|
|
|
アメリカのNPO YCA
アメリカでは、1960年代以降、「NPO(特定非営利団体)」という法人形態が 社会に浸透していく過程で、数多くの芸術機関がNPOとして設立、運営されるよう になった。 アメリカの芸術NPOは、文化施設や芸術団体を運営するだけにはとどまらない。芸 術文化の根底を支え、アーティストを育成するために、ありとあらゆる種類のNPO が存在している。 若手作曲家向けの奨学金支給や演奏会サービスなどを行なう団体、若手脚本家を発 掘、育成する団体、ビジネスマンのノウハウを芸術機関に提供する団体などなど、活 動の目的や内容は非常に幅広い。これらのNPOは「サービス・オーガニゼーショ ン」と呼ばれ、多様な芸術活動の根底を支えているのである。 今回紹介する「ヤング・コンサート・アーティスツ(略称YCA)」も、その典型的 な例である。 YCAは、1961年にスーザン・ワズワースによって創立された。活動の目的は、 若くて有能な演奏家を発掘し、演奏の機会を与え、世に送り出すことである。これま でのYCA所属のアーティストを見ると、リチャード・グード、ドーン・アップショ ウなどの一流アーティストの名前が並ぶ。日本人では岩崎洸、今井信子、東京クワル テットなどなど。その数は160人余り。こうした世界一流のアーティストがYCA によって見出され、巣立っていったのである。 そして、YCAの活動で最も興味深いのは、ミニ・レジデンシー(アーティストの小 規模な滞在システム)と呼ばれるプログラムである。 日本でも美術の分野では、アーティスト・イン・レジデンシー事業が実施されている が、演奏家や作曲家、俳優、ダンサーなど、あらゆる分野のアーティストが、ある一 定期間、特定の地域に滞在して、地元の市民やこども達にワークショップ活動などを 行なうレジデンシー事業はあまりない。 アメリカでは、アーティストが学校に派遣され、数週間から数ヶ月にわたって滞在 し、芸術のレクチャーや生徒と一緒になったワークショップ、作品制作などを行なう プログラムが、近年活発に行なわれている。YCAのミニ・レジデンシー・プログラ ムは、その縮小版である。演奏会などのスケジュールに合わせて、YCAのアーティ ストが、学校や教会、図書館などを訪問し、レクチャーや実演、ミニリサイタルなど を行なう。多くの場合、本番のリサイタル前の数日間に行なわれ、内容や対象は多岐 にわたっている。 日本でも、1998年のNPO法案可決後、NPO団体は数を伸ばしているが、芸術 分野での普及は非常に少ないのが現状である。最大の理由は、こうした活動を始める 「起業家」が少ないことと、そのための財源確保が難しいことだ。 日本において、こうした事業が実現できるのは、公共ホールだけである。日本におい ての文化予算は、約9割が地方自治体によるもの。しかし、その予算のほとんどが、 文化施設の整備と維持費に使われてしまう。結果、「小屋(ホール)は立派だが、内 容は最悪」という一般市民の怨嗟の声があがっているのだ。もし、予算のごく一部で も、芸術ソフト、特に若手アーティストの育成に振り分けられれば、YCAのレジデ ンシー事業のように、地域に根ざした文化活動を展開する可能性は残されている。 「アメリカで、子ども達のためにこんなにレジデンシー・プログラムをやっているの に、自分の生まれた日本でそういうことが全然できないのは残念」とは、YCAで活 躍するマリンバ奏者、名倉誠人さんの言葉。 学校の完全週休2日制によって、芸術教育の入り込む時間がさらに少なくなった今、 YCAのような活動は、必ず必要になってくるはずである。 |
|||||
|
(文・O)2001/3/18
|