アメリカオペラに続け!
アメリカと聞いて思い浮かぶのがハリウッド映画とブロードウェイミュージカルだが、実はそれ以上に元気なのが「アメリカオペラ」である。
1960年代後半から始まった米国内の芸術の拡大は、90年代後半の過当な競争や
連邦政府からの援助の減額、芸術家養成が追いつかないことなどから、横ばい傾向になっていた。
しかし、そんな伸び悩みの時代の中でも、アメリカオペラだけは衰えることをしらず、発展しつづけているのである。
その理由として挙げられるのが、民間で運営されている点である。ヨーロッパのほとんどのオペラが国営か準国営、あるいは地方公共団体によって運営されているのに対し、アメリカのオペラは、ロサンジェルスオペラやケネディセンターのような施設を
除いて、そのほとんどが一般の人々からの出資で設立運営されているのである。
しかも、専門職であるアートマネージメント担当者が総支配人としてトップに立ち、他のオペラ団体との共同制作や、歌手との短期契約、徹底したマーケットリサーチと、効果的な宣伝、他の団体との美術装置の共用など、経済効率の高い運営方式を実
現させてきたのである。
ただし、この民営方式に対して、「問題あり」と批判する人も少なくない。民営であるがためにオペラ制作が商業化し、客受けを狙うがあまり、芸術性の高い“真面目な作品”が日の目を見ない、というのが主な理由である。しかし、入場料と民間寄付に 依存することで、オペラ団体とコミュニティとの連携を強め、一般の人々への普及を可能にしているとして、アメリカオペラ関係者はこの運営方法に誇りをもっている。
アメリカ最大のオペラ共同体である「オペラアメリカ」の発表によれば、オペラ団体
の総収入のうち、営業収入が54.7%、民間寄付が39.3%と大半を占め、公的支
援はわずか6%にすぎない。これらの豊富な資金を使い、600万人といわれるオペラ愛好家人口をバックに、マーケットを巨大化してきた。そして、多くの芸術家に活
動の機会を提供し、そのことが世界中のトップオペラ芸術家を惹きつけ、世界最新の
オペラ歌手教育の成果とあいまって、舞台の質を高めながら観客を増加させるという、素晴らしい循環を引き起こしているのである。
また、アメリカ人作曲家による新作が次々に作られていることも、アメリカオペラの 発展の要因となっている。70年代には16作品しかなかった新作が、80年代後半には141作品に達しているのである。しかも、これらの新作は大都市だけで作られたのではなく、人口の少ない地方都市からも大量に発信されているのだ。
勿論、新作よりも、ヨーロッパの古典作品のほうが知名度も高く、確実に観客を動員できる。しかし、一方で、アメリカ人によるアメリカを題材にした作品や、アメリカ
的な感覚を持った作品は、特に若者たちを惹きつけ、今日では18〜24歳層の観客
が増大している。ここが、観客の高齢化に悩むヨーロッパとは明らかに違う部分である。
市民たちの小口寄付、年間37万人のフルタイム労働者に匹敵する労力を提供しているといわれるボランティアの動員、地方の小都市でも存続を可能にしている観客動員率など、全ては地域との結びつきによって可能となっている。市民たちが、地域のオペラ団体を自分たちのものとして熱狂的に支持し、支援する土壌が、長い時間をかけて作られてきたのである。
1997年、日本最初の本格的オペラ劇場として開設された新国立劇場。莫大な資金を投入し、多くの話題をもたらした5年前から、一体何が変わったのだろうか。日本の国民は、どれだけオペラを観ただろうか。どれだけ国民にオペラを始めとする舞台芸術が浸透しただろうか。海外との違いに焦りを感じはしても、「土壌が違う」と諦めてはいけない。このアメリカの民営方式の中には、日本の芸術振興に役立つ、たくさんの種が含まれているはずである。
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