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〜全国の演劇ワークショップ体験リポート〜
 



「ドラマが人の心を癒す」

養護施設における1年生から3年生のドラマセラピー/ドラマセラピスト:尾上明代
2004年10月31日(日) 東京都西東京市聖ヨゼフホーム


今回は、「ドラマセラピー」を取材しました。

「ドラマセラピー」は、演劇を鑑賞したり劇を創る楽しさを体験する、通常の「演劇ワークショップ」とは異なります。ドラマ(劇)を演じることで、閉ざされた内面が開放され、心が浄化される「癒しの力」の効果によって、意図的に用いられる芸術療法の一つです。そのため、芸術を体験するというよりも、芸術を通じて心の問題を解決していくことが一番の目的です。

今回取材させていただいたドラマセラピストの尾上明代さんは、過去にDENのインタビューにもご協力いただきました。その記事をきっかけにして、『ドラマセラピーの必要性』や、『日本におけるドラマセラピストの受け皿の現状』についてなど、たくさんのユーザーの方々から貴重なご意見をお寄せいただきました。(詳しい内容は、こちらをご覧下さい)

その後もドラマセラピーに関するお問い合わせが多く、「ドラマセラピー の様子をレポートして欲しい」というご要望によって、このたびの取材が実現しました。
今回は、児童養護施設の子どもたちを対象にしたドラマセラピーです。
児童養護施設とは、児童福祉法41条の「乳児を除いて、保護者のない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせてその自立を支援することを目的とする施設」として、各地に設置されている福祉施設です。

会場となったのは、東京都西東京市にある養護施設・「聖ヨゼフホーム」。この施設で生活している小学校1年生から3年生の10名ほどの子どもたちが、このドラマセラピーに参加しました。

その様子をレポートいたします。

「こんにちは、今日はどうぞよろしくお願いします。」

ドラマセラピストの尾上さんと、施設職員の鈴木さん、宮崎さんが出迎えてくださいました。
「早速、前回の振り返りをして、今日の打ち合わせをしましょう」

2回目となる今日のドラマセラピーの前に、前回のセラピーでの子どもたちの様子を尾上さんが分析し、職員の方からその後の子どもたちの様子を聞くことで、今日のセラピーの目的やプログラムを決めていきます。

この作業はとても重要です。セラピーを行なっている最中、子どもたちは様々なシグナルサインを出しています。それらは、心に大きなストレスを抱える子どもたちが、心を開放しようと努力するうえでの努力や葛藤の証。これを見極めることが、次へのステップや道筋を決める大きな手がかりとなるのです。

前回、尾上さんがお母さん役になって、子どもたちを反抗させたり、甘えさせたりす内容のドラマを行ないました。

“子ども役”を演じて「いい気分」になることを知って欲しいという意図がありました。けれども、子どもたちにとっては初めての体験ということで、すんなりと尾上さん演じるお母さんに接することができる子どもたちと、なかなかドラマの世界に入れない子どもたちとに分かれたようでした。
「今日は、彼らにもっと思い切り反抗させることが目的になるでしょう。あくまで仮説ですが、前回だけではまだ反抗し足りてないと思われます」

「“親に反抗する”という行為の根底には親に甘えている気持ちもあるはずです。親に甘えることができない、或いは親の愛情を信じていないと、“反抗”すらできない。だから今日は思いっきり反抗してもらいたい。そこまでいけたら、そのあとに、きっと気持ちよく素直に甘えられるようになると思うんですよ」

施設の子どもたちは、親子関係に恵まれなかった子どもたちが殆どです。親や兄弟から虐待を受けて、不安と恐怖の中で生活してきた子どもたちが多いため、親に甘えることを知らなかったり、親との愛情関係と恐怖感情とが複雑に同居してしまうケースが多いのです。
このように、心に暗い闇を抱えている子どもたちの心の扉を開くためには、専門的な知識と分析力はもちろん、何よりも子どもたちの気持ちになって、誠心誠意で彼らに向かってい くことが大切です。

「では、いきましょうか」
2階にあるプレイルームに向かいます。
10:30 「レバーのお話」

走り回って遊んでいる彼らに、尾上さんがお芝居を交えてお話を始めました――――。
  レバーの嫌いな子どもがいました。
  お母さんは、レバーを食べない子どもをしかり、
  山へ連れて置き去りにします。
  「レバーを食べるまで家に帰ってきてはいけません!」
  しかし、山のサルたちがレバーを
  食べてくれたので、おうちに帰ってお母さんに
  許してもらいました。

