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〜全国の演劇ワークショップ体験リポート〜
 



伝統の香りに包まれて……。狂言ワークが、静かに熱い!

「こども狂言ワークショップ〜卒業編〜」
2003年3月7日(金) 横浜能楽堂




お洒落スポットとして有名な、横浜みなとみらい。その中心にあるJR桜木町駅から、横浜駅方面へ15分くらい歩くと、紅葉坂という坂の上に、まるでお寺のような大きな建物があります。
ここが横浜能楽堂。

今回は、ここで行われている「狂言ワークショップ」を取材しました。

このワークショップは、伝統芸能に馴染みの薄い小中学生たちに狂言の楽しさを味わってもらおうと、この能楽堂がオープンした平成8年から毎年開催され、今年で早くも7年目を迎えます。

ワークショップは「入門編」と「卒業編」に分かれていて、今回の「卒業編」は、昨年夏に行なわれた「入門編」をうけてのもの。足の運びや扇の使い方など、狂言の基礎動作を体験した子どもたちが、今度は1本の作品をまるごと稽古し、実際に上演会で発表するまでを行ないます。

この日は、1月からスタートしていた「卒業編」の第7回目。会場となる地下1階の舞台へと向かうと、そこは巨大な能舞台がひとつまるごと収容された見事なリハーサルスタジオ。入り口の引き戸から一歩中に足を踏み入れると、ピンと張った静かな緊張感が漂っています。

午後6時、いよいよ今日のワークショップがスタート。

講師を勤めるのは、狂言師の山本東次郎さん。大蔵流の名門、山本東次郎家の当主で、ワークショップのスタートから7年の間、ずっと子どもたちに狂言の作法や技術を教えています。

まずは、付き添いのお母さんや能楽堂のスタッフも含め、部屋にいる全員がお辞儀で挨拶。こども狂言ワークショップは、昔ながらの作法で静かに始まります。
    

「卒業編」は、いわゆるレクチャーのようなスタイルではありません。子どもたちが黙々と自分たちの演目の稽古をする中、東次郎さんはそれを傍らで見守る……。それは実際の稽古とほとんど同じ雰囲気です。

狂言の稽古はすべて「口伝」。台詞はすべて口伝えで、動きはひたすら真似ることで覚えてゆきます。台本を片手に稽古をすることはほとんどありません。すべては舞台の上で実際に動いて学んでゆく。それが狂言のやり方なのです。

東次郎さんは、子どもたちの芝居を途中で中断させることはありません。彼らの芝居の様子を見ながら、時折、動きのタイミングや台詞のイントネーションを伝えてゆくだけ。すべては流れるままに、芝居の呼吸を子どもたちに伝えてゆきます。

「まだ早いよ。この言葉を待ってから」
「ここではくるっと回って、詰め寄って」

時折聞こえてくる指示は、すべて簡潔。時には、同じ場面を子どもたちの横で一緒になって演じてみることもあります。

しかし、それはお手本を見せるというより、空気や雰囲気で芝居の“心”を伝えているかのように見えます。

静かな緊張感の中で、稽古は黙々と続く―――。


ワークショップの間、子どもたちは、誰も無駄話をしません。自分たちの出番を舞台の傍らでじーっと待ち、
いざ舞台に上がれば、ひたむきに芝居に取り組む。そこには、奔放にはしゃぎまわる子どものイメージはな
く、背筋を正し、頬を紅潮させて厳粛な雰囲気を楽しんでいる凛々しい姿があります。

その日、子どもたちが、東次郎さんと一緒に舞台で稽古をしたのは、それぞれの演目を一度だけ演じた
のみ。途中を省くこともなければ、どこかを何度も繰り返すこともない。最初から最後までを、そのまま1度
だけ演じるだけです。でも、そんな緊張感が、子どもたちをさらに本気にさせ、稽古への集中力を高めさせ
ているのかもしれません。




午後7時30分、1時間半のワークショップがついに終了。正座をして、みんなで床に手をつくと、これまで張り詰めていた緊張感が一気にほぐれてゆきます。凛々しかった子どもたちも、緊張感から解放されたのか、半ば興奮状態で話し始めました。

「ちょーちょーちょー、面白い!」
「東次郎先生かっこいい〜!」
「僕は人に笑われるのが好きだから、狂言が好き!」

狂言のセリフは、室町や江戸の古い言葉で、子どもたちにはわかりにくい部分もあります。でも、子どもたち
は舞台で実際に身体を動かすことで、昔から伝わるものがたりの意味や面白さを、感覚的にとらえているよう
です。


「この子たちは、思ったよりも覚えが早いんだよ」

稽古終了後、舞台から下りてきた東次郎さんは、いまだ興奮冷めやらぬ雰囲気の子どもたちを見ながら、
うれしそうに話してくれました。

「今は表現というと自己表現ばかりで、見てくれる相手への思いやりに欠けているように思うんです。しかし、日本の伝統表現というのは、本来、自分を抑制してでも、相手のために美しく演じようとする。そこには、他者への思いやりに溢れた素敵な美徳があるんです」

「狂言では、歩き方や動きにも型があり、舞台では好き勝手なことはできません。でも、敢えてルールをつくり制約を設けることは、実はもっと充実した表現の喜びを味わうことにもなるんです。それは、参加している子どもたちが、一番よく理解しているんじゃないですか?」


東次郎さんが伝えようとした言葉の意味は、稽古後に充実した表情を浮かべている子どもたちの姿を見るだけ
でも明らかでした。


「将来は自分で考えた狂言をつくってみたい!」

ワークショップが終わっても、名残惜しそうに能舞台から離れない子どもたち……。
伝統文化の大きな力強さに包まれて、古くて新しい魅力的なワークショップが生まれました。




2003/4/01

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