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新しい種を撒き続ける  〜五反田団〜

日本で活動している劇団は数限りなくあります。しかし、そのほとんどが一般に知られていないのが現状です。日本の演劇業界が、他のエンターテイメント業界、アート業界に比べ、マイナーであり続けているのには、必ず、明確な問題があるはず――――。

このコラムでは、現在活躍している劇団に取材し、劇団の現状やそれぞれが抱えている問題点、演劇全体が広く社会に認識されるにはどうしたらいいのかなどのテーマを共に考え、演劇の魅力をより多くの方々へ知っていただくための方法を考察してゆきます。

第42回目の今回は、劇団「五反田団」です。

●五反田団(ごたんだだん)

1997年、作・演出を手がける前田司郎(まえだ・しろう)を中心に結成。力みのない不思議な劇空間が話題を呼ぶ。佇まいを描く演劇の最先鋒。

2003年より、平田オリザ氏率いる「青年団」と合併。さまざまな旅公演などを経て、2005年には合併を解消。現在、ENBUゼミの講師を務めるなど、独自での活動の幅を広げている。

●代表の前田司郎さんにお話をうかがいました

Q・ ホームページを拝見すると、「合併解消しました」という文字が強烈に見えるのですが、青年団との合併、そして解消というのはどういうものだったのですか?


決して喧嘩別れしたわけじゃないんですよ。(笑)
まず合併についてお話しますね。若手の劇団って、軌道に乗るまでにすごく時間がかかるんです。そして、その間に経済的な苦労が絶えないので、辞めていってしまう人がとても多いんですね。そして、それが演劇界全体の問題の一つでもあるのです。平田オリザさんはご自身もそれでよっぽど苦労したらしくて、その問題に関して憂慮していたらしいです。それでこの合併と言う処置を考えたのです。

合併と言ってもヒビキが面白いからそう呼んでいただけで、実際はアゴラ企画が若手の劇団を援助するのに、これまでの日本の演劇界の方法では問題が多くて、新しい方法を考える必要があった、その方法が今回の合併でした。劇場に何人かの演出家が居て、劇場つきの俳優を共有するというスタイルは欧州には多いそうなんですが、そのスタイルの日本での先駆けになろうという意図もオリザさんの中にはあったらしいです。

チケット予約のシステムについてのアドバイスだったり、制作面でのノウハウの提供であったり、青年団の俳優さんを使う場合のギャランティの援助だったり。そういうノウハウを包み隠さず見せてくださって、それは僕達にとって大きな財産になりました。

合併の解消は最初からオリザさんとの間で決めていた事で、五反田団が独自に助成を受けられるようになったら解消しようと話しておりました。

Q・ 公演の際に、常にアフタートークの回を設けていらっしゃいますが、それはどうしてですか?


理由としては、2つあります。1つは、お芝居の見方の解説、1つは、チラシ以外の情報提供です。

僕は、よく写真を見るんですけど、どうしてもその写真が撮られた背景であったり、その作品の良さがいまいち良く分からなかったんです。それがある時、気になっていた写真につていの解説を見つけたんです。それを読んで、写真に対する考え方や捉え方が変わって、理解の仕方が変わるという経験をしました。その経験から作品にキャプションをつけるのも有りかなと思い始めたんです。

これは私見ですけど、演劇も、ちゃんと観られる人って少ないんじゃないかと思うんです。今“ドラマ”っていうと、テレビドラマが中心にあると思うんですけど、僕の芝居はテレビドラマとは造りが全く違うので、それと同じ見方では理解は得られないと思うんです。なので、キャプションを付ける事で、お客さんのお芝居の見方が深まるのではないかと思ったんです。うがった言い方をすれば、啓蒙するということになるかと思うんですけど、お芝居の見方をちゃんと知ってもらいたい、というのが1つの大きな理由です。

そして、もう1つは、お芝居ってチラシしか情報ってないじゃないですか。チラシに惹かれて会場に足を運んだとしても、面白くなかったときのショックは計り知れないんですよね。ただ、作者の意図やそれ以外の判断基準があれば、何故面白いと感じなかったのかって事を理解できると思うんです。そして、理解した上で、“もうここの劇団は観ない”とか、“じゃあ、もう一度観てみようか”という判断を下せるのではないかと思うんです。

人によっては、作者の解説は聞きたくないって方もいらっしゃると思うので、そういう方はアフタートークは聞く必要はないと思います。ただ、今のところ、アフタートークがあるステージの動員数が一番多いですね。

Q・ 昨年から、ENBUゼミの講師や、京都でのワークショップ公演の指導をされていますが、こういう活動を始められたのはどうしてですか?


