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〜全国の演劇ワークショップ体験リポート〜



「名門劇団が身体ワークショップで新境地を開く!」

文学座サマー・ワークショップ2003 9月コース
 〜セリフを支える「身体」を!〜

2003年9月7日(日) サイスタジオ小茂根にて



池袋から営団地下鉄・有楽町線で3つ目の駅「小竹向原」を下車して徒歩3分。静かな住宅街の中の観葉植物に囲まれたお洒落な喫茶店の地下に、文学座の専用スタジオ「サイスタジオ小茂根」があります。

今回、ワークショップを取材させていただくのは文学座。65年以上の歴史の中で、杉村春子さんをはじめ、数え切れないほどの名優たちを輩出した日本演劇界の老舗です。

文学座と聞くとテキスト(台本)を深く読み込んだセリフ劇をイメージしがちですが、このワークショップでは、意外にもテキストは一切使いません。「セリフ」や「言葉」ではなく、あくまで「身体」にこだわり、数々のエクササイズを通して自分の身体と正面から向き合い、演技に必要な感覚を磨いてゆこうという4日間のワークショップです。

そして、最終日の今日は、これまでのエクササイズを活かして、参加者同士が協力しながらセリフのない1つの作品を作り上げ、発表会を行なうとのこと。一体、どんなものになるのでしょうか?

PM2:55

地下のスタジオには、すでに大勢の参加者が集まっていました。そのほとんどが10〜30代のプロを目指す若者たち。その数、なんと60名!当初は20名の定員を予定していたところ、3倍もの応募があったため、急遽、昼と夜、2クラス30名ずつに分けて行なわれたのです。そして、最後は発表会ということで2クラス合同60名の参加者が全員集合。普段はアトリエ公演が行なえるほどの広い会場も、さすがに満杯で熱気はムンムン。間もなく行なわれる本番と、他のクラスの面々へのライバル心で、参加者の誰もが緊張の面持ちです。

PM3:04

今回のワークショップの講師を務めるのは、今井朋彦さん。文学座の舞台はもちろん、最近では三谷幸喜さん脚本のドラマ「HR」で個性的な教師役を演じ、幅広い年齢層から高い評価を得ています。

今井さんから軽い挨拶があると、早速、この日のワークショップがスタート!まずは全員でウォーミングアップを兼ねたストレッチ。背中、首、腰、肩……。身体のパーツごとに、ひとつひとつ丁寧にほぐしてゆきます。続いては脇腹の筋肉や、腿の裏の筋など、1人ではなかなか伸ばせない部分を2人1組になってストレッチ。

「今日はせっかくだから、なるべく知らない相手と組もうか!」

半数以上が別クラスの初対面だからか、参加する人たちのどことなくぎこちない空気。それを察して、今井さんはみんなに声をかけます。すると、初対面のペアが互いに自己紹介をしながらストレッチをする姿がちらほら。2つのクラスが徐々に打ち解けあって、会場はしだいに和やかになってゆきました。

講師を務める今井朋彦さん

PM3:43

ストレッチを終えると、今日のメインである発表会に向けて、それぞれクラスごとのリハーサルへ。今井さんは今回のワークショップについて次のように語っています。

「僕自身が身体のことに興味を持ったのは3年前くらいからなんです。文学座以外でいろんなところに出演することも多いのですが、現場によって役者に要求されるものって、本当にさまざまなんです。演出家からのどんなニーズにも応えるための準備として何ができるだろう?って考えたときに、身体の問題に気付いたんです」

「いろんな現場を渡り歩き、共演する相手が次々とかわる中で臨機応変に対応するには、“自分がいかに演じるか?”という技術論よりも、そこにいる相手をまるごと受け入れることが大事なんじゃないかと思うようになったんです。つまり、表現の起点は常に相手にあるということ。だから、今回は身体の再認識というテーマとともに、周りにいる他者に意識を向けるということについてもクローズアップしました」

そんな今井さんの掲げるテーマのもと、このワークショップではこの3日間、実にユニークなプログラムが行なわれてきました。

例えば……
 ・目の前の床が“熱い鉄板”とイメージし、その上を歩く
 ・自分の手を“別の生きもの”とイメージし、自由に動かす
 ・自分自身が“鏡”になって、相手の動きを真似する

そして、今日の作品発表では、これらのエチュードを今井さんがいくつかピックアップして構成し、そこにBGMを加えて、約10分ほどの舞台作品として仕上げてゆくのです。

会場の蛍光灯が消され、ほんのりとオレンジがかったライトが照らされると、地下のスタジオは本格的な劇場空間に。参加者のみなさんの空気も、本番モードへと高まってゆきました。

PM3:56

全体の大まかな構成や動きは、すでに全員に伝えてあったようで、この日は実際に音楽を当ててみながら、本番同様の通し稽古。

「多少まちがえても焦らず、堂々とやってください」

今井さんからそんなアドバイスがあると、昼と夜それぞれのクラスに分かれてスタート。参加者の皆さんがそれぞれステージの両端に整列すると、スピーカーからはBGMが流れ出します。

一、街のイメージ

オープニングに流れてくるのは“雑踏”の音。この中で全員が思い思いにステージを横切ります。ある人は犬の散歩をしたり、ある人は綱渡りをしたり。各自が思い描いたイメージのままに歩き、ひとつの街の風景を作り上げてゆきます。

