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表現を追及する〜デフ・パペットシアター・ひとみ〜

日本で活動している劇団は数限りなくあります。しかし、そのほとんどが一般に知られていないのが現状です。日本の演劇業界が、他のエンターテイメント業界、アート業界に比べ、マイナーであり続けているのには、必ず、明確な問題があるはず――――。

このコラムでは、現在活躍している劇団に取材し、劇団の現状やそれぞれが抱えている問題点、演劇全体が広く社会に認識されるにはどうしたらいいのかなどのテーマを共に考え、演劇の魅力をより多くの方々へ知っていただくための方法を考察してゆきます。

第46回目の今回は、「デフ・パペットシアター・ひとみ」です。

●デフ・パペットシアター・ひとみ

ろう者(聴覚障害者)と聴者(健聴者)が協同する人形劇の専門グループ。1980年財団法人現代人形劇センターの中に結成、1981より活動を開始。北海道から沖縄まで全国各地で公演をしている。

全く言葉を使わない“無言劇”、手話やスライド、プラカードを駆使し、セリフを表現したもの、パントマイム、お神楽、日本舞踊を組み入れたもの、様々な手法での舞台づくりをしている。

“ことば”に頼らない表現により、その舞台は海外でも受け入れられ、ヨーロッパ各国、中近東、アメリカ、韓国、ニュージーランド、エジプト、台湾などでも高い評価をえている。

●活動内容と展望をおうかがいしました

1980年に、ろう者と聴者とで作る人形劇団として発足し、公演は各地域で実行委員会を結成し、予算などを組んでもらって実現させるという方法で活動を続けてきたデフ・パペットシアター・ひとみ。彼らの活動は、人形劇だけではなく聴覚障害を持つ方々の文化のあり方をも変えようとしています。

今回は、創立メンバーであり(財)現代人形劇センター理事長である森元勝人さん、デフ・パペットシアター・ひとみ代表の善岡修さん、音楽を担当していらっしゃるやなせけいこさんにお集まりいただき、デフ・パペットシアター・ひとみの活動と今後の展望についておうかがいしました。

Q・どうしてろう者と聴者が協同する団体を作ったのですか?

森元: これには2つの理由と目的があります。
1つは、僕ら演じる側の問題です。人形劇というのは本来人形を使った表現であるものなのに、言葉に重きをおきすぎて人形の表現方法に関して疎かになっているのではないか、というものです。

もう1つは、ろう者の文化的な面です。結成当時、彼らと舞台芸術との関係が希薄で、ろう者が観て楽しめる舞台もなければ、舞台に興味を持っているろう者も非常に少なかったんです。

そこで、ろう者からのアイディアをもらって新しい人形劇の形を作り、ろう者にも聴者にも楽しめる人形劇本来の「人形が語る」舞台を作りたい、そして職業劇団として成立させたいということになったんです。

しかし、これにはまた2つの大きな問題が出てきました。1つは「誰が観てくれるのか?」、もう1つが「誰にお願いすれば公演の場が作れるか?」ということです。

この2つの問題を抱えたまま活動を開始し稽古を積んでいるとき、日本演劇教育連盟の先生から、全国演劇教育研究集会で公演をしてもらえないかと依頼があって、そこで初舞台を踏むことになったんです。全国から集まった1000人の教職員の方々に観てもらい、大きな反響を頂きました。

そしていろいろな方々からアドバイスをいただき、各地の福祉団体や手話サークルなどに私たちの活動を説明し、実行委員会の結成をお願いしてデフ・パペットシアター・ひとみの公演の場を作ってもらうようになったんです。

初めは、福祉と関係するならば何故ボランティアでアマチュアとしてやらないのか、何故プロの劇団の公演チケットを一般市民が売らなければいけないのか、という疑問やご意見をたくさん頂きました。

しかし、教育するために教師が必要なように、病気を治すために医師が必要なように、文化を育むためには専門の集団が必要なんだということを説明し、話し合いを続けることで、いつしか全国600ヶ所に実行委員会が設けられるようになりました。創立から26年目の今でもこの形が続いています。

Q・活動の中でのご苦労や、発見などはありますか?

森元: 苦労というのはないですね。僕らは、聞こえないことをハンディだとは思っていなくて、違う文化を持った者同士の協同作業だと思っているんです。

つまり、僕ら聴者は音声言語の文化を持っていて、代表の善岡くんなどのろう者は手話という視覚言語の文化を持っています。だから、僕らはイメージの組み立て方や想像の仕方が違うんですね。そこからの発見がとてもたくさんあるんです。

簡単な例を挙げれば、芝居作りの際に音でのきっかけ作りはできません。今までだと、音楽や台詞できっかけを作っていたところを、動きなどの目に見えるものでつくるようになりました。

また、「やあ、こんにちは。今日は暑いね」という台詞も、しゃべってしまえば人形は特に動かなくても伝わっていましたが、ろう者側からするとただ人形が突っ立っているだけとしか捉えられない。では、どうやってその状況を伝えるか、という工夫がでてきます。そこから、「人形で何かを伝える」という表現方法が洗練されてゆくんです。

善岡: 確かに。人形には人間のような細かな表情がありませんから、ただ動いているだけだと何にも分からないんですよね。仮面なんかつけて稽古していると、僕は聞こえませんから「あれ?あの人何が言いたいんだ?」なんて思うこともあるんですよ。(笑)

やなせ:音楽もそうですね。ろう者と音楽とは一切結びつきがないと思っていたんですが、実は音楽好きな方は多いんですよ。これは発見でした。

Q・ 舞台上での生演奏を取り入れていらっしゃるのも、その発見から出てきたものですか?

