under


〜全国の演劇ワークショップ体験リポート〜
 



見えない世界が、見える不思議!
「水と油 ムーブメントワークショップ」
2004年6月26日(土) シアタートラムにて




パフォーミングアーツには、様々な表現があります。その中でも歴史も古く、幅広い方々から親しまれている表現の一つに、パントマイムがあります。そして今、日本から新しいパントマイムのカタチが生まれています―――!

今回は、世界でも注目を浴びているパフォーマンスシアター「水と油」のムーブメントワークショップをレポート。最前線で活躍し多忙を極める彼らのワークショップは貴重な機会だけに、参加者の方々のやる気や緊張度もスゴイ!

これまでに類を見ない、新たな発想で生み出される「水と油」の作品の創作手法に触れながら、ラストには、参加者オリジナルのパフォーマンスにチャレンジしようという今回のワークショップは、世田谷区三軒茶屋にあるシアタートラムで行なわれました。

「水と油」は、日本マイム研究所で出会った、おのでらん(小野寺修二)、ももこん(藤田桃子)、じゅんじゅん(高橋淳)が、新しいマイム表現を追求しようと1995年に結成され、後98年にすがぽん(須賀令奈)が加わり、現在のスタイルになりました。高度なマイム技術とダンスのセンスを活かした独特な動きと、シュールさとユーモアが交じり合う不思議な世界は高い評価を獲得。いま、注目度はナンバーワンです。

「ムーブメントワークショップ」の会場となったのは、つい先ほどまで『スケジュール』(6月17日〜27日)が上演されていた舞台。終演直後とは思えないほどに静かな空間でワークショップはスタートしました。

撮影:新井隆弘
18名の参加者の皆さんは、着替えを終えると、おのおの舞台上に上がって身体を伸ばしています。劇場のせいでしょうか?ものすごい緊張感が漂います……。

18:00

「では、ぼちぼちと。はじめますか?」
メイン講師を務めるじゅんじゅんと、アシスタントのすがぽんがやってきました。

「今日は、パントマイムの身体表現や、様々なムーブメントの方法を使いながら動いてみて、皆さんの面白そうな動きを見てみたいし、皆さんにも、面白い動きをぜひもって帰ってもらいたいです。なので、気楽に楽しく行きましょう!」なるほど。『水と油式・身体表現の実験工房』となるわけですね。

まずは身体の力を抜き、仰向けになって呼吸しながらリラックス。手首や足首に、紐が付いているとイメージして、上に引っ張られるようにあげていったり、その紐が切れて下にばたりと落としたり。力を抜きながら自由に身体を動かすことに慣れていきます。

でも、相変わらず会場のトラムは、水を打ったようなシーンとした空気が漂います。皆さんのやる気が緊張につながっているのでしょうか?

「んー。カタイな(笑)。よし、遊ぼう!」
じゅんじゅんの声かけで、メンバーが1つの円になってゲームをすることになりました。

1から順番に、その数字の分だけの人がその場でジャンプします。なのでまずは1人ずつジャンプ。一巡したら、次は2。2人ずつでジャンプします。また一巡したら3。次は4、というように。非常にシンプルなゲームですが、これが意外と難しい。

「しっかりアイコンタクトを取って!」
自分が飛ぶ事のばかり考えてると対応できません。周りをしっかり見て、みんなで飛ぶリズムを大切にしていかないと、すぐに詰まってしまいます。

参加者 「きゃー!間違えたー!」
じゅんじゅん 「はい。間違えた方は、名前をどうぞ!」
参加者 「○○です。スイマセン(笑)」

これまで固かった空気が一気に和らいで、活気も生まれてきました。

18:20

さらに、「この舞台上を歩いてみよう」という言葉に、参加メンバーは全員で思い思いに歩き出します。空間の隙間を作らないように、バランスを考えながら歩きます。やがて、後ろ向きで歩いたり、身体を回転させながら歩いたりと、次々にパターンを変えてゆきます。どんな歩き方でも、人の気配や空間を感じながら歩くことが重要のよう。シンプルな動きにも集中力が必要です。

