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〜全国の演劇ワークショップ体験リポート〜
 


「学んで、感じて、ひたすら実践!」

怒涛の壤晴彦ワークショップ 思い立ったら自己改造
第4ブロック“心の鐘を鳴らす” 〜感情ってなんだろう

壤晴彦(演劇倶楽部『座』主宰) 2005年3月4日(金)  がざびぃにて



今回は、演劇倶楽部『座』を主宰する俳優・ 壤晴彦さんのワークショップを取材させていただきました。

壤晴彦さんは、狂言大蔵流の茂山千作さんに師事したのち、劇団四季に入団。退団後は、蜷川幸雄演出作品をはじめ、国内外の舞台に数多く出演する一方、演出家、声優としての顔も持ち、NHK朝の連続ドラマや大河ドラマなどの演技コーチを務めるなど、俳優の育成にも力を注いでいます。

今回のワークショップは、1ブロック4〜5日間のワークショップを、12月から3月までの間に5ブロック行うというもの。それぞれのブロックには、「声」「語るための基本」などのテーマが定められ、段階ごとに発展してゆく構成になっています。

DENスタッフがお邪魔したのは第4ブロック「心の鐘を鳴らす〜感情って何だろう〜」の3日目。西荻窪の小劇場スタジオ「がざびぃ」で、一体どんなことが行われているのでしょうか。
18:00

参加者のほとんどはプロ、もしくはプロを目指している役者さん。女性15名、男性4名で、10代から40代まで幅広い年齢層の方々が円く並べられた椅子に座り、リラックスした雰囲気でワークショップが始まるのを待っています。

やがて 壤さんがスタジオに入ってきました。ベテラン舞台俳優のオーラに、参加者の皆さんの緊張感と期待感がグッと高まるのが目に見えるようです。
ところで、3日目の今日は以下のような流れで進みます――――。
 1.  エチュード
 2.  九九をしゃべる
 3. シェイクスピアのテキスト

ちなみに、1日目と2日目は「ばか」「おはよう」「じゃ」などの単語だけを使ってのエチュード。その言葉だけで、どんなシチュエーションを演じているのかを見ている人が当てる内容のものだったとか。演じる側も観る側も盛り上がったそうですよ!

壤さんは雑談を交えながら、さっそくスタジオの照明をいじります。蛍光灯が消されて劇場用の照明になると、木目調の「がざびぃ」は雰囲気豊かな芝居のための空間へと変身します。

まず行われたのは、「モノを渡す」というエチュード。

4人が並び、端の人が自分の想像したモノを隣の人に渡します。受け取った人は、どんなモノを受け取ったのか想像して、また次の人に渡していくというゲーム感覚のエクササイズです。

ルールは、何も言葉を発さないこと。

渡す側は、どういうものかをしっかりとイメージし、それを感じて渡すこと。受け取る側は、その人の波動、気配、空気を感じて受け取ることに注意します。端までいったら最後の人から順に、何をもらい何を感じたか感想を話します。

最初の4名が選ばれてスタート。1人目から2人目へと無言のリレーが始まると、そのしぐさに観ている人々の目も集まります。ところが、何度やってもなかなか渡したいモノが受け取ってもらえない様子……。

「なんとなく渡さない。何のためにそのモノを渡すのか、その感情をしっかり持って」「持ち方とか大きさの外見的な形の渡し合いにしないで」

壤さんによれば、これのエチュードは単なるパントマイムではなく、モノを通した“感情”のリレー。曖昧な気持ちでは、感情を見失わせてしまうのです。

うまくいかない参加者には、 壤さんが自らで演じてみせてくれます。 壤さんは言葉だけではなく、すぐに自分で実演してみせることが多いんです。実際に見ることで感じ、心を響かせる。このワークショップの一番の特長です。

その後、感情とイメージをより高めるために、次のようなシチュエーションが加わりました。

  ある王国が滅ぼされて男たちは全員戦死し、女たちだけが残る。
  最後の希望だった少年も殺されてしまう。その少年の死体をリレーする。

少年の死体は、いわば王国の絶望。シチュエーションが定まることでグッと集中力が高まりました。全員の意識を集中して少年の死体がリレーされていくと、次第に空間が王国になっていく様子が感じられます。全員で作られる世界、観ている側もドキドキしますね。

他にも「参加者一人の誕生日プレゼントを隠しまわして渡す」という設定などが行われた後、ここでひとまず小休止。

息が詰まるくらいに集中した時間が続いていたので、「一息入れる」という表現がぴったり。照明も変わって、リラックスムードになります。集中とリラックスの境をはっきりさせることも重要なのです。

