under


〜全国の演劇ワークショップ体験リポート〜
 



「1歩前に進むために、半歩先へ」

半歩前に進むためのワークショップ /劇団山の手事情社 

2005年1月13日、23日、30日 梅が丘スタジオ




今回は、劇団山の手事情社の、ワークショップを取材してきました。

劇団山の手事情社は、1984年に早稲田大学の演劇研究会を母体にして、安田雅弘氏を中心に結成。1993年12月より有限会社アップタウンプロダクションとして法人化し、劇団運営を行なっています。

常に新しい表現の手法を模索し、独自の俳優メソッド“山の手メソッド”を確立。独特な身体の手法を使った台詞のやりとりが、詩的な世界を表出し、前衛的でオリジナリティ溢れる舞台を創出しています。また、社会における演劇の可能性を求め、公演以外にも劇団主催の演劇ワークショップなどにも積極的に取り組み、インストラクターの養成にも力を入れています。

DENスタッフがレポートにうかがったのは最終日の3日目。ワークショップリーダーは、山田宏平さんと、山の手事情社2005年度「研修プログラム」を担当する山口笑美さん、野々下孝さん。今回のタイトルは、「半歩先へ進むためのワークショップ」と掲げられていますが、この3日間でどんな“半歩”が実践されたのでしょうか?

13:30

今回参加されるプロ、またはプロを目指している役者の皆さんが続々と入ってきます。参加者の内訳は女性が18名、男性が6名。女性が圧倒的に多いですね。

1日目、2日目とも、前半は身体エクササイズと発声を身体になじませるボイスエクササイズ、後半には創作のグループワークが行なわれるプログラムでしたが、3日目はその総括といった感じで進行するとのこと。また、今回は最終日ということで、後半には山の手事情社主宰で演出家の安田雅弘さんが講師をつとめます。

【ワークショップの流れ】

1 ・ ボディ&ボイスワーク
2 ・ 「マクベス」のテキストに
   ボイスとボディアンサンブル。
 3 ・ 安田氏によるワークショップ


「今日は全体的に警戒心がありますねえ〜(笑)。安田さんや取材の方もいるからでしょう。ただそれも踏まえて、今日の自分の心の動きや身体の状態を、感じて、知ってくださいね」と山田さん。いよいよワークショップが始まります。

まずはボディワーク、「歩く」へ。空間内を全員でランダムに歩きはじめます。

「緊張しているからだをほぐしてあげましょう」
ただ歩くのではなく、体のすみずみに意識が行き渡るように、山田さんがゆるやかな言葉で誘導していきます。肩、首、胸など、参加者は自分の今日の身体を知覚していきます。

このとき、山田さんが“評価しない”という言葉を何度かおっしゃっていました。これはどういうことかというと、「自分の肩はこっているなあ」と思った場合、それについて、「だから今日はダメだなあ」などと評価を下さないということ。その前の「こっているなあ」で留めておく、ということでした。

次に、リーダーの指示に従って、歩きに様々な動きが加えられます。

まず、手をたたいたら、“速く歩く”、“普通に歩く”、“ゆっくりと歩く”、“止まる”、“ジャンプ”の5つの中から好きな動きを、思い思いに行なっていきます。

「それぞれの動きのつなぎ目に気をつけて。」と、山田さん。
さらに動きのパターンも8つに増えます。
「自分の身体でもっと遊んじゃってくださいねー」

だんだんと動くことに慣れてゆく参加者たち……。すると、空間は躍動感を持ちながらも、滑らかに変化していくようになりました。皆さんの息遣いもだんだん荒くなっていきます。

空間が出来上がってきたら、ここでクールダウン。初めにやったニュートラルな「歩き」に戻ります。

その後、全員で一つの数字を作ったり、あるシーンをそれぞれがストップモーションで表したり、全員が一つの“何か”に向かうワークが展開され、グループで表現することへの慣れと楽しさを染み渡らせてゆきます。
その後は、腰を自由に遊ばせるストレッチや、呼吸を声に変えてゆくボイスエクササイズなど、身体と呼吸を一つにしていくためのエクササイズ。さらに、山の手事情社独自の身体表現も加えながら、じっくり丁寧に時間をかけて行なわれます。

時間をかけることで、緊張感をほぐしながら身体と呼吸をなじませ、役者がさまざまな劇的世界に対応するための「下ごしらえ」をしてゆくんです。
15:30

続いては、「マクベス」のテキストを使ったアンサンブルのワークです。

5人1組のグループになり、それぞれが数行の台詞を分担。まずは1人が台詞を喋り、やがて2人、3人と喋る人をだんだん増やしながら、最後には全員で台詞を声にしてゆきます。

次は、それぞれで台詞を読みやすいポーズをつくって読んでみます。さらに、「明るく」とか「激しく」という大まかなコンセプトを持って、ポーズや動き、セリフの読み方などを工夫し、グループごとにアンサンブル表現を創作。台詞を切るポイント、呼吸の前後の気持ちの変化についてなど、グループごとに深い内容のディスカッションがされていきます。