今度は自分の足を筆に見立てて、地面を擦って線を書きます。まるで書道のように、足筆を使って描くのです。

「かっこよくなくていいよ、大胆に行こう。上にも下にも、もっと流れを持って……」

じゅんじゅんの言葉にのって、参加メンバーたちは、激しくくるくる回ったり、時になめらかに、時に力強く、自由に自分の「筆」を振るいます。こうやってみると、1人1人の動きには、はっきりと個性がありますね。ただ足で線を描くように歩くだけでも、こんなにユニークな動きになるなんて!
「歩く」というムーブメントをさらに変化させてゆくじゅんじゅん。18名のメンバーたちは、じゅんじゅんの手拍子に合わせてストップ&ゴーを繰り返します。やがては、男性だけストップにしたり女性だけストップにしたりと、静と動の空間を分けることで、不思議な空間が生まれてくるんです。

「止まっている人を障害物にして、それを縫うように歩いてみて。障害物に自分自身が影響されながら、それに反応してみて」

18名はストップ&ゴーを繰り返しながら、まるで森や林を抜けるように歩いてゆきます。そのテンポはどんどん激しくなり、舞台全体から高揚感が伝わってきます。

「はーい、ストップ!結構あったまってきたね」
ここまででもかなりの運動量ですが、実はまだまだウォーミングアップなんですね。

19:00

少し息を整えてから、今度は身体分解のエクササイズ。パントマイムのトレーニングで必ず行われる基本的な運動です。

手の指、つま先、ひじ、首、など、身体の細かい部分に神経を集中させて動かしてゆくのですが、これまたシンプルながらも難しい。思わず身体に力が入りそうになるのを注意して、あくまでリラックスしながら意識を集中させることが重要です。

今度は目線と身体の動きを組み合わせたエクササイズ。舞台の上のある地点を自分で定め、そこに向かってまっすぐ身体を進ませていきます。スピードは均一に。目線で、身体からその地点にのびる線を作るように、進んでゆきます。

「視線をいろんな角度に変えてみて。複雑な線を描くように」

見て、動く――。
それだけで、何かを探しているようだったり、何かに導かれているようであったり。まるでドラマが起こっているかのよう。参加メンバーの表情も変わってきます。こんなシンプルなルールで作られる動きだけでも、人間のドラマや見えない線が見えてくるんですから、ホント、不思議です。

19:30
「では、今度は指で線を描きましょう」

指を使って、まずは、「わら半紙」を描きます。指で3〜40センチ四方にまっすぐ線を描いて、四角い形を表現するのです。次に、「新聞紙」、「たたみ一畳」、「自分の部屋」と、サイズはどんどん大きくなります。ここでも大切なのは、見えない線を見せること。四角形の角や直線をはっきりと表現することで、見えないものに存在感を与えてゆきます。
「今度は空間に描こう」

最初は地面に描いたものを、今度は立てかけた状態にするのです。平面的だった動きが、急に立体的になりました。
さらに、次々と声が飛びます。

 「線を長くしてみよう」
 「ジグザグの線にしてみて」
 「うん、今のいいよ。思いきって描こう」
 「自分が描いた線を、またいだりくぐったりしてみて」

一本の線が2次元から3次元となり、それが様々な形になってゆくさまはエキサイティング。複雑な線を描きすぎて混乱してしまった参加者には、すがぽんがすかさずフォローに入って、基本に立ち返るようアドバイスします。

「混乱したら、地面から始めよう。描いた線をどこまで信じて、それに反応できるかが重要だからね」
全員の動きが、徐々に「水と油」の作品のテイストに近づいてきているのがはっきりわかります。
20:00

今度はみんなで長袖のシャツを着る動作にチャレンジします。もちろんパントマイムで……。日常的で簡単な動作も、意識してやってみると案外難しそう。

最初の何度かは普通にシャツを着てみたら、今度は同じ動作を2倍の時間を使って行います。次にはその速度で、大きく着ます。つまり、動作の起伏を大きくしてゆくのです。こんなふうに、日常的な動作に変化を加えることで、非日常的な世界を作り上げてゆきます。

「動きを滑らかに……」
  袖を通す動きが美しい!