「これをみんなでやってみよう!」

すると、子どもたちは、「怖いママをやりたい!」と、予想外の反応。「怒るママを演じたい人は?」と聞くと、「ハイ!ハイ!ハイ!」と次々に手が上がります。そうであれば、目一杯「怖いママ」になって感情を吐き出してもらうことにします。

親に理由も分からず激しく怒られた子どもたちは、怒られたストレスを、同じように怒るという形で発散することが多いとの話を聞きました。

「お前なんか、山でスクラップにしてやるからな!」
「食べねえと、ぶち殺すぞっ!」

怒ることに集中する子どもたちの表情は、心の中のストレスの重みを感じさせます。怒りと共に発せられる言葉にも、激しさを感じます。
そんな子どもたちに対し、
「え〜ん、こわいよぉ」と、コミカルに答える尾上さん。

すると、場の空気がふっと軽くなります。尾上さんは、子どもたちが余計な緊張感を持たずに、あくまでも遊びの中で開放できるよう、笑いを交えながら相手役の子どもの様子を見て進めて行きます。


11:10 「世界一怖いお母さんと優しいお母さん」

今度は、前回のドラマを継続して行ないます。

子どもたちが、ドラマで演じることに少し慣れてきたので、もっともっと「いい気持ち」で甘えたり反抗してもいいんだよと伝えるために、職員の方が激しく甘えたり反抗したりするデモンストレーションを行ないます。

私(DEN記者)も、「激しく反抗する子ども」という役を演じることで参加しました。 真剣に演技すればするほど、その「ドラマ」に対する子ども達の反応や空気が、ぐっと強くなったように感じました。

「ドラマの中では、遠慮や不安をもたずに、ありのままの姿でいい」ということを知ってもらうためには、こちらが先 にドラマの中で「裸」になって見せる必要があるのです。

そして、いよいよ子どもたちのドラマです。その様子を一部紹介します。


■A子さん(兄弟で入園)

「ねえ、お父さんでもいい?」
A子さんのリクエストで、“地球一怖いお父さん”とのドラマが始まりました。彼女にとっては、お母さんよりもお父さんの存在のほうが、心の中での大きな位置を占めているのでしょう。

  父(尾上)「おい、宿題しろよ!」
  A子    「そんなん、しらねえよ」
  父     「おい、お前は地球一怖い父を馬鹿にすんのか!」
  A子     「お前なんか、怖くねえ」

はじめはひたすらに「反抗」と「拒否」を続けていたA子さんですが、父役の尾上さんが悲しみを見せ、A子さんを詫びるようなドラマを演じるようになると、彼女は少しずつお父さんに歩み寄ってきました。

  A子  「犬と猫買って、学校に持ってかなきゃいけない……」
  父   「買いに行くか?」
  A子  「…………いっしょにペットショップ、行く?」

やがて、猫と犬とともに、4人で暮らそうというストーリーへ――

エンディングのシーンでは、4人で床に寄り添って寝そべります。その時の照れくさそうなA子さんの表情が印象的でした。
しかも、そのペットの役として、決めていたわけではないのに、彼女の弟がすっと入ってきました。ドラマの中ではあるけれど、弟もちゃんと“家族”として存在していることに、家族の安らぎを求める兄弟の絆を感じずに入られませんでした。

気持ちのよいハッピーエンドのドラマになりました。


■B君
(父親が原因による家族破綻があり、入園。兄弟間にも激しいいじめがあったと思われる)

B君のリクエストで“世界一怖いお母さん”とのドラマ。

   母(尾上) 「学校へ行きなさい!」
   B君     砂をぶつけるしぐさ
   母      「痛い!」

B君は、相手のアクションに対して、しっかりとリアクションをします。しかし、ドラマが進むにつれ、相手役との関係が緊密になってくると、たびたび“素”に戻ってドラマの世界を拒絶するようになってきました。

