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アメリカの芸術教育普及プログラム・前編

アメリカで、劇場や美術館、さまざまな芸術団体(劇団・ダンスカンパニー・オーケ ストラ)が行なっている教育活動が、1990年代から急激に活発化しているのをご 存知だろうか。

その内容は、国公立の学校に関連したものや、芸術普及のための非営利活動など多種 多様。しかし、よく見てみると、こうした活動には大きく2つにわけられる。 キーワードは……
         ・「Learn Through Art」 (芸術を通じて学習する)
         ・「Learn Art」 (芸術を学ぶ)

今回は、そのうちの1つ、「Learn Through Art」をクローズアップしてみよう。

70年代に景気が低迷したアメリカでは、全米各地で行われていた芸術授業を経費削 減のために次々と廃止したため、市民の芸術文化レベルは驚くほど低迷してしまっ た。そんな状況に危機感を感じた関係者は、それぞれで非営利団体を次々と結成し、 自らで芸術教育を行うようになった。その多くが、「Learn Through Art」である。

代表的なのは、グッゲンハイム美術館の教育担当課である「ラーニング・スルー・ アート(LTA)」。美術のみならず様々なジャンルのアーティスト(芸術家)を公 立小学校へ派遣して授業を行う。グッゲンハイム美術館が運営母体となってはいる が、今では独立した団体と変わらないほどのシステムが完成している。

LTAの授業の特徴は、国語・算数・理科・社会などの主要科目の学習を、より効果 的にするためのツールとして芸術を活用する点だ。

アーティストの派遣を望む学校は、LTAのプログラム・マネージャーとのミーティ ングを重ねながら、「どの学年の何の科目の何の学習をクローズアップするか」を絞 り込む。例えば「3年生の算数の分数の学習を、芸術授業とリンクさせる」な ど……。分数と芸術?イメージ的には、とうてい結びつかないところが興味深い。

学習テーマが決まると、LTAに登録されているアーティストの中からふさわしい人 材が選ばれる。「分数」のテーマならば、例えばパーカッショニストによって、リズ ムの練習からスタートする。なるほど、4分休符とか、2分音符と言われると、音楽 と分数が結びつくではないか。その後、拍子の数え方、ガラクタ打楽器での演奏会、 音符と楽譜の指導、ジャズと宮廷音楽の比較鑑賞と実践など……。分数学習の進度に あわせた音楽授業を進め、科目の敷居を越えた授業の展開を行なうのだ。芸術を通じ て、様々な科目学習をスパイラル(らせん状)アップさせるという狙いは、実にユ ニークで的確である。

LTAは、学校側の教師へのトレーニングにも力を注いでいる。

芸術的授業は、「何に焦点を当ててどんな学習をするべきか?」を担当教師が決定 し、「芸術家に何を教えてもらうか?」、「それを自分の領域にどのようにつなげて ゆくか?」をそれぞれが考えて理解しなければならない。そうでないと “やりっぱなし”になってしまい、効果は半減どころか10分の1以下に低下して しまうのだ。芸術を活かすための工夫と努力を、学校側の教師1人1人に十分認識し てもらうことが重要なのである。

LTAの場合、芸術家による授業は、1回につき90分。それを、1テーマにつき 22週間(約半年)、週1日3クラスで行われる。しかし、授業中の担任教師の役割 や、授業レベルなどは、LTAが全て設定するわけではなく、学校側の教師と綿密な 打ち合わせが行われ、ニーズに合わせてカスタマイズされる。

教育プログラムを創りあげるには、教師の目的意識と創造力が要求される。LTAで は、何度もの打ち合わせによって、プログラムの方向性を教師にゆだねることで、 「芸術教育用トレーニング」を彼ら1人1人の身につけさせているのだ。もちろん、 この過程で鍛えられた教師は、LTAのプログラムが終了したのちも、芸術を普段の 学習に生かすための工夫や努力をするだろう。こうして、芸術の継続性を目指してい る。

行政と芸術家、学校と芸術家という関係が、「スポンサー」と「出入り業者」の関係 になりがちな日本の状況を考えると、あまりにも対照的である。

日本の教師や財団関係者は、「芸術家のレベルが低いから実現できない」と嘆いてい る。そして、芸術家たちは、「企業や行政からの援助が少ないから成長できない」と 嘆いている。日本の芸術教育を考えると、この本末転倒な責任の擦り付け合いに、そ ろそろ終止符を打つべきではなかろうか。LTAから学ぶのは、地球の裏側に住む 私たちでもあるのだ。

次回は、芸術普及教育活動におけるもう1つのキーワード「Learn Art」についてご 紹介します。

2001/10/01   





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