「スピードを所々変えて……」
  時間の流れが変わったみたいで、異次元みたい。

「動きに上下を激しくつけてみて」
  ダイナミックな着替えが格好いいですね。

これはまさに「シャツ・ダンス」!基本の動作がシンプルな分だけ、1人1人の工夫やアイディアがはっきり活かされて、個性がぐんときわだちます。

20:20

線を描くという動きと、シャツを着るという動きを使って、参加メンバー全員に自分の作品を作ってもらいました。

 1 舞台奥から線が生まれ、様々な線を描きながら舞台前方に移動し、それが最後に鏡をつくる
 2 タンスをあけ、そこからシャツを取り出す
 3 シャツを着る
 4 鏡で自分を見てエンド

この流れをもとに、各自10分程で自由に創作して発表です。
BGMには、「水と油」ならではの異国的なミュージックが流れ、劇場の雰囲気ががらりと変わってきました。

2人1組にして合計9組が、オリジナルムーブメントを演じましたが、どれも本当に素晴らしい作品ぞろい。ただ漠然と世界を描くのでなく、見えないものが見えてきたり、一つの形が変幻自在に変化したりと、観ている側の感覚も日常と非日常を行ったり来たりするようで、心地のいい不思議気分。この世界はまさに「水と油」の世界です。

遊び心と想像力を刺激する9組の新たな「水と油」が、今日のワークショップの成功を語ってくれました。メンバー同士、お互いの作品にも大きな拍手です。

「ビデオ撮影しておいてよかったー。今度、うちで使わせてもらいますよ」と、じゅんじゅんも嬉しそうに笑います。

最後は、じゅんじゅんとすがぽんへの質問コーナー。
その中でうかがい知ったのは、水と油の作品作りへの姿勢の素晴らしさ。なんと、わずか5秒のシーンを4時間かけて創作したこともあるとか。すごい!

「水と油 ムーブメントワークショップ」は刺激的でクリエイティブなワークショップ。第一線で活躍しているパフォーマーの創作メカニズムに触れられる、とっても貴重な体験となりました。



■ワークショップ後、講師を務めたお二人にお話をお聞きしました。

じゅんじゅん

「同じテーマのワークショップでも、地域ごとに参加者の皆さんの反応が違ったりしてとても面白いですね。ちょっと昔までは、ワークショップというと、まるでオーディションに来ているかのように緊張したり、うまくやらないといけないっていうような雰囲気がありましたけど、今はもっとオープンになってきて、誰もが一緒に創作できるようなリラックスした空気になっているのが素晴らしいことだと思います」

  左:じゅんじゅん  右:すがぽん

すがぽん

「僕は、初めてマイムやダンスをやる方の入門編や、子どもたちにワークショップを行う機会が多いんです。特に子どもは、楽しいって言う気持ちをダイレクトに伝えてくれる。
それを間近に感じられるので、こちらもとても嬉しいし刺激になります。僕はとにかく子どもを始め、たくさんの方々が劇場に足を運んでいただけるような土壌作りをしたいんです。なので、こういうワークショップが劇場に足を運ぶ機会になれば、と。ぜひ、劇場に来て、舞台を楽しんでもらいたいですね」


PerformanceTheater 水と油
公式HPhttp://www.mizutoabura.com/
世田谷パブリックシアター/シアタートラム
HPhttp://www.setagaya-ac.or.jp/sept/
154-0004 東京都世田谷区太子堂4-1-1
TEL03-5432-1526 FAX03-5432-1559



2004/7/14

ワークショップ・レポートでは、今後も全国のさまざまなワークショップを取り上げてゆきます。ご意見ご感想、また「うちのワークショップも取り上げて!」「こんなワークショップを知りたい!」などのご要望がございましたら、こちらまで、どしどしお寄せくださ い。お待ちしています。