ENBUゼミに関しては、正直、若手育成とか教育という感覚は全くないです。僕自身の考えでは、芸術的なものというのは教えられないものなんです。もちろん、生徒さんたちは俳優になりたいという思いで来ているのですが、こういう世界は残酷なほどに才能の有無に左右されるので、全員がちゃんとした俳優になれるわけではないんですよね。ただ、彼らにとって、お芝居を経験することで人生が楽しくなれはそれでいいと思うし、いいお客さんを育てるという意味ではとても意味のあることだと思っています。

それと、京都のワーク・イン・プログレスに関しては、すでに俳優として立っている人たちとの活動なので、教えるというよりは僕自身がいろんな俳優さんに出会う場所として捉えています。もちろん、参加者の皆さんに示唆を与えることは出来ますし、俳優さんの技術を磨く場として活用してもらえると思います。まだ実際にやってないからわからないですけど。

演出家として、まだまだ知っている俳優さんが少ないんですよ。僕はよく、俳優さんを色鉛筆に例えるんですけど、同じ赤色でもメーカーや金額によって色の違いがあるでしょ。描きたい絵が浮かんだとして、5本の色鉛筆の中から色を選ぶよりも、100本の中から選んだ方が、より理想に近い絵が描けるかもしれない。多きゃいいって訳でもないでしょうけど、僕にはまだ足りないかなと思うので。そういう意味で、もっとたくさんの俳優さんと出会ってゆきたいんです。なので、今後もこういう活動には積極的に参加してゆきたいと思っています。

Q・ アフタートーク以外にも、公演チケットの低価格化など、いろいろな試みをされていますが、今の演劇業界についてどう考えられますか?


僕は、結構楽観視しています。最近、舞台からテレビ出演という「道」みたいなものが出来始めているので、それに関しては抵抗を感じるんですが、まだまだ商業的にりきっていない分、自由に作品を作れると思うんです。例えば漫画などの世界だと、どうしてもお金が絡んでくるので、書きたいものではなくて売れるものを書かなきゃいけないんでしょ?そういうしがらみがない分、誰もが思う存分自分の才能を発揮できる世界だと思うんですよね。

ただし弊害もあって、誰でも出来る分、本当に面白いものが少ないのも現状です。演劇作品のうち、9割が面白くない。残り1割はまだましなものだとして、その中の1割、つまり1%しか本当に面白いものがないんです。これだけでも十分不幸なんですが、これに加えて“チケットノルマ”が常識としてまかり通っていることにとても憤りを感じます。

まず、ノルマを課せられることで、経済的に圧迫されて演劇をやめる人が多いんです。バイトもさせてもらえないで、ノルマも払わなきゃならないんじゃ当たり前ですよね。経済的な面で自立できない場合、才能のある人は他の分野へ流れていってしまいます。そうすると、演劇業界に才能が集まってこない。これは、不幸です。

また、ノルマを課せられた役者さんは、当然自分の友人にチケットを買ってもらうわけです。そして、普段演劇を観ない人たちが無理やりチケットを買わされて劇場に足を運んだとき、その作品がつまらないものである可能性は、90%もあるわけです。そうした時、“この劇団は面白くない”という認識ではなく、“お芝居は面白くない”という認識をする可能性が非常に高い。これは罪だと思うんです。実際、そういうことを繰り返してきた結果が、今の演劇人口の低下だと思うんです。本当に減っているのかは知りませんけど。

お芝居を創ろうと思ったとき、お金をかけたければいくらでもかけたくなります。自分の資金を考えて、その中で出来る精一杯のことをやってゆけばいいと思います。なので、僕たちはノルマ制は一切とりませんし、チケット料金自体を低価格に抑えて、お客さんが足を運びやすいようにしています。

チケットノルマを、当然と思っている劇団や俳優は非常に多いと思います。ノルマ制の弊害を知っていて、それでもなおかつ採用するのであればいいのですが、そうではなく、演劇業界の常識だと勘違いして採用しているのであれば、是非考え直してほしいと思います。

作品作りや演出家としてはとてもアーティスト的な感覚を持っていらっしゃるのですが、公演活動に対する取り組みや制作面に関しては、とても合理的で理論的な前田さん。たくさんの思いを抱きながら、今の演劇業界をクールに静観していらっしゃる様子でした。

五反田団で行っているアフタートークや、チケット料金の低価格化など、地道ではありながらも、確実に形にしてゆき、今の演劇業界に新しい種を撒いている段階だといいます。前田さんご自身は、「僕は種を撒くだけです。その後の状態は目に見えるものではないですから」とおっしゃっていましたが、どんな芽を出し、どんな花が咲くのか、今後もしっかりと見てゆきたいと思いました。


五反田団ホームページ
 >>>http://www.uranus.dti.ne.jp/~gotannda/

(構成/文・O)2006/4/24