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美術費っておいくら? 中編

世界のトップスターが出演して、たくさんのCGが使われている豪華な映画だって、1,800円で観られちゃう。けれども演劇は、無名の劇団の公演でも2,000円以上、有名人が出てるだけで1万円を超える料金だってあるんです。んー、こりゃ、高い!

……でも。一度きりのお芝居は、その瞬間のためだけに、いろんな人が動いて、いろんなところにお金がかかっていたりするんです。そんな演劇のお値段の構造をさまざまな切り口から“解剖”するのがこのコーナー。

今日のテーマは、「美術費 中編」です。


●高い?安い?「大道具」のお値段

台本が出来上がり稽古が進んでいくと、さまざまな舞台設定が決まって行きます。設定は、ホテルのロビーであったり、病院の待合室であったり、宇宙船の中であったりとさまざま。

前回(12月8日号)では、この舞台設定を彩る「大道具」を作るために必要な木材などの道具を検証しました。今回は、いよいよ舞台美術プランナーが、台本と演出家のイメージを忠実に具体化するために舞台美術プランを立て、大道具の作成に取り掛かります。

自分たちが使う劇場の舞台図面を紙に起こし、その中に絵を書いて、舞台セットのイメージを固めてゆきます。そして、何が必要で、何が必要でないのかをしっかりと見極め、予算と照らし合わせながら、材料を割り出してゆきます。

では、架空劇団「タイムズ」が「三百人劇場」を使って、、「ワンルームマンション」という舞台設定でお芝居をする場合の大道具費のお値段を計算してみましょう。今回は、背景となる壁と、出入り口となるドアを作ります。

壁を作る際に必要な道具は、3×6尺(約91cm×182cm)のベニヤ板と、ベニヤ板を立てかけるための四角い枠、人形立てに使うタル木などの木材が必要になります。ベニヤ板は、人が乗るわけではないので、薄いものを使います。

ドアを作る際には、開け閉めに耐えられるだけの頑丈な「ドア枠」を作らなければいけません。ドアの開閉に必要な蝶番(ちょうつがい)や、ドアノブなども必要です。そして、実際に開け閉めする「ドア板」そのものも作ってしまうわけです。

では実際に、どれだけの材料を購入すればいいでしょうか。

まず、壁。
「三百人劇場」の広さが、間口10m、奥行き6m、高さ5m。この広さを埋める壁に必要なベニヤ板は、正面に8枚、両サイド合わせて12枚(片サイド6枚)の計20枚必要となります。

次に、ベニヤ板を貼り付けるための四角い枠。これは、ベニヤ板2枚につき1セット必要になります。これに必要なタル木は、4メートルの物を約2.5本使います。ですから、ベニヤ板20枚に対し、4メートルのタル木が25本必要になります。

また、これを支える人形立ては、ベニヤ板の枠1セットにつき2組。枠は10セットあるので、合計20組必要です。これには、やはり4メートルのタル木が約20本必要になります。そして、タル木が歪まないように固定するための薄いベニヤ板やヌキ板と呼ばれる長細い板も必要になってきます。

続いて、ドア。
ドア枠としては、ドア全体を囲っている「外枠」と、ドアを閉めた時に、ちゃんとストップするように支える「受け枠」が必要になります。つまり、ドアよりも大きい枠と、ドアよりも少し幅の小さな枠をを2つ重ね合わせた形の、分厚い枠が必要になると考えてください。

これには、4メートルのタル木を、3本必要とします。そして、ドアの開閉の時にかかる力に耐えられるように、かなり頑丈な足も必要になります。

そして、ドア自身。これには、分厚い板を使う場合もありますが、かなりお値段的に高くなってしまいます。ここでは、四角く組んだタル木にベニヤ板を貼って作ります。なので、タル木2本とベニヤ板2枚が必要になります。

これらを合計すると……


 ベニヤ板(3尺×6尺、厚さ4ミリ/1枚) 800円×20枚=16,000円
 タル木(長さ4メートル) 500円×45本=22,500円
 ヌキ板(9×1.3センチ、長さ365センチ/1枚) 400円×4枚=1,600円

ドア
 タル木(長さ4メートル) 500円×5本=2,500円
 角材(10.5×10.5センチ、長さ4メートル) 3,500円×1本=3,500円
 ヌキ板(9×1.3センチ、長さ365センチ/1枚) 400円×1枚=400円
 ベニヤ板(3尺×6尺、厚さ4ミリ/1枚) 800円×2枚=1,600円
 ドアノブ  1,000円
 受け金具 1,000円
 蝶番    2,000円

その他
 薄いベニヤ板(3尺×6尺、厚さ2.5ミリ) 550円×5枚=2,750円

 合計 : 54,850円


塗装を除いた木材丸出しの背景を作るだけで、これだけの費用がかかるわけです。

これ以外にも、セットを作る際に必要になるのが、床に敷き詰めるパンチカーペット、壁の木材を組み合わせる釘、両面テープ、布製ガムテープなどが必要になります。そして、塗装代。水性ペイント1.6リット缶で、ベニヤ板(3×6尺)約2枚半を塗ることができます。ここまで使ったベニヤ板は22枚ですから、約9缶必要です。

これらを合計すると……

 背景                  54,850円
 パンチカーペット(ニードル社)25m巻   11,000円
 両面テープ 600円〜×6巻         3,600円
 布製ガムテープ 600円〜×6巻       3,600円
 水性ペイント1.6リット缶 2,800円×9缶  25,200円

 合計 : 98,250円

では、劇団「タイムズ」が上記の舞台セットを作ったとして、今までにかかった費用を合計してみると…

 劇場費   997,500円(木〜日曜の4日間、6ステージ、定員257人)
 稽古場費  640,000円
 大道具費  98,250円
 ――――――――――
       1,735,750円

この合計金額をチケット収入でまかなおうとした時、6ステージ全て満席で、
1,735,750円÷(257人×6ステ)≒
チケット1枚につき、およそ1,125円の収入が必要になってくるのです。

  どうです?かなりの出費が出てきましたね。
大道具のプランも決まり、稽古も架橋を向かえ、本番に向けて慌しくなってくるともっともっと出費も増えてゆくのです。
それはまた、次回のお話…。どうぞお楽しみに!


※参考書
●「THE STAFF 舞台監督の仕事」 晩成書房 伊藤弘成著


(文・M)2004/1/12