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構築と破壊 〜江戸糸あやつり人形劇団 結城座〜

日本で活動している劇団は数限りなくあります。しかし、そのほとんどが一般に知られていないのが現状です。日本の演劇業界が、他のエンターテイメント業界、アート業界に比べ、マイナーであり続けているのには、必ず、明確な問題があるはず――――。

このコラムでは、現在活躍している劇団に取材し、劇団の現状やそれぞれが抱えている問題点、演劇全体が広く社会に認識されるにはどうしたらいいのかなどのテーマを共に考え、演劇の魅力をより多くの方々へ知っていただくための方法を考察してゆきます。

第43回目の今回は、江戸糸あやつり人形劇団「結城座」です。

●江戸糸あやつり人形劇団 結城座

結城座は、寛永12年(1635年)に初代結城孫三郎が旗揚げ。以来370年以上の歴史を持ち、国の記録選択無形文化財及び東京都の無形文化財にも指定されている、日本で唯一の伝統ある糸あやつり人形劇団。

江戸幕府公認の五座の中では、歌舞伎三座(市村座、中村座、河原崎座)は座元名のみの継承となり、残る薩摩座も姿を消してしまい、現在<座>として存続するのは結城座のみである。

現在の結城孫三郎は、平成5年5月に三代目両川船遊が十二代目結城孫三郎を襲名した。古典をベースに新作、写し絵など常に独自の舞台空間を創造し続け、海外公演などにも活動の場を広げている。

●制作担当の谷口さんにお話を伺いました

370年以上も続く糸あやつり人形劇団「結城座」。この長い歴史の中には、さまざまな苦難もおありだったことと思います。今回は、制作の谷口さんをお迎えして、これほどまで長く続いてきた劇団の裏側についてお聞きしました。

Q・やはり長い歴史の中で、さまざまな変革や改革などはあったのですか?


実は、残念なことに関東大震災や第2次世界大戦の時の空襲で、結城座が持っていた歴史的な資料が全部焼けてなくなってしまったんです。なので、詳しい文献が残っていないのですが、他の資料などから見てみると、やはり何度も廃業したり活動を休止していた時期があったようです。時代の流れが、その時々にあったんでしょうね。

特に、江戸から明治に移り変わる時期というのは、とにかく新しいものを求める時代だったようで、結城座だけでなく歌舞伎などの分野でも相当な苦労があったようです。

当時、座長を務めていた9代目孫三郎は、その時代をうまく捉えることの出来るアイディアマンだったみたいです。もともとは、人形遣いと語りは別の人がやっていたのですが、その分業制をいち早く廃止して、人形遣いが台詞を語るようにしました。これには、当時の関係者からは大きな批判があがったらしいのですが、人形を操っている人が台詞を語ることで、人形に命を吹き込むことが出来たのでしょうね。今でもずっと続いている手法となりました。

また、古典を上演するだけではなくて、当時の事件やら時事問題なんかを取り上げた創作劇を作って上演をしていました。分業制だと、なかなか新しい物を作ってすぐに上演することは難しいのですが、分業制をやめたことで、フットワークが軽くなったんでしょうね。お客様にはとても好評で、この改革によって生き残ることが出来たようです。

また、「写し絵」と言って、薄いガラス板に絵を描き、“風呂”という箱形の幻燈機を使って絵を映し出す、映画の原型のようなものがあるのですが、隅田川の屋形船を2艘つなぎ合わせて、船の障子に絵を映し出して上演をしたんだそうです。これがかなり好評だったようで、一気に人気があがったんだそうです。

夏の上演だけでは面白くないと考えた9代目は、竹筒の一方に小さな穴を一列に開け、そこにお湯を流し込み、穴から上がった蒸気をスクリーンにして写し絵をしたりと、いろいろな面白いことをしていたようです。

糸あやつり人形は、雨や風には非常に弱いものですから、普通のお芝居と違って上演できる場所というのが限られていて、お客さんの層を広げるにはかなりの苦労があるのです。でも、9代目のいろいろなアイディアで、時代の波を上手に渡りきる事ができたようですね。

Q・ 現在は、他のジャンルとのコラボレーションをするなど、また新しいことに取り組んでいらっしゃいますよね。


現在の12代目孫三郎になってから、特に新しい活動が増えました。彼が常々言っている言葉が、「構築と破壊」です。これがないと、芸術は生きてゆけないのだと言います。

その一環として、人形劇の演出経験の有無は関係なく、外部からの演出家を呼んで公演をするようになってきました。今までも、第三エロチカの川村毅さんや、近代能楽師の方や、色んな方にお願いしました。次回は、宇宙堂の渡辺えり子さんにお願いするんです。

外部の演出家さんにお願いすると、私たちだけでやっていては考えもつかないようなアイディアが出てきて、古典作品が新しい命を持つようになってくるので、とても楽しいです。私たち人形遣いは、人間では表しきれない、人形独特のものを出すために日々訓練を重ねています。その人形の良さや可能性を、新しく引き出してくださるんです。

