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イギリスの文化政策vol.2 〜ロンドンで演劇が盛んな訳

海外の芸術文化への公的援助がどのように行われているのかを見てゆくこのシリーズ。前回は、演劇大国イギリスの文化助成の概要を見てみました。今回は、イギリスの中でも最も演劇が盛んな街・ロンドンの援助のありかたをご紹介しましょう。

●イギリス・ロンドンで演劇が盛んな訳は?!

イギリスが、政府主導型のヨーロッパ諸国と民間主導型のアメリカの中間的な形の芸術援助の形が成り立っていることは、前回ご紹介しました。イギリスを4つの地域に分割し、各々の地域には、政府からは距離を置いて存在するACE(アーツ・カウンシル・オブ・イングランド)、SAC(スコティッシュ・アーツ・カウンシル)、ACW(アーツ・カウンシル・オブ・ウェールズ)、ACNI(アーツ・カウンシル・オブ・北アイルランド)という援助団体があります。

各団体は、元の統治組織から芸術助成金をもらい、その資金の運用や公的援助の全体的な方針を作って、中心となって主導してゆきます。そして、彼らには、とても重要な任務がロイヤル・チャーター(特許状)によって定められています。それは、以下の3点。

1、 知識や理解を発展改善し、芸術の実践を理解する。
2、 一般市民が芸術により近づきやすいようにする。
3、 政府、地方自治体、ACW、SAC、ACNIや関連団体と先の目的を直接的、非直接的に協力して行ったり、アドバイスする。

一見、当たり前のようでいて、とても重要で難しい任務です。
日本では、(1)のようなことは言われていても、実際に任務に当たる人自体が知識や理解がなく、言葉だけに終わってしまっているケースも少なくありません。(2)に関しても、やっと近年になって声が上がってきたばかりです。これらのことが、60年近く前から定められていたのですから、なるほど、芸術が育つわけです。

そして、ロンドンが管轄内に入っているのはACEです。ACEには、ダンス、演劇、文学、音楽など8つの部門に分かれた芸術部があり、各部門には専門家がいます。そして、実際に現場で活躍しているアーティストもこの委員会の中にいるので、机上の空論ではなく、実践的な助成の方針を打ち出すことができるようになっています。

ACEから委託され、実際の資金振り分けなどの実務を担い、イングランドを10地域に分割して治めているのがRAB(リジョナル・アーツ・ボード)です。ロンドンは、RABの1組織であるLAB(ロンドン・アーツ・ボード)の管轄にあり、130前後の芸術団体やアーティストに対して助成を行っています。1組織に対して、5千ポンド〜5万ポンドもの助成金が出るというのですから驚きです。

また、WCC(ウエストミンスター・シティ・カウンシル)という、ロンドンの中でも最も芸術団体が集まっている市内中心部を管轄している地方自治体があります。彼らは、地域住民だけではなく、ロンドンへの来訪者も含めて芸術助成を行ってゆくという、ちょっと特殊で難しい立場にあるようです。なんといっても、全国規模、世界規模の芸術団体が集まる街ですから、地域住民さえよければ、なんて考えは通用しないというわけです。

WCCが芸術助成を行うかどうかの判断基準は、とても明確です。その組織やプロジェクトが、地域社会に関係あるかどうか、そしてその活動を市民が願っているかどうかです。この2つの判断基準をクリアしたものに、助成が行われます。しかもその募集の間隔は非常に短く、年に4〜5回、図書館などに張り紙が出され2〜3ヶ月後の援助を求める団体が応募できる仕組みになっています。

窓口が広く、募集の回数も多い、しかも「市民が願っているかどうか」という最も忘れられがちで、でも最も重要な部分が判断基準になっているのですから、水準の高い芸術が生まれてくるのもうなずけます。働く皆さんは大変ですが、世界中の演劇ファンには何ともありがたい存在です。

また、観光客を視野に入れるとは言っても、やはり地元の方々が楽しめない街にはどこか寂しさが漂います。そこで、WCCでは地元住民に向けた面白い助成を行っているようです。それは、「レス・カード」。

外部のカード会社を使って、住民用にカードを発行します。そして、WCC地区内で、レス・カード・システムに加入している美術館や劇場などでこのカードを見せると、10〜50パーセントの割引が受けられるというのです。割引をした美術館や劇場は、後で割引分をWCCに申告、請求すれば、芸術助成金から差額を支払われるというシステム。いいお芝居を割引価格で観られるとあれば、どんどんと劇場に足を運びたくなります。また、人がたくさん来る劇場には活気があふれ、いい作品も生まれやすくなるというものです。

演劇のメッカ・ロンドンが長く高水準の作品を作り続けられる理由が、1つ分かった気がします。


参考文献
・効率文化施設職員のための制作基礎知識(出版:財団法人地域創造)
・文部科学省ホームページ:
 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpad200001/hpad200001_2_107.html


(文・ O)2006/9/18