いよいよアンサンブルの発表。その前に、山田さんのアドバイスが飛びます。「コンセプトに溺れないように。で、溺れてもいいけれど、溺れるときは、めいっぱい溺れましょう」
役者がアイデアに思い入れを持ちすぎたり、反対に考えすぎたりすることで、自由な表現ができなくなることを、山田さんは知っているのです。

発表では、勇ましく拳を突き合わせたチームや、戦隊モノ風のチームなど、短時間で作られたとは思えないほどにバラエティ豊かなアンサンブルが出来ました。

一区切りついたところで、また「歩く」ことに戻ります―――。

今回のワークショップには、たびたび「歩く」ワークが入りますが、これは、いろいろなワークによって、自分の身体に起こった変化をチェックする意味があり、興奮や緊張のともなうワークをした後には、ニュートラルな状態に戻すという目的もあります。

その後、曲にあわせて歩く速度を落とし、マクベスのテキストの言葉(「剣」、「血」、「見事」など)のイメージや、感情などを加えてゆくことで、「歩く」というシンプルな動作が、徐々に演劇的になってゆきます。1つのテキストからわきあがってくるたくさんのイメージや奥深い世界が、歩くという簡単な動作を通じて表現されてゆく様子は、まさに演劇実験のよう。これぞワークショップの醍醐味!

16:30

いよいよクライマックス。ここで、ワークショップリーダーは主宰の安田さんに交代します。

「演劇学校や、養成所は自分の場を創ることを教えないから、創り方を知らない人が多い」「自分の身体の自由さに気付き、表現の果てしなさに呆然として欲しい」という話などがあり、演劇に携わることの厳しい現実と、演劇の可能性を伝えるその話の内容に、参加者の皆さんは、真剣な面持ちで集中して聞き入っていました。

「でも、どうせやるなら元気にやって欲しい」と、いよいよ安田さんのワークショップへ―――。


1・こんなしぐさにグッと来る


これは、異性にドキッと感じるしぐさを、まず同性同士で実演し、次に異性にやってもらうというもの。

女性が男性にグッとくるしぐさとして出てきた1つに、“車庫入れをするときに、座席越しに腕を回されるとき”がありました。安田さんが細かいニュアンスを聞くと、“後ろを向いているときの首筋”が、そのツボではないかということが分かり、早速男性側が実践。それが本当にグッとくるものであれば、握手、またはハグ(抱擁)をします。

2・ストリップ

ある“何か”について、性的な興奮を感じてみようという設定のゲーム。

例えば、女性の肘の内側が見えたら興奮するというルール。カーテンの向こう側には女性がいて、男性陣はその前で、今か今かと興奮してる待っているシチュエーションを与えます。チラリチラリとのぞかせる肘に、男性陣は七転八倒。

他に男性がメガネをすると女性が興奮するというルールなども行ないましたが、性的な興奮を、本来なかなか感じない部分にあえて設定することによって、そのギャップが面白く、感じる側も自由にその興奮を楽しみながら表現しています。

「熱狂する彼らを客観的に観る、そこに演劇の一つの力がある」と、安田さんがこのワークのねらいについて教えてくれました。

↑写真は、男性がメガネをかけると女性たちが興奮するというルールの「ストリップ」
理屈ぬきにリラックスして楽しめる内容に、笑い声や活気が溢れ、参加メンバーのボルテージもグングンと上がってゆきます。地道な基礎技術訓練も、遊び心を持って作る楽しさも、俳優にとってはどちらも大切なことなんですね。

18:00

再びリーダーが山田さんに戻り、歩きながら身体をクールダウンさせて、3日間のワークショップが終了。最後に、山田さんが今回のワークショップのコンセプトについて語ってくれました。

「ワークショップには様々な人が集まります。そこで、単に山の手の独自のメソッドを教えるのではなく、自分の世界を広げる準備のようなワークショップをやりたかった。

今回のボディワークとボイスワークはイギリスをはじめとする欧米各国で一般的なもの。このやり方を体験することで、既存の方法に自分が合わせるだけでなく、自分の中からもいろいろな方法が生まれてくるのだという感覚に気付く。

この感覚はどんな世界に対しても応用が利くはずです。新しい世界への“一歩先”ではなく、その準備としての“半歩先”もとても大事なんです」

日本の現代演劇の発展に熱意を注ぐ山の手事情社のワークショップ。現在、プロ養成のための研修生を募集中だそうですので、興味のある方は是非参加してみてはいかがでしょうか?


ワークショップ後、リーダーの山田さんと主宰の安田さんにお話を伺いました。

Q ワークショップの可能性とは?

【山田さん】
それぞれの違いを違いとして、負い目を負わずに受け止めれるようになる場所としてのWSに、いろいろ期待や可能性を感じます。

【安田さん】
演劇を「習い事」ではなく、「一般教養」として捉えて、何かを発信していけるという場所として考えられます。そこに可能性を感じるし、それが大事ですね。

(左から)
山田さん、安田さん、山口さん、野々下さん
 
劇団山の手事情社ホームページ http://www.yamanote-j.org/

2005/02

ワークショップ・レポートでは、今後も全国のさまざまなワークショップを取り上げてゆきます。ご意見ご感想、また「うちのワークショップも取り上げて!」「こんなワークショップを知りたい!」などのご要望がございましたら、こちらまで、どしどしお寄せくださ い。お待ちしています。