、ふるさときゃらばんなんです。

創立の時から脚本・演出を手掛けている石塚克彦(いしづか・かつひこ)は絵描きもやっていたので、「自分の中に表現したい何かがあるんじゃなくて、自分の外に表現したいものがあるんだ」っていう考えを強く持っていたんですね。なので、舞台を作る時も、お客さんの声から作品の題材を見つけてゆくようになったんです。

そうすると、その土地に住む人の声や、文化、暮らしの中からヒントをもらうことになるでしょ。だから、おのずと日本人のためのミュージカルになってきたんですよ。

Q・ そういう石塚さんのお考えがあったから、取材をして作品を作るという独特のスタイルが出来たわけですね。でも、色んな土地を取材するのは大変じゃないですか?


もし、自分のやりたいことだけをやろうとすると、大変だと感じてしまうかもしれませんね。でも、その中からいっぱい得るものがありますから、喜びもたくさんあります。

制作専門スタッフが30人ほどいるんですけど、彼らは営業で全国を飛び回るんですよ。そして、営業先で聞いた話を定期的に持ち寄って、会議をするんです。その中で面白いものがあれば、再度徹底的に取材をするんですね。

例えば、「サラリーマンミュージカル」というカテゴリーでは、8000人のサラリーマンやOLさんに取材をしました。また「カントリーミュージカル」というカテゴリーでは、私自身、役者として出演していたんですけど、農村のお母さんの生の声を聞きに、実際に出かけていって取材をしたりしたんです。

そうするとね、お芝居だけをやっていては全くわからなかったような、人々の暮らしであったり、文化であったり、心であったり、そういうものにたくさん出会えるんですよ。

それに、取材をすれば、された側も楽しみになって必ず観に来てくれますから、すっごく責任感も沸きますし、観に来てくれた人は、自分の言葉がお芝居の中で生きているので、すごく共感してくれるんです。これって、とても嬉しいことなんですよね。

それと、お芝居を観たことのない地域の人であったり、ミュージカルを毛嫌いしていた年配の人たちも、こういった取材が縁で劇場に足を運ぶようになってくれるのも、喜びの一つですね。

Q・ お芝居以外にも、「日本の原風景」という活動もありますよね。これはどういうものなんですか?


本当に私たちって何でもやるんです。(笑)
これは、本当にお芝居とは全然関係のない活動であったりもするんですよね。

日本中を廻る中で、棚田のあるような町や村にたくさん行きました。
「棚田」ってね、山の斜面とかに作られていて機械が入り込めないんで、どんどんと廃れていってしまってるんです。でも、山崩れを防いでいたり、水の循環を良くしたり、棚田の果たす役割って、ただ農作業をする以上にたくさんあるんです。それに、風景も本当に綺麗なんですよ。

そういう中で劇団が仕掛け人になって「棚田サミット」というのをつくりました。もう一度棚田を見直そうっていう運動を始めたんです。そうすると、農水省なんかも動き出してくれて、もう10年になりますね。

Q・ 本当に、お芝居やミュージカルからは想像も付かない活動ですね!


でしょ?(笑)だから、お芝居だけをやりたい人にはなかなか付いてゆけない活動かもしれないですね。

でも、これも大切な役割だと思ってます。こういった活動が出来たのも、ひとえにふるさときゃらばんと各地域の人々との結びつきがあっての事だし、この活動を通して、初めてミュージカルを観たとか、舞台を観たという人もたくさんいるんですよ。

Q・ こういった活動に専念できるように、創立当初から完全給料制をひいていらっしゃいますが、100人もの劇団員を演劇だけで支えてゆくには、そうとうなご苦労があるんじゃないですか?


そうですね。最近、市町村合併がとても多いでしょ。バブルがはじけてからは企業もあまり文化にお金を出せなくなりましたからね。もともと、色々な地域の自治体の方々や青年団、婦人会、企業、そういった方々に支えられている劇団なので、こういった問題が出てくると、正直頭が痛いです。でも、劇団と地域とが今まで築いてきた絆であったり、色々な企画を練ることで乗り切ってきました。

もちろん、初めからたくさんのお給料が出るわけではないので、若い子達は苦しいですけど、年中全国を回っているのでバイトをすることも出来ませんからね。なので、創立当初から「互助会」というものを設けて、住宅費・光熱費・医療費などを劇団で負担したりしてやってました。今は、お給料も上がってきたので、劇団での負担は医療費のみですけど、そうやって支えあいながらやってます。

天城さんとお話をしていて感じたのが、仕事として舞台を作ることのへ“責任感”です。

「“自分のやりたいこと”だけをやっている劇団活動は苦しいかもしれませんね。うちの劇団はただ“好き”というだけでは出来ないですからね。
人それぞれ、色んな方法があっていいし、色んなタイプの人がいていいと思うんだけど、最終的には、お客様のニーズがあって、そこにマッチしたものを提供してゆくことが大切なんじゃないかしらね」

そう、天城さんはにこやかに語ってくださいました。

「自分の中には何もない。自分の外に何かがある」その信念のもと、常にお客様の声を聞き、そこから作品を立ち上げるわけですから、必ずしも自分がやりたいと思うテーマではないかもしれません。また、一般の方を募集して舞台に参加してもらう活動もされているので、本番当日までインストラクターをしなければいけないこともあるそうです。

役者さんであれば、演技だけに集中したい人も多いはず。それでも、取材をしたり、インストラクターをしたりしながら、お客様の笑顔のために一丸となって活動をされています。

舞台を支えているのは、お客様です。お客様の笑顔のために、出来ることを精一杯やる。それが、私たち演劇に携わるものの仕事です。「好きだから」だけで出来る仕事は、世界中のどこを探してもみつからないでしょう。誰のために、何のために舞台という「仕事」を選んだのか、今一度見詰めなおす機会を与えてくれた取材でした。


☆★☆★ ふるさときゃらばん 公演情報 ★☆★☆ ●愛・地球博イベント

「市民参加パブリックミュージカル」
日程:8月12日(金)〜9月1日(木)
会場:「愛・地球博」長久手会場モリゾー・キッコロメッセ

詳しくは、劇団ふるさときゃらばんホームページをご覧下さい。
 >>>http://www.furucara.com/index.html

※棚田学会公式サイト
 http://www.tanadagakkai.com/
(構成/文・O)2005/3/28