19:30
続いては、「ロミオとジュリエット」をテキストに 壤さんの演技論が展開されました。ホワイトボードを前にイスを並べ、レクチャースタイルです。

「ドラマは、本能と論理の狭間(はざま)の緊張感だ」
壤さんが、歌舞伎の「封印切り」という話を例に出します。

他人の大金を預かっている飛脚が、自分の好きな女が売られていくところに出くわしてしまいます。金を払えば助けられるが、預かっている金には封がしてあり、それを切れば打ち首獄門。女は助けたいが、封を切ったら打ち首……。

「女を助けたいという“感情”と、金を払えば死刑という“論理”のなかで揺れる。その緊張関係がおもしろいんだ」と 壤さんの言葉に、聞いている面々も「ふむぅ!」と思わずうなずきます。

このドラマ論を実践の中で理解するために、「ロミオとジュリエット」のテキストへ。テキストは、ジュリエットの死をロミオに伝えるバルサザーの台詞からの抜粋です。

「もうこの世にはいないジュリエットへの悲しみの感情と、ジュリエットの死を伝えるという任務の論理、その狭間で揺れているんだ」と、語る壤さん。

壤さんの一言一言はエネルギーに満ちていて、説明というより即興的な一人語りと言ってもいいほど。参加者もその姿にぐっと引き込まれてしまいます。

さていよいよ実践――――。
まずは感情だけを大切にし、論理を抜いてバルサザーを演じます。
何度か演じているうちに、なかなか思い切った演技が出来なかった人も、徐々に悲哀と興奮に満ちた表現へと変わってゆきます。

今度は、「感情を抜きにして、論理だけで演じてください」という注文が飛びます。論理で演じるとは、その言葉の意味をはっきりさせ、台詞をしっかりと言葉にすること。ただし、ただ読むのではなく、きちんと意味を伝えなければなりません。

感情の激しいシチュエーションに対し、冷静な気持ちになって台詞を言葉にするのは、いささか不自然な感じがするのは当然のこと。んー、難しい!

全員が二つの条件で台詞を終えた後に、今度は、「この二つの共通するものは何だと思う?」と問いかけます。首をかしげる参加者に、「相手を見ていないこと、観察が欠如している」と 壤さんは解説します。

確かに、前者は自己の内側の感情が激しすぎて相手を見られるような状態ではないし、後者はというと、意味は伝わるけれど相手への感情というものは何もない……。

「それでは実際どう演じていくのか、自分で考えてください。」
その先を知りたい!というところで、あえて参加者に丸々任せてしまう 壤さん。演技の分析に気持ちが向かい、言葉を聞くばかりになっていた参加者の目がまた意思を持ち始めます。

いよいよ今日のクライマックスです。

20:45

ここからはロミオ役を前に置き、一人ずつバルサザーを演じます。まずは注文一切無し。参加者はそれぞれ、自分なりに考えたバルサザーを演じます。 壤さんは、“感情”と“論理”のバランスを中心に様々なアドバイスを与えます。


「どうやってここに着た?」
「早く伝えきってしまいたいのでは?」
「場面(台詞)が要求しているスピード感やテンションはもっと高いんじゃないか?」
「走ってきて言って」

ここまで来ると、俳優と演出家の一対一の対話。 壤さんは、1人1人とがっぷり四つに組んで指導します。演技に正解なんてありません。そこにあるのは、もっといい演技をするにはどうしたらいいのか、というテーマだけ。1人1人のバルサザーがもっと輝くように何度もトライします。ひたすら貪欲にその役創りを実験していくのです。

「もう一回やってみよう」「よし、もう一回」

延々と繰り返しても、終わりの無いクリエイティブな時間。
定時が来てやっと区切りとなりました。

「九九が今日もできなかったね、ではまた明日」

エネルギッシュな 壤さんのワークショップは、その瞬間の集中力が高まることで、どこまでも濃密なものになってゆき、時間はあっという間に過ぎ去ってしまいます。芝居創りのおもしろさをとことん感じることのできる、まさに「舞台役者のための演劇ワークショップ」です。

■ワークショップ後、 壤さんにお話を伺いました。

Q 今回のワークショップのタイトルには“自己改造”と言う言葉を掲げられていますが、どういった思いがあるのですか?

A ワークショップは僕自身が発見することがたくさんある時間です。その時間を一緒に体験して、自分の中で何か変わったところを発見できる自己改造の場にしてほしい。そんな願いを込めたんです。願いと言うか、祈りかな。

演劇倶楽部『座』ホームページ http://www.h7.dion.ne.jp/~club-za/


2005/03

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