また、外部のお芝居に結城座の人形を使いたいというオファーも多くいただくようになりました。演劇の1つの要素として人形を使いたいというものです。人間ではどうやっても表現できないものを人形に昇華することで、観客の中でのイメージをより大きく広げることが出来るんですね。

こうやって、外部とのつながりを広げてゆくことで、新しい観客層の獲得が出来ればと考えています。新しい人々に興味を持ってもらい、“観たい”“やりたい”と思ってくれる人を増やしてゆきたいんです。

古典には古典の良さがありますが、新しいものを作ってゆかないと廃れてしまうという強い危機感もあります。特に糸あやつり人形というのは、人形を作るのにも使うにも大変な技術が必要で、舞台に安心して上げられるようになるまでには、最低でも10年はかかるんです。

ですから、今こういう活動をどんどんと進めてゆくことは、次の世代へ継承してゆくための大切な一歩だと考えています。

Q・今後の展望を教えてください。


展望は、たくさんあります。どこまで出来るかは別ですけど(笑)

まず、海外公演をもっとやってゆきたいです。今までにもいろいろな国で上演をしてきましたし、2002年〜2004年にかけては、フランスの国立劇場とのコラボレーションをして各地を廻りました。こういう活動を、もっと活発に行って、日本で生まれた人形劇を世界に評価して欲しいと思っています。

それと、写し絵の復興を考えています。これはお金も時間もかかることなので難しいことではあるのですが、今年の12月に劇場で上演をする予定です。できれば、屋形船を使った昔ながらの写し絵をしたいと思っているのですが、今は川自体が夜になっても明るいので、実現するにはまだまだ時間がかかりそうですね。

次に、若い人の養成です。入門塾を開いて今年で3年目になります。先ほどもお話したように、技術が大変に難しいので、1年や2年でどうにかなるものではないんです。せめてこれを10年間続けてみないと結果は見えませんからね。まだまだ始めたばかりですが、この活動を少しでも長く続けて、結城座を引き継いでいってくれる人が生まれて欲しいと願っています。

そして、これはとても大きな課題なんですが、全国に点在している糸あやつり人形を集めて、復興させたいと考えています。昔は、江戸だけではなくて色々な場所で人形芝居はやられていました。特に、鳥取・島根・山口などでは、海外から伝わってきたものも多くて、1200年前の棒操り人形が残っていたりするんです。

でも、技術が難しいせいで、もう伝わっていないものが多いんです。残っていたとしても、人形遣いの平均年齢が60代で後継者不足に悩んでいるところがほとんどです。歴史的にすばらしい価値を持つ作りのいい人形が、小学校の体育倉庫に転がっていたりするんですよ。各地の自治体が動いてくれればそれが一番いいのでしょうけど、なかなかそうもいかないのが現状です。

なので、私たちの座に取り込むと言うことではなくて、私たちが出向いていって、技術を教えたり復興のお手伝いだけでもいいので、なんとかしてゆきたいと考えているんです。時間もお金もかかることですし、行政や教育委員会の方々のご協力が必要なのですが、少しづつでもいいので、進めてゆきたいですね。


まるで、役者さんのようにチャーミングな笑顔と、まっすぐな眼差しの谷口さん。現在座長を務めている12代目結城孫三郎さんが、次の新しい作品制作のために東京を離れていらっしゃったので、制作の谷口さんにおいでいただいたのですが、大変熱く、面白いお話をたくさんお伺いすることが出来ました。座長の想いが劇団全体にしっかりと浸透していることの現われなのでしょうね。

特に、「構築と破壊」というお話からは、次々に新しいことをしてゆこう、そして結城座だけではなく、人形芝居全体の底上げを図ろうという強い信念と希望が感じられました。

歴史や伝統に甘んじることなく、常に危機感を持って突き進むその姿に、大きな未来が開けているように思います。


☆★☆★ 結城座 公演案内 ★☆★☆

●結城座十年ぶりの写し絵劇場、ついに始動!

日常のリアルな現実をちょっとずらしたもう一つの世界の出来事。詩的言語のつらなった独特の賢治の心の世界を「写し絵」を通して創り上げます。そこに糸あやつり人形も加わることで、結城座ならではの独特の舞台空間が広がるに違いありません。

構成・演出は岸田戯曲賞作家で劇団黒テントの元芸術監督・演出家の山元清多さん。結城座とは初顔合わせ。皆様 乞うご期待!

宮沢賢治の写し絵劇場 〜注文の多い料理店〜

 2006年12月13日(火)〜17日(日)
 世田谷区・シアタートラム
 演出:山元清多
 写し絵絵師:寺門孝之、児玉房子
 音楽:萩京子

詳しくは、結城座ホームページをご覧下さい
 >>>http://www5a.biglobe.ne.jp/~youkiza/

(構成/文・O)2006/5/22