やなせ: そうですね。
大抵の人形劇は、作曲家がいて、稽古を見てそれに見合った時間尺の音楽を作ってテープに録音して、それに合わせて演じてゆくんですが、私たちは稽古をしながら一緒に作ってゆきます。

そして、その演奏している姿も舞台で見せてゆくことで、ただ聞こえる音楽ではなく見て楽しめて感じられる音楽を作ってゆくんです。

善岡: 僕たちろう者は、身体全体で音を感じるんです。
例えば、劇中でカミナリが落ちるシーンがあります。これを表現するのに、大きな銅鑼を力強くバーン!と叩くんです。すると、銅鑼を叩いている人の表情や力強い動き、そして身体に響いてくる音の振動で、カミナリの音やそのシーンの空気をイメージとして感じるんです。

もしこれが、カミナリのイメージにそぐわない素材の楽器だったり、叩く人が弱々しかったりすると、何のことだか分からなくて混乱します。また、舞台上にカミナリの映像など何もなくて、スピーカーから音を出しているだけだと、身体に感じる音の振動がどこから発せられているのか分からなくて、劇場の外で何かあったんじゃないか、なんて不安になります。

見て楽しめる音楽を使うことで、イメージがより膨らんで、物語を楽しむことが出来るんです。

やなせ: 以前、ろう学校で公演をした時、アンケートに銅鑼の絵と、銅鑼から波紋のように音の振動が出ていて、それを身体に受けている自分を書いてくれた人がいました。「僕は、こうやって銅鑼の音を感じたよ」って。すごく面白い表現方法だと思いましたし、伝わっているんだと、強く感動しましたね。

Q・ 善岡さんは昨年代表に就任されましたが、デフ・パペットシアター・ひとみへの入団のきっかけは何ですか?

善岡: 実は、大きな声では言えないんですが(笑)、僕は人形劇はあまり好きじゃなかったんです。人形には表情がないから、見ていても分からないしつまらないと思っていました。日本の映画やテレビも好きじゃなかったです。海外の映画は字幕があるけど、日本のものには字幕がないでしょ。

テレビの話題になると、テロップなんかで何かをやっていることはわかっても内容までは分からないから、話についてゆけなくて寂しい思いをたくさんしました。映画や舞台に行っても、周りは笑っているのに僕は全然分からなくて、やはり寂しい思いをしていました。

ある時、デフ・パペットシアター・ひとみの公演があるのを知って、聴者の友人と一緒に行ったんです。ちょうど20周年記念の「オルフェウス」でした。ろう者が作っている舞台なので、きっと僕には分かるだろうと思っていましたが、一緒に行った友人には分からないんじゃないか、僕がずっと感じていた寂しい思いをさせてしまうんじゃないかと心配していたんです。

でも、僕が笑ったのと同時に、隣で友人も笑っていました。「オルフェウス」は全く台詞を使わない無言劇なので、終演後も友人とイメージをぶつけ合ったり共有したりしながら、ずっとオルフェウスの話題で盛り上がることが出来ました。それに、今まで表情がなくてつまらないと思っていた人形たちに、表情があるように見えたんです。すごく衝撃でした。

それで、僕もやってみたいと思っていたとき、前代表の庄崎さんから声がかかって、一も二もなく参加したんです。

Q・今後の展望を教えてください。

善岡: 僕が入団する以前からずっと、新作を作るたびに新しいスタイルを発見して来ていたのがデフ・パペットシアター・ひとみです。これってとてもすごいことだと思います。でも、きっと20年以上も同じメンバーでやっていると、発想が似通ってきたり壁にぶつかっている部分もあったかもしれないと思うんです。

僕が就任し、新しいメンバーも入ってくる中で、今までは思いつかなかったような発想をどんどんと取り入れて、さらに発展させてゆきたいと思っています。

それと、まだまだろう者の文化は狭くて、舞台を見に行くといつも同じ顔ぶれだったりするんです。アマチュアの団体はたくさんあるんですが、俳優がろう者なら、観客もろう者。どうしても身内で固まってしまうんですよね。この壁を壊して、聞こえる聞こえない関係なく、ともに楽しめる舞台を広めてゆきたいと考えています。

取材前、私の中での記事の構想は「バリヤフリー」でした。でも、お話をうかがっている中で、自分の考えが浅はかだったと反省しました。デフ・パペットシアター・ひとみは、「ろう者と聴者がつくる人形劇団」ではなくて、「人形を表現媒体とした、プロのクリエイティブ集団」だと感じたんです。

台詞をただ声に出すだけで通じてしまうと思っている俳優はたくさんいます。しかし、無言ででも感情を表現できる俳優は非常に少ないのではないでしょうか。むしろ、無言で舞台に立つことに耐えられる俳優はほんの一握りと言えるでしょう。ましてや、表情をころころと変えることの出来ない人形での表現は、そうとうな技術と演技心が必要とされるはずです。

物語を伝えることの難しさと、まだまだたくさん秘められている舞台芸術の可能性を強く感じました。

劇団ホームページ>>>http://deaf.puppet.or.jp/

(構成/文・O)2006/8/28