   B君     「勝手に一人でやってて、面白い?」
   母      「お母さん、悲しいよ」
   (素に戻って) B君  「明代さんの映画見てるんだよ」

やがてB君は、困ったような顔をして、ドラマを続けることを拒み、職員の方々がいる場所へ逃げるようにして戻ってしまいました。このような場合には、決して無理にドラマを続けません。1人1人が抱えている問題も性格もざまざま。各人にペースもあります。B君へのなげかけは、ここでストップしました。


11:45 「リズムダンス」

ドラマセラピーのラストでは、ドラマという「虚構の世界」から、「いつもの日常」へともどすために、音楽にあわせて体を動かします。ドラマセラピーで子どもたちが心を開放したり、闇の部分をさらけだしたりできたのは、ドラマが日常と違う空間だからこそ。このまま虚構と現実があいまいになってしまうと混乱してしまうため、ドラマと現実の区切りをきちんとつけなければならないのです。

「じゃあ、またね」
と、笑顔での挨拶。こうして、今日のドラマセラピーが終了しました。


11:50 「振り返り」

尾上さんと職員の方々との間で、今日の子どもたちの様子を、振り返ります。
この中で、B君のことが話題になりました。

B君は、とても複雑な家庭環境で育ってきました。暴力を与えられる恐怖、悲しみや怒りをどこにも吐き出せない思い、甘えたい衝動などを心の中に閉じ込めているため、ドラマの中でシチュエーションを与えられても気持ちが整理できずにいたのではないでしょうか?

尾上さんは、「B君とのドラマの間、ずっと彼の“どうしたらいいのかわからない”という感情がこちらに伝わってきました。私が彼を受け入れる言動をすればするほど、彼は反抗したり、逃げていってしまう。これまでに、ちゃんと受け入れられる経験がなかったために、どうしていいかわからないのかもしれません。さらに言えば、受け入れられることを怖がってさえいるようでした。」という感想を持ったということです。

職員の方は、「いつも甘えるタイミングが悪いB君が、あのドラマのあとすぐ私のところに来て、ずっと私のひざの上に乗って甘えていました。また、(実の)お母さんの暴力があったことを自分から口にしたんですよ。これまで彼は、お母さんのことをまっ たく触れてこなかったのでびっくりしました」と、職員の方も彼の変化に驚きを隠せない様子。

「今回、彼にとっては大きな変化ですね。ドラマの中で、どんな反応をしたらいいのか、戸惑っていたB君ですが、多少なりとも自分が“受け入れられた”あとに、初めて職員の方に“タイミングよく甘える”ことができたわけですね。彼がこのドラマセラピーがきっかけで、日常に取り乱したりすることはないと思いますが、ちょっと普段の生活を注意してみてあげて下さいね」と、アドバイスをおくる尾上さん。

敏感で複雑な子どもの心を事細かに捉え、子どもたちとの関わりにサジェスチョンする尾上さんの言葉には、ドラマセラピーの専門性の重要性を痛感させられます。

子どもたちの心の琴線に近い部分をほぐすことは、一方で、危険をはらみます。知識やノウハウがないままに無理やりこじ開けては、子どもたちの心を傷つけてしまうことにもなりかねません。そのため、セラピーの後の振り返りでその後のフォローを提案するのも、プロの判断が重要になるのです。

ドラマを通して心を開放し、徐々に「いい気持ち」になることに慣れてきた子どもたち。彼らの心が少しずつでも軽くなって、これからの生活にいい影響が現れることを、心から願っています。

そして、心の問題を抱える人々や、精神的な癒しを求める人が急速に増えている現代において、ドラマセラピーを実践する場所が多くなることと、それを導く専門家の育成が重要であることを切に感じさせられました――――。


■ドラマセラピー終了後、尾上さんにお話を伺いました。

Q.ドラマセラピーを志している方々へ、何かアドバイスはありますか?」

A.正規にドラマセラピストになるのは、勉強量も、トレーニングに要する時間もエネルギーも莫大で、大変です。でも「ドラマ」で人の心を癒す、そんな仕事があって、大変だけれどやりがいもあるということを伝えたい!目指す人は是非頑張って下さい。
また、「セラピスト」にはならなくても、その手法を学んで、日常生活や仕事に生かす道も(例えば学校の先生等)あると思います。そういう人は、是非、機会があった時にセッションに自 ら参加し、体験するところから始めてみて下さいね。

尾上明代さんのホームページ  http://dramatherapy.hopto.org/


2004/12

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