二、空間に文字を書く

続いては、明るく軽快なフレンチポップスの中で、参加者全員の自己紹介。といっても声を出すのではなく、それぞれが手足を使って空中に自分の名前を書いてゆきます。ある人はまるで彫刻を削るように空間を刻めば、ある人はダンスの振りのように、またある人はタップダンスのように足を使って、まさに十人十色の発想で空中に文字を描いてゆきます。

三、リーダーに合わせて動く

笛の音が聞こえてくると、自然と4つのチームにわかれ、それぞれのチーム全員がリーダーの動きと同じ動きをとってゆきます。「ここで大切なことは正確さや綺麗に上手く見せることよりも、その場の空気を皆で共有すること」と今井さん。言葉どおり、チームごとの息がピタリと合うと、簡単な動きでもひとつの巨大な生き物のような大きなエネルギーが生まれるんですね。

四、2人組で息を合わせる

荘厳なコーラスが流れてくると、それに合わせて2人1組で同じ動きをピッタリと息を合わせて動いてみせます。互いの動きは事前に2人がエクササイズで習得したものですが、動き出しと終わりは、その場で互いに息を合わせなくてはならないので、参加者の皆さんは必死です。

五、全員で同じ動きをする

フィナーレはステージの4隅にそれぞれリーダーを置き、向いている方向のリーダーの動きに、30人全員が合わせてゆきます。動いて向きが変わるたびに、リーダーが次々と変わってゆくため、これもやはり集中力と全員でひとつになる意識が大事。でも、30人全員の息が合わさった動きは壮観で、迫力ある華やかなラストとなりました。


PM4:07

ざっと、このような流れで約10分におよぶ作品が完成!それはまるで、ウィリアムフォーサイスのパフォーマンスのようでもあり、華やかなファッションショーでもあるような、とても不思議なステージ。セリフも言葉もないけれど、それぞれの参加者たちの緊張感と汗をかきながらの躍動感は、言葉では表わせない「空間のドラマ」を見事に表現していました。

「昨日、構成だけさらっとやっただけなのに、みんな凄いね!昨日とは目の力が違うよ!」

今井さんも、参加者の皆さんの呑み込みの早さと集中力に驚きの様子。また、自らで構成したパフォーマンスが、彼らの演技によってさらに生き生きとした息吹が吹きこまれたことにも大満足の表情です。

さて、あとは本番を待つばかり。参加者の皆さんの緊張感は高まるばかりで、スタジオのあちこちでは動きのチェックが行なわれ、開演時間のギリギリまで細かい打ち合わせに余念がありません。次第に高まっていく会場のテンション。さてさて、どんな発表会になるのでしょう?

PM4:40

ついに発表会の時間が来ました。それぞれ別々に練習を行なってきた2つのクラスが再びスタジオに集まると、昼クラス、夜クラスの順番でそれぞれ作品を発表。

ライトが当たるステージに、整然とならぶ30人のキャストたち。彼らの中には今回の発表会が初舞台という人も少なくありません。そんな彼らにとっては、照明のまぶしさや、多くの人たちが見守る会場の空気は、緊張に拍車をかけるばかりで、思わず「うわ〜! 緊張するわ〜!」と叫ぶ人も。ところが、客席で見守るもう一方のクラスからは「がんばって!」という声援が。
地下のスタジオの中は、観る側も演じる側もなく、誰もがその場を共有しています。 
そしていよいよ本番がスタート。

スピーカーから大音量のBGMが流れ出すと、リハーサルよりもさらに熱のこもった気迫のパフォーマンスが展開されます。これぞまさに本番ならではの力!そんなステージ上の熱気に応えるように、客席にいるクラスも大きな手拍子で盛り上げます。まるでライブハウスになってしまったかのような熱気に包まれ、スタジオの中はぐんぐんとヒートアップしてゆきました。


PM5:09

発表会が終了し、参加者たちの予想以上の盛り上がりに、今井さんも思わず「こりゃ、カーテンコールの曲がほしかったね!」と叫びました。スタジオの中では、誰もが周りのメンバーたちを称えあいます。1つのことを全員でやり遂げたからか、1人1人の表情は晴れやかです。


PM5:15

最後にワークショップを締めくくりとして、今井さんから挨拶がありました。今井さんも、若い参加者たちの我武者羅でひたむきなエネルギーに触れたことで、多くの刺激を受けたようです。

その後、第一線で活躍する今井さんに向け、次々と質問が飛び出します。

「芝居をしていて楽しい瞬間は?」
「毎日欠かさずやっているエクササイズってありますか?」
「俳優として常に必要なトレーニングって何ですか?」
「舞台に立つ上で必要なメンタル・タフネスを得るにはどうすればいいんでしょう?」

中には、役者になりたくて地方から上京してきたばかりという人も少なくありません。彼らの真剣な表情からは、「私もプロになりたい!」という強い想いがひしひしと伝わってきます。そんな熱い思いを受けて、今井さんも自分の経験談を交えながら、ひとつひとつ丁寧に質問に答えると、最後にエールを込めてこんな言葉を送りました。

「今度、皆さんとお会いするのは、実際にどこかの現場でということもあると思います。その時にここでやったことが少しでも皆さんの役に立ってくれれば、僕もとても嬉しいです。また皆さんとお会いできることを楽しみにしています」

このワークショップで出会った人々が、いつの日か、同じ舞台で素敵な再会をする。
もし、そんな瞬間を私たちが観客席から目撃することができたとしたら、それはとっても素敵なことではないでしょうか。

そんな日がきっと来る。そう願わずにはいられないくらい、参加者の皆さんの顔は誰もが輝いていました。




今回のワークショップの参加者の皆さんでポーズ!!

2003/10/01

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