under


 
 
美術費っておいくら? 後編

世界のトップスターが出演して、たくさんのCGが使われている豪華な映画だって、1,800円で観られちゃう。けれども演劇は、無名の劇団の公演でも2,000円以上、有名人が出てるだけで1万円を超える料金だってあるんです。んー、こりゃ、高い!

……でも。一度きりのお芝居は、その瞬間のためだけに、いろんな人が動いて、いろんなところにお金がかかっていたりするんです。そんな演劇のお値段の構造をさまざまな切り口から“解剖”するのがこのコーナー。

今日のテーマは、「美術費 後編」です。


●高い?安い?「小道具」のお値段

舞台の設定が決まり、大道具の作成が始まると同時に必要になるのが「小道具」です。「小道具」の範疇は広く、テーブルや椅子などの家具類から装飾品や携帯電話、役者が身につける指輪までさまざま。

例えば、設定が時代劇であれば、必要になるのが、カツラ、刀、十手、三度笠など。もし、設定が、病院の待合室であれば、ソファー、椅子、スリッパ、公衆電話、雑誌、これに医師が登場するとなると聴診器や注射器が必要になるかもしれません。

小道具は舞台の劇中で起こりうる出来事をわかりやすくするための重要なアイテムなんです。

前回(1月12日号)では、舞台を「ワンルームマンション」に設定し、壁やドアなどの背景を組み立てました。今回は、そのシチュエーションに必要な小道具をそろえてみましょう。

まず、台本をもとに「小道具表」をつくり、どんな小道具が必要なのか、考えられるものを全て書き出します。大きなものから小さなものまで、きっと驚くほどの数が出てくることでしょう。

「ワンルームマンション」に必要な小道具を考えた場合は、リビングテーブル、ソファー、クッション、テレビ、リモコン、電話、ステレオ、本棚、本、カレンダー、掛け時計、食器、靴箱、ゴミ箱、スリッパ、タンス、カーテン、洗濯物、ハンガー、洗濯機、ベット、枕、シーツ、毛布などなど。

これらの小道具をすべて買うのは大変です。
では、レンタル会社から借りるとすれば?

リビングテーブル18,000円、ソファー18,000円、テレビ15,000円、本棚12,000円…。このように、決して安くはありません。それどころか、借りるよりも買ってしまったほうが安い場合だってあります。

たくさんの小道具をとにかくいっぱい使って雰囲気を演出するスタイルもありますが、予算を考えるならば、本当に必要なものは何かをみきわめましょう。

演出方法によっては、テーブルと椅子だけあれば問題ない場合もありますが、今回は、テーブル、ソファー、本棚、本、テレビ、リモコン、食器、掛け時計を必要な小道具とします。

これらを、「作る」「借りる」「持ち込む」というように、調達方法を振り分けます。

●作るもの…………テーブル、本棚
●借りるもの………ソファ
●持ち込むもの……テレビ、本、本棚、リモコン、食器、掛け時計

まず、テーブルと本棚の制作費用を考えて見ましょう。

テーブルは、コンパネと呼ばれる合板(90cm×180cm 厚さ15ミリ)1枚から、天板と、脚を支える側板を切り出します。そして、タル木(360cm)1本から脚を4本切り出します。

本棚は、コンパネ合板(90cm×180cm 厚さ15ミリ)から上下2枚と側面2枚と仕切り板4枚を切り出します。このとき、1枚のコンパネで全て切り出せるように、寸法を設定するのがコツです。
次に、背板となる薄いベニヤ合板(90cm×180cm 厚さ4ミリ)を、本棚全体と同じ大きさにカッターで切り取ります。

これらにかかる費用は……

テーブル…… コンパネ合板 3,000円 + タル木   500円  = 3,500円
本棚 ……… コンパネ合板 3,000円 + ベニヤ板 800円  = 3,800円

これ以外にも、釘や木工ボンド(600円〜)、塗装に使うペンキ(1.6L缶2800円〜)が必要になります。テーブルと本棚を作るには、それぞれ5000円前後かかるということですね。

これに、ソファーのレンタル代金(18,000円)が加わると……

テーブル+本棚    10,700円
ソファーレンタル代  18,000円

合計         28,700円

これが、高いか安いかはあなた次第。もちろん、もっと節約することは十分出来ます。たとえば、リサイクルショップに足繁く通って、イメージに合うテーブルやソファなどをチェックしておけば、びっくりするほど安く仕入れることができるかもしれません。粗大ごみ置き場にだって、"宝物"がたくさん眠っています。

それらを仕入れてきて、色だけ塗り替えてしまったり、ちょっとした細工を加えれば、立派な美術が出来上がるんです。しかも、タダ同然で!

何でも、お金をかければいいというものではありません。また、舞台上に日常そのものを持ち込めばいいというものでもありません。本当に必要なものを厳選し、工夫し、節約してゆくことも大切なのです。


さて、劇団「タイムズ」が上記の小道具を作ったとして、今までにかかった費用を合計してみると…

 劇場費   997,500円 (木〜日曜の4日間、6ステージ、定員257人)
 稽古場費   640,000円
 大道具費   98,250円
 小道具費   28,700円

       1,764,450円

この合計金額をチケット収入でまかなうには、6ステージ完売したとしても……
    1,764,450円÷(257人×6)=約1,144円
チケット1枚につき、およそ1,144円の収入が必要になってくるのです。

いろいろな工夫をしても、まだまだ出費はかさみます。
小道具の作成も始まり、本番が近づいてくると、どうしても削れない出費が出てきます。それはまた、次回のお話…。どうぞお楽しみに!


※参考書
●「THE STAFF 舞台監督の仕事」 晩成書房 伊藤弘成著


(文・M)2004/2/9